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INTERVIEW

クリエイティブ業界へ就職を目指す人へ。美大生が、一人前のアートディレクターになるまで。

(写真左)平津優(写真右)東和香

下積みが必要だと言われるクリエイティブ業界の中で、新卒1年目でアートディレクターへと駆け上がった2人。今回は、そんな2人のアートディレクター平津優(以下、平津)東和香(以下、東)に話を聞きました。

彼女たちの同期であり編集・ライターの水田です。前編は入社前の就活で感じた違和感・アイデンティティの葛藤をお伝えしました。後編は、アートディレクターになるまでの道のり、知られざる努力をお伝えします。

前編こちら:
美大を出てクリエイティブな活躍を志す人へ贈る!アートディレクターの本音。

プロフィール
平津 優(Yu Hiratsu)
株式会社CRAZY ART DIRECTER
多摩美術大学 テキスタイル専攻卒業。入社後半年でアートディレクターへ昇進。在学中は、墨で布に描く「墨染め」というオリジナル技法を編み出し、自分の体の何倍も大きい布に思いっきり墨をのせていく姿が話題となり、海外での国際交流イベントにゲスト出演。「多くの人にワクワクと笑顔を届ける人生を送りたい」と、株式会社CRAZYに新卒入社。

東和香(Nodoka Azuma)
株式会社CRAZY ART DIRECTER
武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。在学中は、武蔵野美術大学の学園祭広報部の部長を務めるなど課外活動に力を注ぎ、卒業1ヶ月前にCRAZYと出会う。クリエイティブだけでなく、理想の姿で理想の組織をつくることに興味があり「この人たちとなら、予想できない面白い景色が創れる」と確信し、株式会社CRAZYに新卒入社。

人の価値観に紐付いた、幅広く学べるクリエイティブ

水田:入社後すぐは、どういう仕事をしていた?

平津:結婚式や、新宿駅直結の複合施設NEWoManのプロデュースとか、BtoBの案件のサブだね。とにかく現場に出る仕事。下積みっていうか実践。多分特殊な環境だと思う。

東:今でこそ整ってきたけど、私たちが入社した時は、教育プログラムもなかったから「今日はこれをやってもらいます」っていうより「この現場行くから、準備して」みたいな。

水田:準備は何をするの?

平津:まず、アートディレクターが考えたデザイン案を見て、必要なものを割り出す。発注や買い出しも全部やって、自分で当日のディレクションが出来るようにタイムラインも作る。

東:いろんな感性のアートディレクターがいることも他の会社と違うところだよね。同じアートディレクターという職業だけど、人によってやり方もアウトプットも全然違うの。

水田:具体的にどういう違いがあった?

平津:例えば、麻子さん(稲数麻子)は、美しいという感覚がとても鋭くて、本当にいいもの・美しいものを作りたいし、そのためにだったら一切妥協しない。隆さん(林隆三)は新郎新婦を表現する空間としての本質を大切にするから、表現がとてもロジカルで。だからこそ、人に伝わる空間を創れる。

東:同じ具材で作るメニューが違うって感じだよね。人参で、カレーを作るかきんぴらごぼうを作るか。どっちも美味しいんだけど。

水田:アートディレクターごとに違うからいろんなものが学べるんだね。

東:「アートディレクターという職業はこうです。サブアートディレクターはこういう仕事をします」ではなくて。麻子さん隆さんが美しいって言うものはそれぞれ違うから「この人の価値観の下でやる時には何を美しいとするか」を自分で考えてトライ&エラーする必要があって。対人の仕事だと思う。

水田:人に紐付くからシステマティックではない難しさはありそうだけど、表現の幅は広がりそう…!

平津:生み出したクリエイティブのゴールがちゃんと見えるのもポイントで。普通大きなプロジェクトを動かしている場所だったら、分業化して、作業的になってしまう。広告写真なら、そばかすを消し続けるとか同じ仕事をずっとやり続ける人もいる。だから「何のためにやってるんだろう」って陥りやすいと思うの。でもこの仕事は「2人の結婚式のため」という明確なゴールがあるから、そこに向かってチーム一丸となって走っていけるのは大きかったし、やっぱり喜んでる表情を実際に見られるから嬉しいよね。

東:サブは普通だったら現場見れないよね? 制作物を作ったら「アートディレクターだけ行ってらっしゃい」みたいな。でもここは、サブも現場に行って、創って、泣いて喜んでくださる新郎新婦に会える。だから大変でも頑張れるんだと思う。

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最短ルートを戦略的に選んだ平津
自らのペースで納得感を積み上げた東

水田:2人は1年目でサブを卒業して、アートディレクターになったんだよね。

平津:うん。私は、同期の中で一番最初に内定をもらったことが良い意味でプレッシャーで、誰よりも早くアートディレクターになりたいと思っていたの。だから、そのためにどうしたらいいか戦略を立てたよ。

水田:どんな戦略だったの?

平津:一番は信頼を得ることに特化すること。任されたことをやるのは絶対なんだけど、その上で人と関わりながら「どうすればこの人は信頼してくれるんだろう」と人の事をすごく観察してた。

自分に自信がないと存在感って出てこない。「自分出来ます!」っていう存在感を出さなきゃと思って、自信をつけるためにダイエットして。KPIに「痩せる」って書いてた(笑)。私はアートディレクターになりたいと思ってCRAZYに入社してるから、そこに一直線だったし、そのためならどんなことをしてもっていう負けず嫌いさがあったなって思う。

自分の作った空間の中で、夜遅くまで考え込む平津。

東:そうなんだ。私はアートディレクターになりたいと思って入社したわけじゃなかったし、サブ業務に集中してたな。私の存在は薄くてもいいから、上司が実現したい世界をどれだけ精度高く実現できるかってことばかり考えてた。言い方は悪いけど、手足になるっていうことがモチベーションだった。「東がサブについたら、業務がはかどる」と言われたくて。だからこそ最初はくすぶってたの。自分に比べて平津が上手くいっているように見えるわけよ。でも平津と同じようにやったところで、同じ結果にはならないなって。なぜ自分が頑張るのかしっかり理由がハマらない限りは、出来ないなと思った。

冬ぐらいに、隆さんの案件に入った時にね、「自分がどんなにデザインして頑張ったところで、泣きながらハグしあえるくらいお客様に影響を与えられるのは、アートディレクターなんだ」って思ったの。

この人に何かしてあげたいって思っても、今の立ち場では想いだけで終わっちゃう。人や場に影響力を与えたり、クリエイティブで盛り上げたりしたいっていう私の意志には、アートディレクターというポジションが必要だって思ったの。自分の意志とアートディレクターになることが合致したから、そこからは結構すぐに進んだ。自分の目的にならないとダメなんだよね。それに気づいてからはブレなかった。

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「強がりの弱さ」と「弱がりの弱さ」の先へ

水田:アートディレクターになる過程で一番しんどかったのはなんだった?

平津:弱い自分を承認できなかったこと。そういう自分を見せたときに、人が離れてしまうのが怖かった。だから絶対強くあろうって思ってたし、自分の見せ方をすごく気にして過ごしてたの。

分からないことがあっても「これって…」て聞いたら「使えない人だ」って思われてしまうんじゃないかって。だから「分かりました! 全然OKです」って言っちゃうの。後になって「これってどうなってる?」って聞かれて「出来ていないです…(めっちゃ小声)」みたいな(笑)。

それが本当に嫌だったんだけど、弱い自分を見せることで人に頼ることを覚えていって。そもそも人と一緒に創るってことが奇跡的で、有難いことなんだって感じるようにもなったんだよね。そこから変わった。弱い自分を承認できるようになった。これが一番しんどかったことであり、一番成長したこと、一番変わったことかな。人にどう思われているかなんて、極論どうでもいい。世の中で私自身が自分の事をちゃんと愛して承認してれば怖くないなって今は思えてる。

平津がディレクションをした結婚式の高砂。今までの出会い・ご縁が交差して結ばれる日をコンセプトにした「和風」のデザイン。

<平津のクリエイティブ作品はInstagramからどうぞ>

水田:次に乗り越えたい壁はある?

平津:自分だけでなく人のことも承認出来るようになった今、今度はそれが壁になると思ってる。全てに共感してしまうの。その人の事を思ってるから共感してるんだけど、本質的に必要であれば、厳しい言葉や行動を選べるようになりたい。

水田:東のブレイクスルー点はどこにあった?

東:私はサブをする中で「お前はどうしたいの? 」ってよく言われていて。「御用聞きじゃないんだよ、サブは」って怒られてた。でも「みんなが成したいことの力になることが成功じゃん」って当時は思ってたのね。

自分の意志を信じられていなかったの。信念がある人の想いに乗っかれば頑張ることができるけど「お前はどうしたいの? 」って聞かれた時に、無いんだよ。変わったきっかけは、自分の信念、やりたいことをに気づかせてもらえたこと。教えてもらって、事実として上手くいった仕事はあったけど「そういうことじゃない」って言われて。「どういうこと?」って思ってたんだけど、結局そこに自分の意志が乗っかっていないと、周りに影響できないよってことだったの。その人のことを考えて行動したいって意志をどれだけ表明できるかでしか、人に影響できないって気づいてから、考え方が変わった。上司がやりたいと言っているからやるじゃなくて、「こっちのほうがいいと思うんですけど、どうですか? 」って言えるようになったのも昨年の秋くらいから。

「お前が言いたいこと、それじゃないでしょ」てみんな言い続けてくれて、自分でも信じられない自分の意志を信じてくれたから、本音に気づけるようになった。可能性を信じて、失敗しても次のチャンスを何らかの形で与えてくれたから、変わったなって思う。

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東がディレクションをした結婚式の高砂。

<東のクリエイティブ作品はInstagramからどうぞ>

水田:鍵は周りの人だったんだね。

東:究極その関わりに気づいた自分自身だったかもしれない。「誰かのために」で世界は変わらない。「誰かのためにこうしたいから自分はこうする! 」しかないんだって。

水田:クリエイターとして描いている人生的な目標はある?

平津:産業や工場の職人さんが、心から作りたいと思うクリエイティブをちゃんと生み出せるような市場や場所を創りたい。学生時代にテキスタイル*1で職人さんと関わって思ったことは「こんなに素敵な技術やこだわりがいっぱいあるのに、その人たちが継続し続けられる市場が全然ない」ってことだったの。

だから後継ぎがいなくて、70歳過ぎのおじいちゃんがマシーンを使って2,3人で頑張っていて。彼らが、明るく楽しく本当に作りたいと思っているクリエイティブを作れるような、市場や場所を創りたいなって。私はそうした人たちと一緒に仕事をしながら、ものづくりの工程や想い、温度を伝えられるクリエイターになりたい。

東:私は独立したいとか、こういう職業に就きたいとかはないな。ただクリエイターが自分の最大のベスト尽くして輝いている姿が好き。花屋、絵描き、ミュージシャンとか究極はどんな職業でもいいのだけど、それをやっている人が輝いていて「大人になってから生きる人生もすごく楽しいし、やりたいことで世界を変えられる」と信じる人が増えれば、世の中が変わると思うの。私はそう体現する人になりたい。そのためだったらルートはぶっちゃけなんでもいい。例えば人を集めてイベントをやりたいって思ったとき企画立案や実行ができるように、自分が影響を与えたいと思ったことに影響を与えられるように、今は組織に所属してアートディレクターという役職で力をつけている感じ。

(END)

話せば話すほど正反対の2人。
同じ会社で、同じ職種。同じ機会に恵まれたとしても、乗り越えるべき弱さの種類も、大切なことに気づくタイミングも、究極は人それぞれなのだと痛感させられました。

そんな2人に共通していたのは、学生の時も社会に出てからも、「自らの信念を貫いて行動してきた生き方」なのだと思います。考え、悩んで、自分なりの哲学を研ぎ澄ましてきた彼女たちの生き方が発揮されていく、今後のクリエイティブが楽しみで仕方がありません。

 

◆CRAZYはアートディレクターを募集しています:募集要項はこちら

前編こちら:
美大を出てクリエイティブな活躍を志す人へ贈る!アートディレクターの本音。

 

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新しい時代の「ものづくり」のつくり方を考える vol.2開催決定!
日時:2017年11月20日(月)19:30-21:30

法人向けクリエイティブサービスを提供する『CRAZY CREATIVE AGENCY』のディレクター林隆三と、その友人であり、今話題のクリエイター3名が集まり、デザインからライフスタイルまでを気ままに愉しく語らいます。詳細はこちらからご覧ください。

【HOST】
林 隆三(CRAZY CREATIVE AGENCY/クリエイティブディレクター)
【GUEST】
長谷川 彰良(モデリスト・デザイナー・ブロガー・ビンテージコレクター)
中村 真広(株式会社ツクルバ 代表取締役 CCO/エグゼクティブ・プロデューサー)
伊藤 祐春 (チームラボ株式会社 / デザイナー)
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*1 テキスタイル 織物。布地。

水田 真綾(@maya_mip)
Maya Mizuta

『CRAZY MAGAZINE』を立ち上げ、執筆・編集共に行っている。学生時代は人の世界観を形作る「メンタルモデル」に興味を持ち、「学習する組織」や「U理論」を学んで団体を創設、イベントを多数開催。趣味は、星を見て風を感じて森でお散歩をすること。愛読書はエーリッヒ・フロムの「愛するということ」。

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