2018.06.07

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「こうあるべき」が強すぎる。「生きるように働く」を掲げる「日本仕事百貨」とCRAZY対談

来年度の新卒採用が始まった。働き方改革の波を受け、説明会でワーク・ライフ・バランスを謳う企業も多いかもしれない。しかし、(株)CRAZYが目指すのは、「生きる」と「働く」を分けないワークスタイル。その目的は、仕事と生活をともに人生の重要な要素として統合的に考え、双方を充実させる点にある。

このようなワークスタイルに向くのは、どんな人なのだろうか。そして何が必要なのだろうか。CRAZY社員の近藤友輝は、「生きるように働く」をコンセプトにした求人サイト「日本仕事百貨」を運営している、ナカムラケンタ氏に話を聞きに行った。

仕事は本来、自分の人生や生活のなかにあったもの

——ワーク・ライフ・バランスという言葉をよく耳にしますが、それについてどうお考えですか?

ナカムラケンタ氏(株式会社シゴトヒト 代表取締役、以下敬称略):僕らの求人サイトのコピーは「生きるように働く」という言葉です。「生きる」ということは連続した時間の流れですよね。その時間の流れを区切らずに、仕事の時間もそうでない時間も、自分の時間だと思えるようにしたい。そんな思いでこのコピーをつけました。「日本仕事百貨」はこの夏に10周年*を迎えますが、10年間そう言い続けてきました。

一方、ワーク・ライフ・バランスは自分の時間を「仕事」と「生活」に分けてバランスをとる発想。オンオフを切り替えたい人もいるので、それも一つの生き方だと思いますが、僕は長時間を過ごす仕事そのものの時間も自分の時間にしたい。同じような考えをもつ人に向けて、給与や勤務地など、条件面の紹介にとどまらない求人情報を提供しています。

*2008年に「東京仕事百貨」として誕生。

ナカムラケンタ氏:株式会社シゴトヒト代表取締役。明治大学建築学科を卒業後、不動産会社に入社。2008年に「生きるように働く」をコンセプトにした求人サイト「日本仕事百貨」をオープン。さまざまな分野で働いたり活動したりしている方をバーテンダーとしてお招きして、お酒を飲みながらお話できるイベント「しごとバー」など、“仕事”をテーマにさまざまなサービスを提供している。8月に初めての単著を出版予定。

近藤友輝(株式会社CRAZY コミュニティ・マネージャー):僕は、これから呼吸のしやすい時代に突入していくと思っているんですよね。人が生きやすくなる、原点回帰をするイメージです。

もともと人は、生きるために獲物を捕って食べていました。ところが人口が増え、次第に専門性が高まり分業化して、お金を媒介にするようになり、ビジネスが生まれましたよね。その結果メリットを多く享受する人や、猛烈に負荷がかかる仕事をしている人がいますね。

そんなアンバランスな状態が今、少しずつ原点に戻り、自然なバランスをとる方向に向かっているんじゃないかと思うんです。人がより動物らしく、生物学的な「ヒト」として生きていけるような。ワーク・ライフ・バランスは原点回帰に向かうための気づきのきっかけになるのではないかと、僕は思っています。

近藤友輝(Yuki Kondo):大学卒業後、株式会社キーエンスに入社。2年目で営業成績トップを取得。27歳で退職し、2015年にシリコンバレーへ行き、B-Bridge InternationalでのInternshipを経て、2015年4月、株式会社CRAZY入社。現在は、コミュニティ・マネージャーとして、新しいものづくり拠点「IDO」の運営責任者を務める。

オフィス周辺で人生がほぼ完結できる

——「生きるように働く」「『生きる』と『働く』を分けない」という発想になると、何が起こると思いますか?

ナカムラ氏:僕は自分の時間を最大限有意義にしたいんです。そのために2つのことを大切にしています。1つは自分の仕事だと思える仕事をすること。もう1つは、移動などの時間をなるべく減らすこと。満員電車はけっこう辛いですし、片道1時間かかるとしたら1週間で10時間も費やすことになりますから。

仕事と人生を切り離す発想であれば、会社の近くには住みたくない人が多いと思います。ですが今、うちのスタッフの多くが徒歩で通える範囲に住んでいるし、僕も徒歩1分の場所に住んでいます。でも、自分がサラリーマン時代だった時に会社の近くに住みたいかと聞かれたら戸惑ったと思うんですよね。

近藤:距離を置きたくなりますね。

ナカムラ氏:そう、距離を起きたいこともある。それって自分と会社の関係性次第だと思っていて。ほかの人が残業していても帰れたり、有給をとっても気負いなく休める空気がちゃんと会社に醸成されていれば、近所に住んでいても問題ないんです。

だから、ワーク・ライフ・バランスという考え方が発生するのは、企業文化のせいだと思うんですよね。社員がお互いに存在を尊重して、同調圧力を強く求めない文化があれば、会社の近くに住むことができるんです。

うちのオフィスにはバーもあるので福利厚生でお酒も飲めるし、ランチも食べられる。オフィスの目の前には銭湯もあるんですよ。基本的にオフィス周辺で多くの時間を過ごせるという状態を目指しています。CRAZYも、社員と会社の関係性は良さそうですね。

近藤:そうですね。まさに「自由と責任」をみんなで考え、お互いが大人として相手に接する文化がありますね。CRAZYは休みの日でも、会社に家族を連れて遊びにくるくらい、会社と社員の関係はいいですね。

ナカムラ氏:いいですね。もちろん、オフィスのまわりだけで過ごしていると飽きてしまうこともある。ときどき自然を味わいたいので、知人と一緒に新島にも拠点を構えています。新島までは高速船で3時間、飛行機なら調布飛行場から30分で行けるんです。

週末だけ数時間かかる別拠点に帰宅して、あとはオフィス近辺に住むようなスタイルもこれから増えてくるんじゃないですかね。これからはほとんどお金をかけずに空き家を使用できる時代ですから。

毎日往復1時間、週10時間の通勤時間よりも週末は別拠点にいく方がトータルの移動時間は短いですし、満員電車ではない可能性も大きいです。

近藤:多拠点生活はいいですよね。個人的にもやりたいと思っていますし、CRAZYでも、そうした取り組みを始めています。旦那さんの転勤をきっかけに1ヶ月のうちの半分は広島、半分は東京という働き方をしている社員がいたり、長野県根羽村にある築160年の古民家をリノベーションして、社員も泊まれるゲストハウスのような施設を7月にオープンを予定していたり。

また、仕事と生活を切り離さないからこそ、本社両国オフィスには専任のベビーシッターがいて、ママ社員たちは子連れ出勤していますよ。

ナカムラ氏:いいですね。うちにはまだ子どもがいるスタッフはいないんですが、基本的に連れて来ていいと思っていて。何の問題もないですし。

近藤:そうですよね。実は子連れ出勤は共同創業者のひとりの出産後の復帰がきっかけだったんです。「赤ちゃんとなるべく一緒にいたい。でも仕事も今まで通り頑張りたい」という理想の生き方を、どうしたら実現できるかみんなで考えて、次第に環境を整えていったんです。

とはいえ、最初は生産効率や合理性が下がるのではないかと心配もありました。でもやってみてたらメリットがあって。自分たちが人間性を取り戻したことに気づいたんです。

ナカムラ氏:みんなに起こる可能性があることだから、協力し合うのは自然なこと。もちろんどこか別のところに子供を預けることも否定しないし、そういう仕事も必要だと思いますが、連れてくる人がいてもいい。選択の自由がある状態が望ましいですよね。

近藤:結局はバランスで、僕は全部均等に分けるのではなく、動的均衡が大事だと思っています。場合によっては仕事が100%のときがあってもいいし、生活が100%の時があってもいい。子育ても、100%一緒にいたい時もあれば、この数日は一緒にいない方がお互いにいいという時もあるかもしれない。柔軟に選択ができ、バランスをとれるのがいいですよね。

今までは会社のルールや社会通念が強く、自由にバランスをとる形は一般的ではなかったと思います。でもそれが今、次第にできる環境になってきている。「やってみよう」というメッセージが社会的に出始めていて。実行する人が増えていけば、それが新しい選択肢になるんですよね。

ナカムラ氏:そうですね。家族はいつも一緒にいるべきだとか、部長がまだ働いてるなら下は帰っちゃいけないとか、「こうあるべきだ」という考え方ってありますが、もっとそれぞれが自由でいいと思うんです。

『生きる』と『働く』を分けないために、固定概念をぶっ壊す

——「『生きる』と『働く』を分けない」という生き方をするために、働く人には何が必要でしょうか。

ナカムラ氏:自分の頭で考えることですね。「こういうもんだ」とされている習慣、ルール、常識、同調圧力について自分なりに考えること。それらは、他者に迷惑をかけないために機能している面もあります。人と人が関わるわけだから何でもアリ、ではありません。でも、お互いに損しているような状況があれば、そこからはずれてもいい。既存の価値観を崩すことに対して耐性があるといい。

たとえば就職活動でいうと、一般的なやりかたに自分の身を委ねる場合、リクルートスーツを着て合同説明会に参加し、大手のナビサイトに登録して大学のキャリアセンターに行くことになります。もちろんそれは大事だけど、それだけなのか疑問を持ってもいいんじゃないか。

自分の頭で考える具体的な方法としては、いろいろな人に会って、幅広い価値観を知ることです。僕たちは「しごとバー」というものを毎晩のように催しています。これは、さまざまな分野で働いたり活動したりしている方をゲストとしてお招きして、お酒を飲みながらお話するイベントです。事前予約は不要で入場料もなく、ワンドリンクだけ頼んでもらって、おしゃべりしながら飲むバーなんです。トークショーでもありません。

トークショーだと話す人もなんとなく普段の状態ではないし、聞く人も自分とは異なる立場の人だと感じてしまうかもしれない。でも一緒にお酒を飲んで会話すると、ものすごい情報、熱量、衝動、存在みたいなものが直接、自分に届いてくる。それに、相手も普通の人間だとわかって、自分の延長線上のように感じられるんですよ。自分にもできるんじゃないか! と。そうすると自分の価値観が広がっていくんです。

近藤:素が出ている、熱量が伝わってくる相手と接するのはとても大事だと僕も思いますね。最近は、墨田区と共同でIDOという新しいものづくりの拠点を作りました。お酒を飲む代わりに、ものづくりを通して人とつながれる場所なんです。肩を並べて一緒に何かをつくることで、自分や相手の素が出てくるんですよね。

「ものづくりを通して『生きる』を考える場所」、IDO。コンセプトは「いきること」は「つくること」。「働く」と「生きる」はもちろん、「居住スペース」と「作業スペース」、プロとアマチュア、CRAZY社員と社員ではない方など、さまざまな境界線を曖昧にしたスペースだ。

例えばテーブルをつくるとき、特別な人でない限り、ノウハウや経験なんかみんなゼロですよね。役職も肩書きも年齢も関係なく、同じスタートラインに立って一緒に考えながらつくると、その人の価値観やその人らしさが滲み出てくる。

一緒にものづくりをして盛り上がって、その後にその人の経歴や仕事を知る方が、人としてつながれておもしろいですよね。そして、人としてつながると、自分の固定概念を壊す機会にもなります。

これはCRAZY入社前に2ヶ月シリコンバレーにいた時に実感したことです。シリコンバレーって人口の約80%が非アメリカ人なんですよ。そもそもお互いの常識が違うから、「これ」という常識が存在し得ないんですよね。何でつながるのかといったら、その人が何に興味を持っていて、何をやっていて、これまで何をやってきたのかということ。そういう繋がり方がおもしろいなと思ったし、固定概念を壊すのにとてもいい経験になったと思っています。

ナカムラ氏:いいですね。「価値観をぶっ壊す」をテーマに、しごとバーをやりましょう! 近藤さんと僕の二人で。

近藤:いいですね! やりましょう!

※CRAZYは一緒に働く仲間を探しています

編集:水田 真綾 写真:浦口 宏俊

Writer:FELIX 清香SAYAKA FELIX

greenz.jp、Pouch、「ソトコト」等のWEBマガジン、雑誌での執筆や書籍構成、オウンドメディアの立ち上げ等を行なっている。国際交流やエシカル、児童文学、体感型アートに興味あり。プライベートでは、Give & Takeではなく、Give & Giveで経済が回るかどうかをさまざまな取り組みで実験する「ギフト経済ラボ」のメンバーとして、カルマキッチンというカフェイベント等の運営に参加している


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