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100人が熱狂! 漫画『キングダム』の名シーンから読み解くリーダーシップ〜Yahoo!アカデミア学長✖︎CRAZY社長

東京のど真ん中永田町に集まったのは、青年漫画『キングダム』*1に魅せられた大人たち。彼らがこの漫画に熱中するのは、これがただの漫画ではないからだ。登場人物がそれぞれのリーダーシップを発揮して戦う様子は、ビジネスと重なる部分が多い。

あらゆる業界のトップを迎えて語り尽くす「TOP LIVE」第3回の登壇者は、『キングダム 最強のチームと自分をつくる』の著者であり、Yahoo!アカデミア 学長の伊藤羊一氏。株式会社CRAZY代表取締役社長の森山和彦と共に、「キングダム」の名シーンから現代に必要なリーダーシップを読み解く。

ビジネスという戦場で生きる大人たちへ。応募者殺到大反響に終えた伝説のイベント「キングダム経営論」のレポートをお届けする。
※一部ネタバレの内容となっておりますのでご了承ください。

イベント実施日 2018年2月5日(月)

登壇者
伊藤羊一(Yoichi Ito)氏
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト/Yahoo!アカデミア 学長
東京大学経済学部を卒業後、日本興業銀行へ入行。企業金融、事業再生支援に従事。2003年プラス株式会社に転職。流通カンパニーにてロジスティクス再編、グループ事業再編などを担当し、2011年執行役員マーケティング本部長に就任。2012年からは同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括した。その後、2015年4月にヤフー株式会社に転職し、次世代リーダーの育成を行う。現在はグロービス経営大学院でリーダーシップ科目の教壇に立つほか、IBM Blue Hub、KDDI ムゲンラボ、MUFG Dijital アクセラレーター、Code Republicなどのインキュベーションプログラムでメンター、アドバイザーを務める。書籍に『キングダム 最強のチームと自分をつくる』。

森山和彦(Kazuhiko Moriyama)
株式会社CRAZY 代表取締役社長
中央大学卒業後、人材教育コンサルティングのベンチャー企業に入社。トップセールスを記録し、大手からベンチャーまで幅広い企業の経営コンサルタントとして活躍。6年半勤めたコンサルティング会社を退職後、1年間の起業準備期間(世界放浪期間)を経て、2012年7月に株式会社CRAZYを創業。CRAZY WEDDINGという今までに無かったウェディングサービスを発表し急成長。経営の第一優先を健康とし、毎日3食手作りの自然食を提供する他、全社員で世界一周旅行を行うなどユニークな経営をしている。

モデレーター
吉田勇佑(Yusuke Yoshida)
株式会社CRAZY 採用責任者
参考記事「採用もCRAZYに。徹底して人生を共に考える『ライフプレゼンテーション』とは」


伊藤羊一(以下、伊藤)氏:こんにちは、伊藤羊一です。ヤフー株式会社で次世代リーダーを発掘して育てることを目的にした「Yahoo!アカデミア」の学長を務めています。もともとキングダムは好きだったので、出版社からお声掛けいただいて昨年の6月に『キングダム 最強のチームと自分をつくる』という本を出しました。

森山和彦(以下、森山)株式会社CRAZYを立ち上げて代表をしています、森山和彦です。僕は最近キングダムを読まないようにしていて。読み始めると止まらなくなって、仕事に支障が出るからです(笑)。本日はどうぞよろしくお願いします!

吉田勇佑(以下、吉田):本日モデレーターを務めますCRAZYの吉田です。キングダムとは、中国春秋戦国時代*2が舞台であり、後に秦の始皇帝となる「政(セイ)」と、秦の若者「信(シン)」を中心に、中国統一が描かれている物語です。最初にお二人が注目するキングダムの名シーンを話していきましょうか。

伊藤氏:詳しい方は分かると思うんですけど、32巻の「蕞の奇跡」*3。国が攻め込まれて大変なときに、援軍が本当に来るかどうか分からない中で、きっと来てくれると信じて皆んな戦うシーンですね。話しながら泣きそうになっているんですけど(笑)、別の戦いをしていた楊端和*4率いる山の民が「8日間で来い」と言われていたのに、7日で来てくれたんですよ。山の民*5は「うちのボスはめちゃくちゃだ」と言っているけど、楊端和は「何言ってんの?」と涼しい顔をしている。仲間の危機に「行くでしょ!」とちゃんと来てくれるんですよね。

森山:3巻の口頭契約で駆けつけてくれるのは、すごいアライアンス*6ですよね。ビジネスとしてどうアライアンスを取るかは大切で。山の民は秦国に対する恨みから、もともと政たちを処刑するつもりだったじゃないですか。でも政の目を見て楊端和は見極めたんですよ。契約だけじゃない「信頼」という関係性をとることは、大きな競争力になると思いましたね。

伊藤氏:2人が結んでいるアライアンスは、信頼関係もあるけれど、もっと自由で広い世界を見たいというビジョンで繋がっているとも思うんですよね。ビジョンの大事さを感じます。

「桓騎を否定することは、世の中の否定?」飛信隊vs桓騎軍

森山:僕は「尾平」*7という、信の仲間が盗みを働かせてしまうシーンが好きですね。信が率いる「飛信隊」*8は、本来市民に対して盗みなどはしないチームなんです。ですがそれらを厭わない桓騎軍*9と一緒に戦ったとき、尾平は桓騎軍の誘いに揺らいで市民から宝石を盗んでしまった。面白いのはここからで、桓騎軍は市民に暴力や盗みを働きながらも、この戦い*10で、予想よりも遥かに優秀な成果を収めたんですよ。人道に反するような桓騎軍のやり方は好きじゃない人が多いと思いますが、リーダーシップの方法が違うだけで「桓騎は駄目だね」と簡単には言えないのだと考えさせられます。

伊藤氏:倫理観は時代や国や人それぞれで、統一されていないですからね。桓騎を否定することは世の中の否定になってしまう。戦争では人を殺せば英雄になるのと同じで、それで成果を出せるなら良いじゃないかという考え方もあるんです。でもそもそも「残酷だからしてはいけない」とは誰が決めるの? と考えなければいけない。

森山:組織の判断も同じだと思うんですよ。例えば、数字を上げない社員を「悪」だと捉えることがあるじゃないですか。でもこれも拡大解釈すると、違う倫理観を受け入れられないのと同じなんです。何が悪で、何が善なのか。また漫画のキャラは、誰しもが共感できるように設定されていて、「飛信隊」と「桓騎軍」は価値観のメタファーだと思うんです。「飛信隊」は希望と勇気の、「桓騎軍」は怒りと憎しみのメタファー。リーダーは、幅広い価値観を持たないと自分以外の世界を排除しかねないですよね。

吉田:戦いの後で河了貂(カリョウテン)*11が「戦死者の数は予想の半分以下だったんだ」と話しましたが、倫理観を貫いてきた信の戦い方では、もっと戦死者が出ていたかもしれない。ここで信は「戦い方はクソだが、結果は真正面から受け止めねぇといけねぇ」と思わされるんです。リーダーはこうした経験を経て、違う価値観を受け入れていくのかもしれませんね。

「河了貂の命か、大多数の命か」
重要な決断を迫られたときの判断

森山:また飛信隊は、尾平の盗みをきっかけに分裂寸前になっていて、これは組織の崩壊を表していますよね。文化や価値観の違いから、1人の社員を追放しようとするのは解雇に近い。ですが最終的に信は尾平を許しました。時には追放が必要な場面もあると思いますが、それだけでは学びは逃げてしまうので、組織では追放以外の方法を考えなくちゃいけないですよね。

伊藤氏:正解がないので難しいですが、例えば何に従って判断すれば良いのでしょうね。

森山:リーダーが見えている視界によって判断基準は変わると思います。例えば、会社のため、国のため、地球のためなど視界はそれぞれですし、どれも尊い。信は「部隊」を、政は「国」を基準にしていますが、物語が進むにつれて、信は判断基準の幅を拡大していますね。

伊藤氏:最初から頂上が見えている人は、なかなかいないと思うんです。一歩一歩登っていく中で、まだ上に山があることに気づく。政は最初から1人の人間ではなく王として、あるべき姿から考えていますが、一方の信は違います。河了貂がさらわれたとき、1人のためにみんなで行くのはおかしいと言われても「見殺しにはできねえ」と言って動いたのは印象的でしたね。

森山:河了貂は助かったけど他の仲間が死んでしまった場合、漫画では上手くいったとしても、現実ではリーダーは大変ですよね。私的利用として責められやすい。でも、組織にとっての重要な判断の際に「アイメッセージ(私はこうしたいという想い)」を伝えることは時に必要だと思います。みんなが賛同する状態は難しいし、誰かがアイメッセージで引っ張らないと進まないときはあるので。

伊藤氏:フレームワークで分析するにしても、同じような局面で違う答えが出るときもあるので、難しいですよね。最後は自分が「何をよすがに生きているか」で決めないといけない。

「王騎の最期」。あの名台詞とあの景色が、信の視座を瞬時に上げた。

吉田:続いて参加者の皆さんから「好きなシーン」を伺っています。この中で話したいテーマはありますか?

伊藤氏:「王騎(オウキ)*12の最期」ですね。「これが将軍の見る景色です」との台詞で思わず嗚咽しました(笑)。

森山:私も泣きそうになりました(笑)。王騎が死ぬ間際に、大将軍は「全く違う視座で見ているぞ」とビジュアルで伝えて、信はとんでもないインスピレーションをもらうわけです。言葉で「視座を上げよう」と言うのとは全然違う。リーダーシップを育成するには究極はこれですよね。可視化できるように、体験と共に伝えること。

吉田:ちなみに伊藤さんは、人生の中で「これが将軍の見る景色」と感じたのはどんな瞬間ですか?

伊藤氏:初めて感じたのは、前職時代に東日本大震災が起きて、物流や商流を復帰させる仕事のリーダーに就いたときですね。500人くらいの会社で、未曽有の惨事を前に「俺やるわ」と手を挙げて勝手に動き出したんですよ。翌々土曜の朝には勝手にプロジェクトリーダーになっていて、当時の被害状況が不明確な中でビシビシ判断していたんです。なぜこれが将軍の見る景色かというと、後ろに誰もいなかったから。すべて自分で決めるしかない状況でした。例えばこの物資を東北か大阪どちらに送るのか。「東北でしょ」と。注文ができなくなった大阪や九州のお客さんからは大変なクレームが来るわけです。それらも引き受けて進めていく中で、自分は「何のために仕事をしているのか」を初めて強く認識しましたね。

「紫夏の最期」。
命がけで政を救ったことで、王をつくった。

吉田:他のシーンはいかがでしょうか。

伊藤氏:また思い出しただけで泣きそうなんですけど(笑)。8巻の「紫夏(シカ)*13の最期」ですね。心を閉ざした幼少期の政を、秦国へ送る闇商人の紫夏。「政は王になるべき人だ」と必死に守りきるシーンを見ると、自分の欲などどうでも良くなってきます。誰かのために生きることを考えさせられる。

森山:小さい政は秦国へ向かう道中に、馬車から降りて自分の手を剣で刺すじゃないですか。「俺は何も感じなくなったんだ」と。あのシーンは、傷ついて心を失ってしまった現代人のメタファーだと思うんですよ。実は僕も鬱になったことがあって、人の優しさを受けて復活したのですが。何も感じなくなるほど傷ついた人を前に、優しくできるか、命を捧げられるかと問われているように思うんですよね。彼女は命を捧げて政を救ったんです。そして王をつくった。*14

伊藤氏:沼地で抱きしめるあのシーン、泣けますよね……。紫夏を拾って育てたお父さんの「恩恵はすべて次のものへ」という台詞もビビッときましたね。ビジネスパーソンとして生きていると、自分が成果を出してなんぼという価値観があると思うんです。それも大事ですが、キングダムを読むと「こういう価値観も良いわ!」と思いますよね。

「政」のリーダーシップ。
全体を鼓舞する ✖︎ 一人一人と寄り添う。

森山:リーダーシップの話で特に面白いのは「政の鼓舞」ですね。仕事では、相手の気持ちを分かってあげずに「目標達成せよ」と言う人がいるじゃないですか。でもこういう指示だけでは、人は動かない。逆に「大変だよな、分かるよ。俺も昔……」と身の上話をしたり「一緒に頑張ったら打ち上がろうじゃないか」と伝えたりすると「やります! 」と動きたくなると思うんです。政も「辛い気持ちは一緒ですよ」と民に目線を合わせて語りかける。でも「今の秦があるのは、あなたの父や母がいるからで……」と視座を引き上げて伝えていくんですよね。

伊藤氏:また政は夜に「邪魔するぞ」と民に話かけに行くじゃないですか。視座を上げるだけではなく、一人一人と寄り添う。マネジメントの基本だと思うのですが、全体に言い放ったら終わりかというと、全然そうじゃない。理解や解釈は一人一人違うので「どう?さっきの話」と、ケアをする必要がある。僕も前職で数百人をマネジメントしていたときから、1on1*15を大切にしていました。1回きちんと話をしておくと、部下は気軽に連絡ができるようになるため、それがセーフティネットになって、仕事に取り組みやすくなるんです。政も全体と1on1を同時にやっているのだと思いましたね。

吉田:楊端和、桓騎、王騎、紫夏などが登場するさまざまなシーンを読み解いてきましたが、終了の時間が近づいてきましたので、最後に2人から参加者へメッセージをお願いします。

伊藤氏:リーダーは、圧倒的な情報量に触れること。仕事以外の一見無駄なことを積み重ねるのは大切だと思います。漫画、雑誌、ドラマを見るのも、街を歩くのも、人から聞くのもそうです。とにかく圧倒的にインプットする好奇心を大切にしてくださいね。

森山:少し前に、CRAZYに新卒で入社した社員が、ワンピースを見て「私は海賊ABCにはなりたくない! 」と言ったんです。要は、ゴムゴムの~*16によって1ページで消える人たちです。キングダムでいうと、将軍の剣一振りでバサーッと殺される人のことですね。誰もなりたくないですよね。ワンピースにしてもキングダムにしても、登場人物がいろいろなメタファーになっている。読む中で自分の人生を探しているわけです。キングダム好きの皆さんだからこそ、自分を登場人物に上手に憑依させることができると思います。なりたい登場人物に自分を重ねて読めば、キングダムをもっと活用できるはずです。

当日の懇親会では『キングダム』の世界観をモチーフにした食事を提供。

取材を終えて
大人たちがキングダムにこれほど魅せられるのは、登場人物の信念に共感し、憧れるから。戦争もテロも食料危機もない平和で豊かな日本の平時において、何かを本気で守ったり、怒りを露わにしたり、危機に直面して仲間と助け合うことは、国単位というよりビジネスの世界で繰り広げられているもの。私たちはキングダムを読みながら、日々戦う自分を重ねて共感をしているのかもしれません。またキングダムでは、中華を統一する壮大な夢に多くの人が一丸となって人生を捧げています。その生き様は美しく、私たちの心に「自分も何か大きなもののために生きたい」と憧れを抱かせてくれる。あなたはキングダムを通して、どのシーンに、どの登場人物に自分を重ねて読み解きましたか。皆さんの感想をお待ちしています!

※感想はTwitterやFacebookハッシュタグ#キングダム経営論でお願いいたします!

 

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*1 青年漫画『キングダム』:既刊累計2200万部突破、第17回手塚治虫文化省漫画大賞受賞した、古代中華戦国大河ロマン青年漫画。時は紀元前、春秋戦国時代*2。いまだ一度も統一されたことのない中国大陸は500年もの動乱期が続いていた。戦国七雄の一つ「秦国」の身寄りのない少年・信と漂は、今は奴隷のような身だけれど、いつか武功をあげて天下一の将軍になることを夢見て修行に励む。そんな二人が偶然、秦国の大臣に出会ったことから物語は始まる。

*2 中国春秋戦国時代(しゅんじゅうせんごくじだい):中国史において、紀元前770年に周が都を洛邑へ移してから、紀元前221年に秦が中国を統一するまでの時代。

*3 蕞の奇跡:32巻から始まる戦いの中の1つ。中華の合従軍が大侵攻の際、秦の国都「咸陽」の最終防衛地「蕞」にて、秦王・政が、蕞の民を戦士化し国を守ったシーンのこと。

*4 楊端和:圧倒的な武力をもつ山の民を率いる女王。3巻にて政と協力関係を結んだ。

*5 山の民:かつて秦国と同盟を組んでいた野生的で屈強な戦士たち。

*6 アライアンス:同盟。

*7 尾平:飛信隊のメンバー。同郷の仲間である信と初戦から共にする。

*8 飛信隊:主人公信が隊長を務める部隊。王騎*12から「飛信隊」という名前をもらった。

*9 桓騎軍:野盗で構成されていて、略奪・虐殺も厭わず戦う部隊。隊長である桓騎のカリスマ性でまとまっている組織。

*10 黒羊の戦い:45巻 483話に出てくる戦い。

*11 河了貂:山の民で信の元同居人。現在は飛信隊の女軍師を務める。

*12 王騎:秦国・六大将軍。他国から「怪鳥」として畏れられる存在。

*13 紫夏:政を趙国から抜け出すために手を貸した闇商人。政の命の恩人。

*14 王をつくった:幼少期の心を閉ざした政を、秦国へ送る闇商人の紫夏が「政は王になるべき人だ」と守ったことで、政は秦国の王を目指すことに決めた。

*15 1on1:上司・部下による定期的な1対1のミーティングのこと。

*16 ゴムゴムの~:漫画『ONE PIECE』で主人公のルフィが繰り出す技。

 


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編集:高橋 陽子 写真:小澤 彩聖

水玉綾(@maya_mip)
Aya Mizutama

CRAZY MAGAZINE編集長。フリーランスのライター・編集者。働き方・組織論などのビジネスシーンから、個展のポエミーな文章まで幅広く担当。生の実感値があがる「美しくする編集」を大切にしている。愛読書はミヒャエル・エンデの『モモ』とクルミドコーヒーの『ゆっくり、いそげ』

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