2018.06.29

これからの時代のニュースタンダード。「理想の組織のつくり方」

CRAZYのトップと他業種のトップが人生観・組織哲学を語るTOP LIVE。第6回目のゲストは、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香氏だ。「日本を代表するCHRO(最高人事責任者)」としての活躍を裏付けるように、日本の人事部HRアワード2016 個人の部・最優秀賞受賞も手にしている。働き方改革真っ只の今だからこそ聞きたい、「未来の組織」の在り方とは。会場が深い共感に包まれた、幸福で濃密な90分の、前編。

「分離」こそ、組織が解決するべき課題。

吉田勇佑(以下、吉田):今回のTOPLIVEのテーマは「不確実な時代を生き抜くために、組織には何が必要なのか?」です。会場からは、働き方改革についての見解を知りたいという声も上がっていました。

写真右)島田由香(Yuka Shimada)氏 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長 慶應義塾大学総合政策学部(SFC)在学時に人や組織に興味を持って以来、一貫してHR領域でのキャリアを重ねている。パソナ、日本GEで人事を経験した後、2008年にユニリーバへ。複数部門のHRパートナーを経験した後、2013年に取締役人事部長就任。社内外に大きな影響力を持つ、日本を代表するCHROのひとり。

島田由香氏(以下、島田氏):私自身は、働き方改革は、生き方を決めることだと思っています。長時間労働は悪だとも言われますが、とにかく楽しくフロー状態になってるにもかかわらず「時間が来たので終了してください」と言われるのも嫌じゃないですか。

働く時間の長さや、残業の有無が本質的な問題ではないんです。人間は、自分が「やりたい!楽しい!」と夢中になれることなら、良いエネルギーが出ていて病気になんてならない。

むしろ、納得していないことを強制されるとか、理解できていないまま、やらされる状況が続くことがよくないわけです。自分の本心と肉体が分離されたまま酷使するので、病気になってしまう。

本来議論するべきは「本心と肉体の分離」なのに「長時間労働はよくない」「残業を減らせ」という議論になっているのは、もったいないなと思っています。

森山和彦(以下、森山):まさに「分離」がひとつのテーマだと思います。結局、分離すればするほど、何をやっても不満しか出ないと思うんです。

吉田:具体的にどういうことですか?

森山:例えば、顔を知っている相手には、文句って言いにくいじゃないですか。でも、知らない相手だったら言えてしまう人は多い。会社で言えば、社長との距離が遠くなればなるほど、つまり関係性が分断すればするほど、何を考えているのか分からなくなって、意思決定に賛同できず、なんでも不満に思ってしまう状態が起こります。

なぜかというと、そこに信頼がないからです。顔が見えない・相手のことが分からないと、信頼はしづらい。だからこそ、信頼をつくることが大事なわけですが、実は信頼のつくり方は時代とともに変化しているんですよね。

日本の高度経済成長は、国のあり方そのものがビジョンでした。だから、究極的には会社毎にビジョンは要らなかったのかもしれません。誰もが盲目的に来るべき未来を確信できるほど、経済も成長していたので。

でも今は国として、昔のような経済成長が見込めないので、大きな流れに身を任せれば良いというわけにもいかない。さらに、一人ひとりが人生のビジョンを持って多様化してきているわけです。

会社という組織を経営する観点からすると、非常に難しい時代です。ただひとつ言えることは、多様になればなるほど何が必要なのかと言えば、高度な信頼関係をベースに経営をすることなんです。

写真左)森山和彦(Kazuhiko Moriyama) 株式会社CRAZY 代表取締役社長 中央大学卒業後、人材教育コンサルティングのベンチャー企業に入社。トップセールスを記録し、大手からベンチャーまで幅広い企業の経営コンサルタントとして活躍。1年間の起業準備期間(世界放浪期間)を経て、2012年7月に株式会社CRAZYを創業した。CRAZY WEDDINGという今までに無かったウェディングサービスで急成長。経営の第一優先を健康とし、毎日3食手作りの自然食を提供する他、全社員で世界一周旅行を行うなどユニークな経営をしている。

「パ」を「ラ」に変える。「心配」じゃなくて「信頼」をする。

島田氏:私自身がいつも伝えていることと同じで、本当にびっくりしています。私の場合は、心配の「パ」を「ラ」に変える。「心配じゃなくて、信頼」といつも伝えています。

IMD北東アジア代表の高津尚志さんにこの話をしたら「これこそがパラダイムシフトだね」っておっしゃったんです。それ以来、「心配じゃなくて、信頼」の話をする時に“ これが本当のパラダイムシフトです ”って高津さんのエピソードと共にお伝えしています。

すべての人が良いことをしようと、ベストを尽くそうとしている。ですが、森山さんの言う通りで、見えないと不安なんですよね。信頼できず、疑ってルールをつくる。そのルールを守れないならと、また別のルールをつくる。そうやって管理していくんです。これこそが「分離」を生む原因だと思います。

吉田:なぜ、信頼できないこと・分離を生むことが、問題なんでしょう。例えば、ルールで縛って成果を上げさせたとしても、それで収益が出て社員に分配できるなら良いという考え方もあると思います。

森山:良い観点ですね。例えば、経営者の長年の悩みってなんだと思いますか? ずっと同じで、「どうやったら社員がうまく働いてくれるのか」というマネジメントについてなんです。

一方で、社員側の悩みも変わらないですよね。「リーダーについていけない」「会社が何を考えているのか分からない」など。結局これって分離そのものなんです。

お互いのことが見えない、分からないから起きることで、永遠に繰り返される、螺旋構造とも言えるかもしれません。この構造がサステナブルでないこと、繰り返すことで組織が疲弊していくのが問題だと思うんです。「一体いつまで続く話なんだ!」って思いませんか。どこかで止めなきゃいけないですよね。

「優秀な社員を入れたら」「社員の質を改善したら」。こういった問題提起は、本質をすり替えていて、結果として「分離」の解決にはなりません。組織として「分離」に向き合えるのかどうかが解決のポイントだと考えています。

島田氏:全く同感ですね。それから管理される組織で働きたい人や、指示されることを求める人がいるのも事実ですよね。

その場合は、ルールで管理する組織であっても、お互いのニーズが合っているのでハッピーかもしれません。それはそれで良いですよ。でも、私はそれでは満たされない。働く側としても、経営側としても。

だから、変えたいと思ったんです。自発的にアクションをして、判断ができて、次のアクションにつなげられるように。つまり「自律」できた方が私は元気だし、そういう社員やチームの方が、私は満たされるんです。自分を満たしたいし、自分が満ちる組織にいたい、そんな組織をつくりたいと思っていますね。

吉田:ありがとうございます。島田さんから、「自分が満ちる組織に」というお話しが出ましたが、改めておふたりの思う「理想の組織のあり方・チームのあり方」について教えてください。

「知性の高い組織」「自律したメンバーが集う、ティール組織」。

森山:せっかくなので、みなさんへのアイデア提供も込めて答えたいと思います。普段僕はこういうことは言わないんですが「知性の高い組織」が良いなと思いますね。

吉田:そんなキーワードが出てくると思わなかったので、驚いていますが……なるほど、面白いですね。具体的にはどういうことですか。

森山幸せに生きること・働くことは、後天的に獲得できるんです。それはつまり、知性だと言えます。知性を身につけた上で、自分たちの組織について語り合うことができたら、素晴らしいと思うんです。

写真左)吉田勇佑(Yusuke Yoshida) 株式会社CRAZY採用責任者 明治大学卒業後、ITベンチャー企業に入社。広告営業や新規事業、経営層育成プログラムに携わる。CRAZY WEDDINGで結婚式を挙げたことを機に、株式会社CRAZYへ初代人事として転職。3年半で65名を採用し、社員数は総勢90名へ。現在はCRAZYの教育制度・人事評価制度の設計のみならず、他企業向けの組織コンサルティングも手がけている。また学生団体SWITCHとNPO法人SETの創設者。

島田:今森山さんが話している「知性」とは、勉強ができるとか頭が良いとかではないですよね。それがすごく大切なポイントだと思います。

森山:「知恵」って言った方が近いのかな。

島田:「Wisdom」とか、後は「心の知性」でしょうか。表現は難しいですけど、共感します。私の理想の組織は、絶対ではなくあくまで一例ですが「Teal組織」ですね。これはひとつの理想だと思います。

ティール組織は、先ほどお話しした「自律」があってはじめて可能になる組織状態です。メンバーは自発的にやりたいことに取り組み、メンバー同士のつながりの中で新たなコラボレーションやイノベーションが生まれる。

ハプニングはネガティブなことではなくて、嬉しい出来事として受け止められる。ハプニングをきっかけにまた新しいことが生まれるような組織です。とにかく、すべての物事が良い風に連鎖していくんです。

もちろん、同じ場所で顔を突き合わせて働かなければいけないなんてことはなく、2拠点とかリモートは当たり前。その人が持っている、能力も知性も、そして可能性やパッションを余すことなく使える。そして何より、「I’m happy!」って思える組織ですね。

組織づくりは終わりがない。「全方位的」であり「旅路」である。

吉田:理想の組織・チームについてうかがってきましたが、理想に近づくために取り組んでいらっしゃることがあれば聞かせてください。

島田:私は何かひとつ取り組むことで、理想の組織を作れるとは思っていなくて、やれることは全て「全方位的に」やることが大切だと思うんです。

いつまでやってもたどり着けないかもしれない。でも「理想に近づくために、まず自分は何ができるかな」ということを考えられる場を、会社の中で持つことです。

私たちがついついやってしまうことのひとつに、「会社ってさ」という愚痴があります。でも、誰かのせいにしたり何かを批判したりすることは、巡り巡って、自分への批判でもあると気づいて欲しい。

会社というのは人の集合体で、自分もその中のひとりです。そう考えると、会社と自分は、本来は分離できないはずなんです。嫌なこともあるし、上手くいかないこともある。それに対して愚痴を言っても構いません。でも、ずっとそう言って一生終わるんですか?それをいつまで続けますか?

だからこそ愚痴ではなく、何か取り組んでみようと思える場づくりに私は一番力を入れています。例えば、MITのオットー・シャーマー博士によって提唱された「U理論」をもとにしたトレーニングを4年前から取り入れています。

すると、環境も含めて、自分の目の前で起きることは、全て自分がつくり出していると気がつくんです。社員一人ひとりが、他人や環境のせいにせず「自律」することにつながっていきます。

森山:僕は、組織開発って「旅路」だと思うんです。島田さんがお話しされていたように、終わりがない。

自然と同じで、ずっと形を変えて成長し続けるようなイメージです。自然って、完成することがないですよね。組織も同じで、ただ旅を続けていくことだと思うんです。

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※CRAZYは一緒に働く仲間を探しています

編集:水田 真綾 写真:浦口 宏俊 

伊勢真穂MAHO ISE

リンクアンドモチベーションにおける約8年間の組織人事コンサルティング経験を経て、フリーランスとして活動中。組織変革の知識と現場経験を豊富に持つため、HR領域における取材依頼が多い。「Forbes JAPAN」や「HR2048」といったビジネス系メディアでの執筆を行う。


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