毎日Instagramをひらくと、プロの写真集を見ているかのような美しい写真が流れてきて…。思わずSNSに長居してしまう編集・ライターの水田です。ここ数年で世の中の美的感覚の基準はぐっと上がりましたよね。
CRAZYもオフィスの内装、社内で使うプレゼン資料、HPにアップする画像、ついには毎日の洋服まで「美しいかどうか」にこだわるカルチャーがあります。あまりにダサすぎると「その服今すぐ脱いで」と冗談でキツイ一言を言われることも(笑)。
これは「アートディレクター」が、美しさの基準を守っているからなのですが、今回はそんなCRAZYのクリエイティブを支えるアートディレクターの2人に話を聞きました。下積みが必要だと言われるクリエイティブ業界の中で、新卒1年目でアートディレクターへと駆け上がった平津優(以下、平津)と東和香(以下、東)。
実は16卒として入社した同期なのです。だからこそ今回は、「ここまで言うのか? 」と冷や汗をかいてしまうほどの本音を聞きました。美大生やクリエイティブで活躍を志す人に届けたい、自分の信念を貫いて道を切り拓く生き方。前編は入社前の就活で感じた違和感・アイデンティティの葛藤をお伝えします。
プロフィール
平津 優(Yu Hiratsu)
株式会社CRAZY ART DIRECTER
多摩美術大学 テキスタイル専攻卒業。入社後半年でアートディレクターへ昇進。在学中は、墨で布に感情を描く「墨染め」というオリジナル技法を編み出し、自分の体の何倍も大きい布に思いっきり墨をのせていく姿が話題となり、海外での国際交流イベントにゲスト出演。「多くの人にワクワクと笑顔を届ける人生を送りたい」と、株式会社CRAZYに新卒入社。
東和香(Nodoka Azuma)
株式会社CRAZY ART DIRECTER
武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。在学中は、武蔵野美術大学の学園祭広報部の部長を務めるなど課外活動に力を注ぎ、卒業1ヶ月前にCRAZYと出会う。クリエイティブだけでなく、理想の姿で理想の組織をつくることに興味があり「この人たちとなら、予想できない面白い景色が創れる」と確信し、株式会社CRAZYに新卒入社。
初めての挫折。コンプレックスが導いてくれた道。
水田:美大在学時代、どんな学生だったか教えて。
平津:大学の授業にかなり没頭してたね。自分で選んで浪人してるから、本当にやりたいことを出来るのが楽しすぎて。サークルも団体活動もやらずにずーっと物を作ってた。課外活動やりすぎて課題がおざなりになっている人には、かなり冷ややかな印象を持っていたかな。
水田:わりかし真面目な美大生だったんだね。
東:その時に会ってたら友達になれないかも(笑)。
平津:入学前は人と違うことをアイデンティティにしていて、自信があったの。でも入学してから恐ろしいほどのセンスを持つ人がたくさんいて。自分がいかに普通だったのか分かった。努力じゃ勝てない才能があるのかも…と初めて挫折したのも大学時代。
水田:平津は海外でパフォーマンスをしていたよね。
平津:卒業した後の話だけどね。私にしか出来ないことが絶対あるって信じて「人と違うこと且つ自分が楽しくて没頭できること」を模索したときに出会ったのが、墨染めだったの。墨染めって、日本でやってる人がすごく少ないし、中でも布に書く分野は本当に全然いなくて。誰もまだ手をつけてない「この領域だ! 」って。
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平津:卒制は、どうせやるならダイナミックに全てぶつけたいと思って、5メートルの作品を作ったの。そしたら海外にも評価されてオファーをいただき、パフォーマンスをすることになって。エントロピーっていう題名なんだけど、自分の頭の中や感情を描いていて、この先一生向き合わないかもと思えるくらい、内面の汚い部分まで全部出した作品。技法がかなり狂気的だから、参加者の外国人に「クレイジー!」と言われたのも良い思い出(笑)。
東:私は平津とは逆だったなあ。大学が全てだと思っていなかったの。課題は出してたけど、学祭実行委員とか課外活動に全力で。夢中でやってたら「次、学園祭の広報部長をやって」って言われて。私は別に優秀ではないし、リーダーをする気はなかったから、ビックリしたんだけど。
美大ではスキルを持っている人がヒーローになれるのね。他が全部ダメでも、作品が素晴らしければ評価される。当時の私はスキルに対してコンプレックスがあったからこそ「やってやろう」って。そんな自分がリーダーをするなら、違うやり方で組織をつくろうと思って頑張ったの。
水田:2人とも、一目置かれる存在だったんだね。
東:私はカリスマタイプではないし、周囲からの評価が高いわけでもなかった。でも「歴代最多の集客をする」「私の部に入ったことを後悔させない」って想いだけは強かった。だからみんなついてきてくれたのかも。
一番の成果は、後輩がほぼ全員辞めずに学園祭実行委員に残ってくれたこと。年次が上がると役職ついて責任が重くなるし、学科の課題も忙しくなって、毎年どの部署もごっそり辞めていくから。一度辞めるって言った子が戻ってきてくれた時はすごく嬉しかったな。
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運命的な検索と、縁もゆかりもない紹介。
水田:そんな2人はどんなきっかけでCRAZYに出会ったの?
平津:きっかけは母から「結婚式向いているんじゃない? 」ってたまたま言われたこと。どうせやるなら自分のオリジナリティーが発揮できるものがいいし、その人らしさが出るものにしたいと思ってインターネットで『結婚式 オリジナル オーダーメイド』で検索したの。そしたら「CRAZY WEDDING」が出てきて「ここだ! 」って。それで6月24日に内定をもらって…。
東:内定をもらったのは平津が一番最初で、私が一番最後なんだよね。私がもらったのは3月16日。ちなみに卒業式は3月18日(笑)。平津とは全然違うなあ。私がCRAZYのことを知ったのは2月だし、当時は結婚式にまったく興味がなくて。CRAZY WEDDINGも、創業者の山川咲も、オリジナルウェディングという概念すら知らなかった。
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就活はしていたけど、正直乗り気じゃなかったの。始まった途端にみんな黒染めして七三分けして同じスーツ着て、人気の会社に志望する。大手の広告代理店や有名なデザイナーがいるところに入ることがスゴイ、みたいな。そのためのポートフォリオ(自分の作品集みたいなの)をいかに作るかで左右される選考が、ぶっちゃけ嫌だった。
平津:すごくよく分かる。そういう就活だけはしたくなかった。
東:「変な奴や面白い奴がいっぱいいるのに、なんでみんな同じような就活をするんだろう」って。割り切って就活する人、全く就活をしない人がいる中で、私は中途半端に就活してた。どこにも行きたい会社はないし、見ても全部一緒に見える。たくさん受けて、全部落ちたの。周りからは「いろいろ頑張ってたし、決まってないのが不思議だよ」って。私は全然不思議じゃなかった。本当に行きたいと思っていないから。働きたくないわけじゃないし、やりたいことはあるんだけど、それが社会のどことコネクトできるか分からなかったの。だから、もう卒制を全力でやろうって一旦決めて。
卒制をやり切った1月。私にはなんにも無いわけ。内定も無いしコネもない。「どうしよう」と思っていた時に、たまたま学祭委員の先輩が「好きそうな会社あるんだけど、どう? 」ってCRAZYを紹介してくれて。
その時は訪れた。「入社」を決めた決定打とは。
HPを見て半信半疑でオフィスに行ってみたら、オシャレな音楽、綺麗な花、キラキラした笑顔…もうね、恐怖なわけ(笑)。自分とは違うみたいな。でも、数人の社員と面談をする中で、理念や文化を聞いて「この人たちの言葉には嘘がない」って感じたの。今まで就活で出会った面接官も就活生も、誰かの言葉を喋ってる感じだったけど、ここにいる人は自分の言葉でしか喋ってないし、言ってる事とやっている事が一貫していて。
本当に作りたいものを作るとか、自分が生きたいように生きると言ってる人は周りにもいた。でも、出来ている人は少なかった。学生時代はあんなに活躍していた人たちが、会社に入ったとたんに社畜になってTwitterで「家に帰れない」とか「辞めたい」とか「上司が嫌」とか「作りたいものが分からない」と言うようになって。面接を受けた会社にも「お金が稼げるクライアントを選んでやっているからうちの会社は回ってるんです」と言われたときにやるせない気持ちになった。
でも、ここにいる人はそんなことは一切言わなくて、自分の心に素直で前向きだったから、結婚式に興味は無かったし、空間デザインの経験も無かったけど、ここにしようって決めたの。
どの採用イベントも、メンバー紹介のブログも、カッコイイ言葉が並び、伝えていることは大体同じで。何が本当なのか、誰を信じていいのか分からなくなるものです。時に自分のアイデンティティすらも。
今回のインタビューは、綺麗事ではなく「ここまで言っていいのか」というラインを無視したリアルな話を聞きました。時折出てくるトゲのある言葉に、共感した人も少なくはないはずです。
2人は第1志望の就職先としてCRAZYに入社しましたが、入社後待っていたのは、理想の毎日ばかり…なんてことはありませんでした。後編では、アートディレクターになるまでの道のり、知られざる努力をお伝えします。
後編はこちらからどうぞ:
クリエイティブ業界へ就職を目指す人へ。美大生が、一人前のアートディレクターになるまで。
編集:高橋 陽子