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「くじける力」と「安心」がつくり出す、新時代のイノベーション。

似ているようで違う、「レジリエンス」と「くじける力」。

「レジリエンス」。2013年のダボス会議で議論されて以来、注目され続けているキーワードであり、ここ数年のHR業界におけるホットワードのひとつでもあります。ゴールドマン・サックス証券や、IBMなどの大手企業でレジリエンス・トレーニングが取り入れられているのも、有名な話です。

レジリエンスとは「ストレスや逆境に晒される中で、ダメージを抑えながら成長する力」。気持ちが折れてしまうことなく、いかにダメージを抑えながら成長ができるのかというところにポイントがあるように思います。

一方で、気持ちが折れる経験からしか得られない成長も、注目されています。それが「くじける力」です。

日本を代表する経営コンサルタントである冨山和彦さんの言葉を借りれば、くじけるということは二度と立ち上がれないほどに「挫折する」こと。冨山さんの著書「挫折力」で書かれているのは、「挫折する」ことは、裏を返せば「挑戦する」こと。挫折するということは、自身の能力以上のことに挑戦した結果である。そしてその挑戦は、のちに人としての伸びしろになり、難所を切り抜ける際の貴重な糧になるというのです。

設備投資や商品・サービスではなく、人材が最重要な時代。

「くじける力」がなぜ求められているのかを考えるにあたって、まずは、時代背景から整理してみたいと思います。

「第二次産業」が主流だった1950年代。製造業は、設備投資をし、商品を量産することで日本の経済成長を牽引してきました。そして現在、日本のGDPの75%を占めるのは、ITやサービス業が中心となる「第三次産業」です。また、第三次産業への就業人口が、中国・インド・米国などに次いで7位にランキングしていることからも、その占拠度合いがわかります。

IT・サービス業は製造業と異なり、多くの設備を必要としません。その代わりに、市場から選ばれ続ける商品やサービスを生み出し続けるために、人材こそが最重要の投資項目となったのです。

また、商品・サービスが模倣されやすくなった上に、ライフサイクルが短くなっていることからも、過去の成功パターンを踏襲すればまた成功できるという保証は、ほぼなくなりました。常に自ら挑戦し、イノベーションを生み出す組織風土があり人材を擁する企業しか生き残れない時代に突入したのです。

イノベーションは、「くじける力」から生まれる。

では、どんな組織風土であれば、イノベーションを起こし続けることができるのでしょうか。キーワードはやはり「くじける力」にありそうです。

新しい挑戦を奨励すると言いながらも、失敗を許容する余裕がない会社が大半の中、実際に挑戦を奨励するだけではなく、例え失敗したとしても、再び立ち上がった後の挑戦に期待する企業があります。株式会社LIFULL。旧社名、株式会社ネクストという方が、馴染みがある方が多いかもしれません。不動産情報サイトの運営で有名ですが、課金に置いて業界の常識を覆すなど、常に進化と変化を遂げることで、業界を牽引し続けている企業です。

LIFULL社がなぜイノベーションを起こせるのか。それは「何かに挑戦し、成功した人が最も素晴らしく、何かに挑戦し、失敗した人がその次に素晴らしい」という、同社が大事にしている考え方(「薩摩の教え」から一部抜粋)が影響していると思います。代表取締役社長の井上高志氏は「挑戦して失敗した人には、セカンドチャンスを提供する」と常に語り、実際に子会社を立ち上げた社長が、その事業が軌道に乗らず撤退するような結果になった場合にも、全社員の前でその挑戦に対して拍手を送り、明確に次の機会を与えたそうです。当事者としては当然、もう後がない挑戦であり撤退であったことが想像できます。そして周囲も同様の気持ちで見守ることでしょう。

ですが、こういった経営トップ自らの旗振りが、萎縮せず挑戦する気運を高め続けることを可能にする。小さくまとまった挑戦ではなく思い切った挑戦の結果、失敗し気持ちが折れてしまうほどの挫折を経験した人に対して、次なる挑戦の場を与える。その理由のひとつはやはり、挫折から這い上がったからこそ身につけることができた胆力と覚悟こそが、過去踏襲型ではない成功を導くための、何ものにも代えがたい価値があることを知っているからなのだと思います。

GPW社主催「働きがいがある会社」での7年連続のベストカンパニー選出や、リンクアンドモチベーション社主催「ベストモチベーションカンパニーアワード2017」における第1位受賞の実績は、挑戦だけではなく、挫折も含めて社員に期待する経営の姿勢が浸透しているからこそなのでしょう。

また、株式会社CRAZYにも、一人ひとりが挑戦する勇気を持つ・くじける気持ちを引き上げるための取り組みがあります。

それは「シェア」です。良い・悪い、できた・できなかったという判断を加えることなく、ただ、今・ここに感じた気持ちを吐露する時間を毎朝設ける。これは精神分析の世界では「カタルシス効果」といって、実際に効果が認められているやり方です。葛藤の気持ちを、無理にポジティブに変換するのではなく、そのままの言葉で表現することで、安堵感が得られるというものです。

本人自身が、上手くいかない、くじける経験を味わったときに周囲に吐露できることで安堵感を得られることはつまり、自身が所属するコミュニティが安心・安全な場所だと認識できるのだとも言えます。

思い切った挑戦も失敗も、「安心」があればこそ。

これからの時代を生き抜くための必要条件である「イノベーション」を起こし続けるために、企業としては、一人ひとりが挑戦する風土をいかにつくれるのかが焦点になると言えます。そのやり方に正解例はありませんが、LIFULL社とCRAZY社のふたつの事例を見ても、「安心できる」組織風土でることは重要だと推測できます。

思い切って挑戦して失敗し、くじける状況にさらされたとしても、この会社は裏切らないという安心感。不甲斐ない自分をさらけ出したとしても、この会社・組織は自分を受け入れてくれるという安心感。この安心感があるからこそ、思い切って挑戦をして成功をつかむことができる。イノベーションに成功している企業を紐解いていくと、その裏側には実は「安心」というキーワードが隠れているのかもしれません。

伊勢真穂
Maho Ise

リンクアンドモチベーションにおける約8年間の組織人事コンサルティング経験を経て、フリーランスとして活動中。組織変革の知識と現場経験を豊富に持つため、HR領域における取材依頼が多い。「Forbes JAPAN」や「HR2048」といったビジネス系メディアでの執筆を行う。

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