INTERVIEW

クリエイティビティを発揮させる経営とは

シンギュラリティの時代を間近に控え、これまでと同じ発想ではうまくいかないことは目に見えている。人が今以上に進化するにはどうしたらいいのか。また人が本来持つクリエイティビティを最大限に発揮させ、イノベーションを生み出す組織を作るにはどうしたらいいのだろうか。

その手がかりを見つけるために、弊社代表の森山は、株式会社TABI LABO代表の久志尚太郎氏と、組織論の研究者である宇田川元一先生をお招きし、三人で「これからの経営」について語り合った。シンギュラリティの時代に、経営はどうあるべきかということを話した前編に続き、後編ではクリエイティビティを発揮するための「場」作りと経営について語り合った。

合理性を越えるべく、禅の思想では「矛盾」を使う

久志:ここ二年くらい「ゾーン(極限の集中した状態)」や「フロー状態(完全に何かに没頭した状態)」の研究をしているんです。そういったメンタルの状態がフィジカルの能力も飛躍させるんですよね。で、それを京都のお坊さんにしたら、その方が「おもしろいですね。私たち坊主はゴミを拾おうと思って拾っているわけではないんです。あるから拾う。それだけなんです。何かをしようと思って何かをするから、わけがわからなくなるんですよ」っていうんですよ。

宇田川:中国思想の老荘思想の中では「予断を持たない」ということを大事にするんですね。目的があるから、手段の合理性の問題が出てくる。最短距離で到達したくなってしまう。その結果、不確実なものに出会うチャンスを逃すのです。そういった、予断を持たない方法を「禅」では実践していると理解しています。その方法の一つが「矛盾を突きつけること」。

有名な話があります。禅の師が棒を持って円の脇に立っています。そして師が言うのです。「円の中にいたら、お前をこの棒で打つ」と。そこで円の外に出ようとすると「円の外側にいても、お前をこの棒で打つ」と言うのです。さあ、どうするか。線には面積はないはずのものなので、「線の上に立つ」という選択肢はありません。つまり禅の師の言葉には明らかな矛盾があるわけです。その場合の一つの答えは、「師から棒を取り上げる」ということ。選択肢があると別のそうではない答えが見えにくいけれど、そうではない方法もある。それこそが、本当の学習ですよね。

森山:矛盾こそイノベーションのタネですね。組織の中にいろんな矛盾を作って、それをハイライトすることが必要かと。

宇田川:そうですね。先ほど「当たり前」を疑い、「気持ち良い」「気持ち悪い」を意識することが大事だと話し合いましたが、どんな気持ちの良さというものにも必ず気持ちの悪さが含まれますしね。その気持ちの悪さを表現・表出できる「場」を作ることが大事ですね。

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矛盾を表出できる「生きた場」を持つことが大事

森山:逆の視点を持てる人、別の気持ち良さがあることを語れる人はイノベーションのタネを持っていると僕は考えています。

宇田川:人もそうだし、そういった「場」ですよね。「場」に価値があるのではないかと思うんですよ。

森山:そうですね。最近、僕は「場」の研究をしているのです。「場」というのはある閾値を越えると命を持ちます。その「命を持った場」を「カルチャー」と呼んでいるのですが、その「場」は多くの人にさまざまな価値を与えているんですよね。

それを「俺はこうしたい」「俺にはこういう権利がある」と、単に受け取るだけの人たちもいます。東大の清水博教授が著書『場の思想』のなかで「贈与と与贈」ということを話しています。「贈与」は贈り手が自分の名前をつけて贈ること、「与贈」は贈り手が自分の名前をつけずに居場所に贈ることを指すのですが、「場」に与贈していくと、その「場」が生きた、肥えたものになって、「場」が贈与してくれる。

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森山:CRAZYでは毎朝、部署ごとに自分の気持ちを、ポジティブなものもネガティブなものも含めて率直に話す「シェア」という取り組みをしているのです。その「シェア」で、気持ちのいいことだけを口にしていると、与贈しているようでいて誰かが気持ちの悪さを感じているんですよね。その気持ち悪さを感じている人がちゃんとそれを表出できると、その場が「生きた場」になってくるんです。

「シェア」の様子

シェアではネガティブなこともポジティブなことも率直に話す

経営陣が「生きた場」をうまく作れない理由

久志:多くの企業がそういう「場」をうまく作れていないんですよね。その理由は、多くの企業の経営陣が宗教のとっている手法を真似て組織を作ってしまっているから。宗教になってしまうと、何か違う、気持ちが悪いと思った時に言えないんですよね。

森山:たぶん宗教的なものが難しいのは「固定化し、硬直化しているから」でしょうね。固定化しているものって自然じゃないんですよ。だから気持ちが悪い。
「生きた場」を作るのに一番阻害するのは、経営陣なんですよね。「そんなこと言わないでよ」って言ってしまって。

宇田川:経営陣がなぜそうしてしまうかということがポイントですね。たぶん、「そんなこと言わないでよ」って経営者が言ってしまうのは、不確実性が怖いからだし、それを周りに語れないからですよね。社員の生活を守らなきゃいけないですし、場合によっては銀行から借金をしているなど抱えているものも多いから、「周りに見せてはいけない」という風になってしまう。つまり、経営陣がその場に与贈できていないということでしょう。

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豊かな「場」のためには、「悪」を切り離さないことが必要

森山:全体のなかでの「気持ちの良さ」というものは、時代によって変わりますよね。昔はそれが資本主義だった。今はポスト資本主義、僕たちの中でどういう「全体の気持ちの良さ」を定義するかを考える時代ですね。
企業にはダイバーシティとインクルージョンという課題があると思うのですが、単にダイバーシティを求めていくだけでは意味がない。多様な人が入ってきたら、その人にどんどん「矛盾」を指摘してもらって、全体としての気持ち良さを問い続けていくことが必要だと思うんです。

久志:それを考えた時に、僕が気持ち悪いと思うのが「悪を切り捨てる」という姿勢ですね。たとえば、さっき、「僕は満員電車で痴漢しちゃうかもしれない」と言いましたが、たとえば企業内で痴漢やレイプなど不祥事を起こす人が出た時に、特に経営陣が「あんな真面目な彼がこんなことを起こすなんて、私にはまったく理解できません」って言ってしまうのですよね。もちろんやってはいけないことですが、僕はめちゃくちゃ理解できるんですよ。もちろん理解できるからといってやって良いわけではない。でも、やった人を切り捨てることが、本当に気持ちが悪いんです。

宇田川:企業の不祥事でもそうですよね。何か起こった時に、「誰がミスしたんだ、どこに問題があったんだ」と犯人探しを始めてしまい、自分とは関係ないところでバカな人やシステムが起こしたものだと、個別化してしまうんです。ある意味でそうやって「悪」を作っていっているわけです。逆に「悪」をなくしていくためには、何か悪いことが起きた時に、自分には何の責任があったのだろうかと考え、つながりを見出せるかどうかにあるんですよね。それを共感というのですけれど。

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森山:デンマークのクリスチャニアという、ヒッピーや不法居住者の楽園のような場所があるんですが、そこでは「悪」といわれているものを「悪」とラベリングしないで許容しているんです。なぜそれがデンマークでできたかと言えば、ちゃんと向き合ってきたからです。僕はそれがとても大事な姿勢だと思ったし、社会をそういった方向に持っていくのは可能だと考えています。

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森山:ちゃんと向き合っていくと、先ほどの経営者のような社員を切り捨ててしまう言葉は出てこないですよね。それは絶対に上司としては言っちゃいけないこと。
何か悪いことが起こった時に、その人たちに起こってきたものを、全体性として捉えることが非常に大事。そうでなければ、法律で人間を縛るしかなくなり、矛盾がどんどん生まれにくくなって硬直化して、全体的に「場」が死んでしまいますよね。企業も同じでしょう。

宇田川:そういう「場」を持つためには、クサイ言い方ですが「場に愛情を持つこと」というのがとても大事なのでしょうね。たとえば、「僕のビジョンを君たちが実践しなさい」というような経営者は、場に対して愛情がないと言えると思うんですよ。相手には愛してくれって言ってるのに、こっちは愛してないんですよね。先ほど森山さんが「経営というのは一人でできないことのメタファー」とおっしゃっていましたが、そういう経営者が「何があっても受け止める、受け止めきれないこともあるってことも含めて受け止める」と言えると、みんなが安心して、いろんなものを表に出していける。そうなるとクリエイティブな組織となっていくだろうと思いますね。

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個々の人には「場」を変える大きな力がある

森山:そして個々の人にはとても大きな力があるんですよね。それは鳥のプログラミングから集団行動の法則を見出したものなのですが…。

宇田川:ボイドのことですかね。人工生命シミュレーションプログラムで、「分離(個々の個体が隣のものとぶつからないこと)」、「整列(隣の個体と概ね同じ方向に向かうように速度と方向を合わせること)」、「結合(他の個体の集まっている群の中心方向に向かうように向きを変えること)」という三つの動作規則を与えるというものですよね。

森山:そうです。国も同じですけれど、組織ってやはり「右に習う」ことが生まれて文化が作られていくのだけれど、その参加の仕方によっては、かなり周りに影響を与えることができるんですよね。人間は鳥と違うようでいて似ているんです。

宇田川:抵抗することも、個々の人にはできるということですよね。向かっている方向が何か違うと思ったら「僕はそっちに向かわない」という力はみなが持っています。そしてその行動は周りに波及していく。それをきちんと考えていくことは大事ですよね。

(END)

形式化されたものの中で生まれるのは改善程度のもので、イノベーションは生まれにくい。技術によって不確実性が乏しくなるほど、矛盾をなくし固定化するほど、人間はある種の気持ち悪さを抱えながら生きていかなければならなくなってしまう。これからの未来、イノベーションを生み出すためには、違和感や気持ち悪さをもきちんと表明できるような「場」を作ることが必要なのではないか。人がクリエイティビティを発揮し、活き活きと生きるための未来のヒントが得られる時間だった。

 

宇田川元一氏
埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授。1977年東京都生まれ。2002年立教大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師、准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。 専門は、経営戦略論、組織論。主に欧州を中心とするOrganization StudiesやCritical Management Studiesの領域で、ナラティヴ・アプローチを理論的な基盤として、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行っている。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。

久志尚太郎氏
中学卒業後、単身渡米。16歳で高校を卒業後、ネット通販事業を起業。911テロを在米中に経験し、アメリカ大陸放浪後日本に帰国。帰国後は外資系金融企業や米軍基地のITプロジェクトにエンジニアとして参画。19歳でDELL株式会社に入社後、20歳で法人営業部のトップセールスマンに。21歳から23歳までの2年間は同社を退職し、世界25カ国のクリエイティブコミュニティをまわる。復職後、25歳で最年少ビジネスマネージャーに就任。同社退職後、ソーシャルアントレプレナーとして九州宮崎県でソーシャルビジネスに従事。2013年より東京に拠点を移し、2014年に立ち上げたTABI LABOは月間900万以上の読者に読まれるメディアに成長。

FELIX 清香
Sayaka Felix

greenz.jp、Pouch、「ソトコト」等のWEBマガジン、雑誌での執筆や書籍構成、オウンドメディアの立ち上げ等を行なっている。国際交流やエシカル、児童文学、体感型アートに興味あり。プライベートでは、Give & Takeではなく、Give & Giveで経済が回るかどうかをさまざまな取り組みで実験する「ギフト経済ラボ」のメンバーとして、カルマキッチンというカフェイベント等の運営に参加している。

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