2019.06.25

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「広報の本質は、世の中にあたらしい価値観と選択肢を提供すること」CRAZYのブランドチェンジを牽引した広報責任者が、初めて語る【後編】

企業活動に欠かせない「広報」。会社を知ってもらい、利益や採用に繋げていくためには、重要な活動の1つです。ですが、ベンチャー企業の場合、専任の担当者を置かない場合が多く、サービスだけでなく採用を目的にしたコーポレートの広報まで手広く行うのは、至難の技。

株式会社CRAZYは、これまで広報活動に力を入れてきました。特に、創業3年目以降、専任の広報担当を置き、大きく戦略を変えて、今に至ります。その根幹を担ってきたのは、広報担当・市川千尋です。

前編は「サービスのための広報活動」について、後編は、採用などの「コーポレートのための広報活動」について。CRAZYのこれまでの広報活動を振り返りながら、ベンチャー広報に必要な考えを探ります。

「採用広報」のはじまりは、新聞や経済紙で発信したこと

ーコーポレートのための広報活動は、まず何から始めましたか。

採用を加速させるために、「サークル感からの脱却」をテーマに掲げて動き始めました。

入社当時創業3年目のCRAZYは、サービスの売れ行きに合わせて、採用に力を入れるべきタイミングでした。応募は多数あったのですが、即戦力として活躍できるかを考えると、正直ミスマッチも多くて…。

当時は、想いや自由な働き方が目立っていて、サークルのような雰囲気だったので、ビジネスの第一線で走っているような方々に、興味を持ってもらいづらかったんです。本来は高いビジョンに向けて泥臭く仕事をしているのに、そこは会社としても見せていない。そこで「サークル感からの脱却」をテーマに掲げたんです。

市川 千尋(CHIHIRO ICHIKAWA)株式会社CRAZYの広報責任者 新卒で大手不動産会社に入社。社長室で、秘書業務及びHPの立ち上げに携わる。入社3年目にウエディング事業の立ち上げを行い、広報・営業・商品企画のチームリーダーを担当し、立ち上げから1年で黒字化に成功。その後ベンチャー企業3社にて営業・広報・マーケティング業務に携わる。31歳で株式会社ローソンの広報室に入社。結婚を機にタイに2年居住。居住中に、CRAZYの広報を手伝いながらCRAZY WEDDINGで結婚式をあげる。帰国と同時に、CRAZYに転職。現在は他社の広報も兼務している。

それまでは、“ 一緒に働きたい人たちに向けた情報発信 ”は出来ていなかった状態なんです。まずは、サービスの認知拡大が最優先でしたし、専任の広報担当もいなかったので。

ですが、採用候補者が見るような新聞や経済紙で発信していかなければ、一生知られないまま。早速、Forbes JAPANに挨拶に行きましたね。

当時、全社員でオフィスをリノベーションする企画を走らせていました。それを伝えたところ、なんと10日間密着取材をしてもらえることに。その後は、Forbes  JAPANで取り上げていただいた記事をきっかけに、様々なビジネス媒体や新聞記者にご挨拶に行き、徐々に掲載いただけるようになっていきました。

仕事をこえて「一生付き合える人」を増やす

ー新しいメディアを開拓されるときは、どのように動き始めたのですか。

まずは、メディア内認知を広げるために動きました。メディアの人がCRAZYを知らなければ、世の中には絶対に出ていかないので。ローソンの広報をしていた前職時代は、「ローソンから来ました」といえば「わざわざ挨拶に来ていただきありがとうございます」と言われましたが、ベンチャー企業の広報活動はそうではありません。

「CRAZYです」と挨拶するだけでは覚えてもらえないし、電話をかけても「リリースを送っておいてもらえます?」の一言だけで突然切られることも。やっぱり、世の中の認知度によって扱いは変わりますから、どんどん足を動かして、名前を覚えてもらうことが大切

ベタかもしれませんが、自分たちの紹介を2割程度に済ますことは意識していました。8割は相手の話を聞く。何に興味があって、どんなことを世の中に伝えたいと思っているのか。その上で、彼らの期待に応えられるよう情報をお渡しするんです。そして大切なのは、CRAZYのことを「面白い」と感じてもらうこと。

また、アフターケアも行います。一度知り合ったら、お礼のお手紙を直筆で送るんです。「最近カメラアプリが気になっている」という話を聞けば、知っている限りの情報をメールでお伝えする。気遣いというか、自分がされて嬉しいことを意識的にしていますね。

そもそも私は「仕事をこえて一生付き合える人をたくさん増やしたい」と思っていて。会社の売込みや仕事以上に、趣味やプライベートの話ができる人間関係を作ること。これは何より大事にしたいことの1つなんです。ベースにそういう気持ちがあるので、ナチュラルに動ける部分があるのかもしれません。

友人関係だと、自然なことじゃないですか。何かに悩んでいれば、それに関連する解決策を教えてあげたいと思うし、喜んでもらえたら嬉しいですから。

エモい表現を抑え、全社員の「経歴」や「受賞歴」を公開した理由とはー

ービジネス系の媒体で掲載されるようになってから、どんな変化がありましたか。

一番嬉しかったのは、社員の親御さんが喜んでくれたこと。「日経新聞を見たよ」って連絡をもらったそうなんです。その社員の親御さんは、ベンチャー企業に就職したことを心配していて、でも「日経新聞にでるくらいの会社なんだ」って安心したみたいで…。そうしたインナーブランディング*1の効果はすぐに感じられましたね。

※当時掲載いただいた日経新聞はこちら

特にガラッと変わったのは、2017年にホームページをフルリニューアルしてから。志高く、実績のある方からの採用エントリーが増えたんです。

ーホームページのフルリニューアル?。

そうなんです。これまで社外の人には伝わらないような内輪の言葉が多かったので、CRAZYらしさは残しつつも、全体的に言葉を変えました。また、別の場所で運営していたオウンドメディア「CRAZY MAGAZINE」もホームページに一元化。なにより、働いている社員一人ひとりに光を当てられたらと思い、全社員の紹介ページを設けたのはあたらしい取り組みだと思います(こちら)。

2017年にフルリニューアルしたホームページでは、社員一人ひとりの経歴、仕事に対する想い等を掲載している。

ここで気をつけたのは、“あえてビジネス面の印象を打ち出す”こと。

普段社員のSNS発信からは、社員同士の仲の良さや、想いの強さがよく発信されています。サービス上も、結婚式というおめでたい瞬間に携わるので、どうしても“ エモい表現 ”に寄りやすい。

だからこそ、社員全員の経歴、前職でMVPとして表彰された功績や起業経験などの情報をプロフィールに載せました。そういう部分での信頼感は一定あると思うし、サークル感から脱却したかったので。

結果的に、志高く実績のある方からの採用エントリーは増えましたね。元認定NPO法人Teach For Japanの創設代表理事の松田悠介や、GUCCI JAPANから熊谷 幹樹が入社したのもこの頃。

「働きがいのある会社」などのアワードの受賞も続き、ブランドイメージが変わったと感じました。この頃の話は採用責任者のインタビューでも伝えているので、読んでいただければ嬉しいです。(※記事の最後にはこの頃に受賞したアワードをまとめています)

メディアは「視聴者の代表者」。自分たちだけの得を考えない

ー市川さんが広報活動において大事にしてること、こだわりを教えてください。

1つは、「人としての関係性」を作ること。「自分たちはこうなんです、メディアに出してください」というスタンスは良くないと思っています。自分だけの得を考えるのではなく、メディアの方々に“ 載せたい ”と思ってもらえるような関係性でいたいですね。

私は、メディアの方々に憑依して話せるくらい、彼らがどんな思いで番組を作っているのか、徹底的に調べます。たとえば、情熱大陸なら、過去1年分くらいは見ましたよ。そうじゃないと、その人たちに合った企画も出せませんから。

今はネットを使えるので、調べれば大体のことが出てくる。媚を売ろうとかじゃなくて、相手の興味を知って、どういう観点でコミュニケーションをとれば、仲良くなれるのか。きちんと考える。だって、仲良くなりたいじゃないですか(笑)。

私が大事にしているのは「It’s a Small World」*の世界観。肌の色や言語が違うとしても、人である限り通じるものがあると思っています。“ 世界中どこだって 笑いあり涙あり みんなそれぞれ助け合う 小さな世界 ”という歌詞のように生きたいんです。

「記者の方に聞いてはいけないことはありますか」と後輩の広報メンバーから聞かれることがありますが、「もしも何かを聞いて怒らせてしまったら、ちゃんと謝ればいい」と伝えています。初めて会うときはドキドキするのは分かりますが、相手は血の通った人ですから。

ー今後の目標はありますか。

広報活動を通して、結婚式業界に新しいスタンダードを提供したいですね。アワードを受賞することや、メディアに掲載されること自体は、本質的ではないと思うんです。掲載されたことで、自分たちは得をするかもしれない。でも、広報活動の本質は、世の中に新しい価値観を根付かせ、新しい選択肢を提供すること。そうした社会への影響力を考えてこれからも動いていきたいと思います。

*CRAZYは共に働く仲間を募集しています。
(詳細はこちら)
(※最新情報はLINE@で配信中!)

【アワード歴】
※「働きがいのある会社」小規模部門(従業員25-99名)で7位:こちら

※「働きがいのある会社」女性ランキングの小規模部門(従業員25-99名)で3位:こちら

※Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2017で創業メンバーの遠藤理恵が個人部門賞を受賞:こちら

※Work Story Award 2017「日本を代表する人事マネージャーが選ぶWork Story賞」受賞:こちら

*1 インナーブランディング:企業がブランドの理念やビジョン、ブランドの価値を社内に理解浸透させるために行う活動

*2 It’s a Small World:世界のディズニーパークにあるアトラクション。世界各国の子どもをイメージした人形たちが歌って踊る夢の世界にいく。

画像:伊藤圭    グラフィック:東和香


水玉綾(@maya_mip)AYA MIZUTAMA

CRAZY MAGAZINE編集長。フリーの編集者・ライター。HR領域の取材記事を中心に、媒体は「未来を変えるプロジェクト」「新R25」「PR Table Community」「BizHint」「FastGrow」等。三度の飯より愛犬が好き??


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