招待状や高砂、豪華な装飾、ケーキ入刀……そんな“普通”の結婚式にあるものが、IWAI OMOTESANDO(以下、IWAI)の結婚式にはありません。
“普通”がない分、大切なゲスト一人ひとりに気持ちを伝え、会話を楽しみ、これからのご縁を深める時間を過ごすーー。「ふたりが主役」なのではなく、「人と人が繋がる場所」。それが、IWAIの結婚式です。
そんなIWAIの空間を彩るのが、“IWAIのお花”。実は、IWAIのお花は“ふたり”が選ぶわけではありません。
IWAIのお花とはどんなものなのか。そこには、どんな思いが込められているのか。IWAI OMOTESANDO 支配人・吉田勇佑(以下、吉田)と、IWAIのお花を全面プロデュースする「BOTANICAL ARRANGEMENTS TSUBAKI 」主宰・山下郁子さん(以下、山下さん)の対談をお届けします。
(写真左)
BOTANICAL ARRANGEMENTS TSUBAKI 主宰
山下 郁子(やました いくこ)さん
2014年4月に、夫の宮原圭史さんと「BOTANICAL ARRANGEMENTS TSUBAKI 」を創業。海外メゾンのイベントのしつらえや、個人邸から施設の庭づくりまで、さまざまな場で花と植物の生命力を表現。創業初期からCRAZY WEDDINGにパートナーとして携わり、IWAI OMOTESANDO開業前から開発に参画。
(写真右)
株式会社CRAZY 執行役員
CRAZY WEDDING 事業責任者
吉田勇佑(よしだゆうすけ)
2014年、お客さまとしてCRAZY WEDDINGで結婚式を挙げた後、CRAZYに参画。 人事責任者として、採用活動を中心に社内カルチャーの醸成や人事制度策定に従事。 2019年2月、IWAI OMOTESANDOの支配人として開業に携わり、現在は同社執行役員として、婚礼事業全体の責任者を担う。
結婚式のセオリーと大きく異なる、IWAIのお花
吉田:
一般的に「結婚式場のお花」と言えば、高砂をはじめ、ゲストが座るテーブルや受付に飾るお花を、会場が用意した選択肢の中から希望や予算にあわせてふたりが選ぶというのが一般的ですよね。会場を彩るオプションとしてふたりにカスタマイズしてもらうスタイルがほとんどです。
一般的な式場と比較すると、IWAIのお花はかなり特殊なスタイルです。
山下さん:
確かにそうですね。
IWAIのお花は、おふたりが選択するのではなく旬の生き生きとした美しいお花を私たちが選んでいます。季節の花というのは、わずかな気候の変化で旬を迎える時期も変化します。自然のサイクルに寄り添うことが、もっとも美しく輝くお花をたのしめることにつながるんです。今日はどんなお花との巡り合わせがあるだろうかと、毎回ワクワクしながら仕入れをしていますよ。だから、お客様はもちろんのこと、IWAIのスタッフさんにお花の種類を事前に約束することはありません。
それ以外にも、IWAIのお花の“生けている場所”や“お客さま同士でシェアする”スタイルが特徴的です。
吉田:
従来の結婚式からすると、かなり革命的なことですよね!ふたりが会場のお花を選べないとか、シンプルな装花がメインとか、一般的なスタイルと異なることは一見、リスクと受け取られることもあると考えています。しかし、IWAIのお花はお客さまから支持されている。その魅力は一体どこにあると思いますか?
ふたりがお花を選ばない結婚式?
山下さん:
まず、“お花のあり方”が、大きな理由のひとつだと思います。IWAIでは、私たちが空間全体の開発から関わっているので、空間の中でお花が効果的になるように考えられた構成になっていると思います。
吉田:
空間全体の開発というと、IWAIを建てる前から関わっていたということでしょうか?
山下さん:
はい。IWAIの構想段階から「節目を祝うこの空間のために、お花がどうあるべきか」を一緒に考えてきました。私は、建築や家具、そこにいる人の動きなどそこに存在するあらゆる要素がつながっていると思っています。だから建築の方々含め、たくさんの意見交換をしました
IWAIのお花の発想は、従来の結婚式のお花よりは旅館のお花と考え方が近いと思っているんです。
吉田:
旅館のお花の考え方とは?
山下さん:
旅館のおもてなしにお花は大切な要素の一つですが、その花を選ぶのはお客様ではなく、旅館の女将ですよね。
そこで過ごすお客さまが価値を感じているのは「お花そのもの」だけではなくて、おもてなしだったり、しつらえだったり、お料理だったり、空間全体から感じる総合的な体験です。IWAIのお花も、IWAIの空間をつくる一つの要素だと思っています。
吉田:
すごく納得しました…。どうしてIWAIでは、そのスタイルが実現できたのでしょうか。
山下さん:
お花を依頼される場合、「この建物のここに置くお花をお願いします」とか「この装飾をお願いします」と言われることも多いですでも、IWAIでは“お花を生けるだけの人”としてではなく、“一緒にIWAIの空間を作る仲間”としてお仕事をさせていただいています。だから実現できたことですね。
そうやって、空間作りから携わらせていただいたIWAIでお花を生けるのは、私たちにとってもすごく楽しくて幸せなんです!自分の家のように大切に愛していて、のびのびとやらせてもらっています。
吉田:
自宅のように愛着を持ってくださっているなんてすごく嬉しいです。日頃から愛を持って育ててくれているから、会場を訪れる人にもその想いが伝わっているんだと思います。
TSUBAKIさんが提供してくださるお花そのものが素晴らしいのはもちろん、IWAIを知り尽くしたTSUBAKIさんが生けるお花だから、IWAIをより美しい空間に仕立ててくれているのですね。
豪華な装花がないパーティー?
吉田:
テーブルや受付など、一般的な結婚式ではお花のある場所にお花がないのはIWAIの大きな特徴のひとつですが、なぜこのスタイルになったのでしょうか?IWAIを立ち上げるときには、今のスタイルができあがっていたのですか。
山下さん:
いいえ、今のスタイルの考えはまったくなかったです。IWAIからは最初、「クオリティ高く、かつお客様の金銭的な負担が大きくなりすぎないように提供していきたい。その方法を模索している」と相談を受けました。。それから「結婚式をゼロから再定義する」というIWAIの想いを聞いているうちに、「結婚式のお花のあり方も、こんなカタチがあってもいいな」と私なりの理想が浮かびあがってきて。
例えば、これまでの結婚式だと卓上花が飾られることが一般的でしたが、IWAIのコンセプトである「ゲスト中心」を考えたとき、必ずしも必要なものではないと
思ったんです。久しぶりに会えた人たちとの会話や食事をたのしむとき、お互いの顔を遮ったり、お食事のスペースが窮屈に感じるようなお花になる可能性があるならば、なくていい。
一番大切にしたいことは、空間に入ったときにもてなしの場としての気持ちよさがあることです。そのために、まずは空間の中で効果的な場所とサイズでお花をしつらえ、会場を彩る。
様々な視点から優先順位を考え、あった方がいいと確信できるものだけで構成したいという考えからたどり着いた答えでした。
山下さん:
IWAIでは、「どういった感情が芽生えてほしい場なのか」を考えて、お花が必要だと思ったところに生けています。
ふたりやゲストがIWAIに到着して始めに歩く「参道」は、これから始まる時間に向けて心を整える場であり、IWAIを訪れてくださるすべての方々をお迎えする歓迎の場です。そこには季節の花(植物)の力が必要だと思い、参道のつきあたりに位置する場所に「迎え花」をしつらえています。
そして、建物2棟を繋ぐ中庭「IWAIの杜」は個々の心を内へと向けていただける場として存在したいと願い、作った庭です。
吉田:
IWAI内のそれぞれの場所と場面に合ったお花を生けて訪れる人の感情を動かすって、コンセプトを深く理解していないとできないことですよね。まさしく、空間の設計から関わってくれているTSUBAKIさんだからこそできることですね。
みんなでお花をシェアする結婚式?
吉田:
従来の結婚式では、一組ごとにお花を入れ替えるのが一般的です。でも、IWAIではそれをせず、その週末に式を挙げる人たちでお花をシェアしています。このスタイルだからこそ、式当日に最高に美しい状態のお花を届けることができるんですよね。
山下さん:
そうですね。早朝、市場に出荷された新鮮な花たちを自分の目で見極めてから花材選びができているのは、大きな理由の一つ。また、私たちの長年の経験値に基づいて、生産者さん・枝振り・花の輝きなども厳選しています。そういった素材は、大量には市場に出回りません。IWAIのみんなでシェアするスタイルだからこそ、厳選してお届けできているのです。
枝物など育つまでに長い年月がかかる植物もあります。みんなでシェアすることで、命が輝いている間、多くの人にたのしんでいただけるという点もいいことだと思いますね。
さらに、お花にかかるコストもみんなでシェアするから、一組あたりの負担も少なくなります。
生きる力に溢れたIWAIのお花から、植物自身の美しさがまっすぐ伝わるよう、植物の力を最大限引き出すように設計したのが“みんなでシェアするスタイル”です。
吉田:
訪れる方にしっかり伝わっていると思います。IWAIで結婚式を挙げたおふたりやゲストがInstagramに写真を投稿してくれることがよくあるのですが、IWAIのお花の投稿がすごく多いんですよ。
実際におふたりやゲストを見ていても、参道に入ったときに見えるお花や挙式会場の小窓から見える椿の木、そして会場を出ると目の前に広がる“IWAIの杜(もり)”で足を止めて、カメラを取り出す人がたくさんいらっしゃるんです。そういう姿を見ていると、「心が動く瞬間って、こういうことなんだな」と思いますね。
あとは、IWAIには結婚の周年記念や家族のお祝い事で再訪される方がとても多くて。そこにも、IWAIの花が大きく関わっていると感じています。例えばIWAIの杜を見たときに、「この間来たときはまだ紅葉はなかったな」とか「この木、去年来た時より背が高くなったな」とか。季節や年月の経過で少しずつ変わっていく木々の姿を見ることで、これまで過ごしてきた時間をより肌で感じられるからだと思うんですよね。
それから、IWAIにいらっしゃるふたりやゲスト以外だけでなく、僕たちスタッフもお花からいつもパワーをもらっているんです。
山下さん:
それは嬉しいですね!IWAIの構想段階から、訪れるたびに楽しみを発見し、何度も訪れたくなる場にしたいと願っていました。そして、お客様以外にもここで普段仕事をしているみなさんも豊かな気持ちになるといいなと思っていたので。
吉田:
僕は約3年間IWAIに通っていますけど、見える景色が目まぐるしく変わるので「今日はどんな表情のIWAIが見られるんだろう」と出社が楽しみでしょうがないんですよ。少し落ち込むことがあった日には、挙式会場のお花の前に座って気持ちを落ち着けることも。
IWAIのお花を使って、僕みたいに勝手にマインドフルネスをしているスタッフは他にもいると思います(笑)。IWAIのお花は、ふたりやゲストだけでなく、ここで働くスタッフもシェアしているのかもしれません。
山下さん:
私は、愛情は循環すると思っているんです。ここで日常生活を過ごすスタッフのみなさんがこの場所を好きだと、ここに訪れるふたりやゲストにもその愛が伝わるはず。
結婚式の先の日常も彩るお花
吉田:
結婚式の準備では、式本番まで何回も会場に訪れます。そのたびに生命力のある花に触れて、季節を感じられるのもIWAIで結婚式を挙げる楽しみのひとつ。IWAIに通うと、人生が豊かになる。ふたりにとってそんな場所でありたいと思っています。
最後に、IWAIのお花を通じて、会場に訪れる方々にどんな気持ちになってほしいか教えていただけますか?
山下さん:
植物の力で、少しでも心が豊かになっていただけたら嬉しいです。
また、大切な日を彩った季節の花たちが、時が過ぎたときにふと大切な日を思い出させるきっかけになってくれると嬉しいですね。「この花が咲く頃、こんなことあったね」と、私の知らないどこかでそんな会話を交わしていただけていると幸せです。
記憶に残る花をみなさまに届けられるように、ハレノヒを祝福できる喜びの花を届けられるように、心豊かに過ごしていただける場となるように、これからも植物と真摯に向き合っていきたいと思います。
執筆:仲奈々
編集:池田瑞姫
結婚式写真撮影:kuppography
インタビュー風景写真撮影・バナー画像制作:石積真理恵