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INTERVIEW

『うまれる。』は、山川咲の物語ではなく、あなたの物語。

「生きることへのリアリティを取り戻す体験」。そう表現することもできる、山川咲の個展「うまれる。」。それは、美術展でも映画でもない、そしてもちろん個展という表現にも当てはまらない、新しい取り組みだった。

わずか10日間のこの展示への来場者数は、延べ650名。光と花で溢れた8畳ほどの空間に、山川の新しい世界に触れたいと感じた人たちが、途切れることなく訪れることとなった。山川の言葉と静かに対話をする人、堪えきれない涙が溢れる人。様々な思いが交差する、静かで美しい、特別な時間がそこにはあった。

新しい世界を届けようとした真意と、展示を経て、山川咲が手にしたものは一体何だったのか。

プロフィール
山川咲(Saki Yamakawa)株式会社CRAZY CRAZY WEDDING 創設者。
大学卒業後、ベンチャーのコンサルティング会社へ入社。5年間の社会人生活にピリオドを打ち、退職後、単身オーストラリアへ。帰国後、「意志をもって生きる人を増やしたい」との想いを実現すべく、業界で不可能と言われ続けたオリジナルウエディングのブランド「CRAZY WEDDING」 を立ち上げ、たった一年で人気ブランドに成長させる。2016年に事業を退き、現在に至る。2017年9月30日-10月8日で自身初となる個展「うまれる。」を開催したばかり。毎日放送「情熱大陸」に出演。著書に『幸せをつくるシゴト』(講談社)がある。

ノート6冊分に綴られた、来場者の溢れる想い。

「ここにあるのは難しいものなんてない平易な言葉なのに、どうしてこうも胸を打つのでしょう。読み進むほどに涙が溢れてきました」

「うまれる。は、アートのひとつだと思いながら、言葉を受け取らせていただきました。キューっとするような胸の痛みと、心があたたまる感覚を持って、“ 私 ”を感じながら歩いて帰りたいと思います」

「この展示を見ながら、自分も母親からこんなに愛してもらって生きてきたんだなと気づかされました。その事実に涙が止まりません」

「ここに来るのはミーハーかなとも思いましたが、見終えた今、来てよかった! と心から思っています。いつのまにかアイドルのような偶像的咲さんではなく、『一人の母親』の姿を見ていました」

「男性にはひっくり返っても体験することのできないことを表現してもらい、山川咲という人間が体当たりで体験した人生を味わわせてもらった気がします。逆説的ですが、女性でない人、母でない人にこそ見てほしいと思いました」

「子供が生まれたときのことを思い出し、忘れていた愛おしさに涙がでました。この子にもっと優しくしてあげたいと、ぎゅっと抱きしめて展示を拝見しました。」

「読む個展」。新しい表現方法で、確かに届いたという手応え。

-新しい表現方法で挑んだ、「山川咲の新しい世界を伝える」展示。期待や不安、様々な思いがあったんじゃないかと思います。東京での会期を終えて、今どんな気持ちですか。

今振り返ると、この個展を本当にやってよかった。大変だったけど、とても楽しかったですね。こんなに純粋に何かを表現したいとのめりこんだのは久しぶりでした。ただ、プロセスは順調ではなかったですけどね。

制作チームからも、「今回の見所は、間違いなく山川咲の言葉」と言ってもらっていたので、「読む個展」という表現を使っていたのですが、なかなか文章も書き進められなくて…。正直なところ、生まれて2ヶ月の子どもを育てながら、言葉と子どもそれぞれに100%の自分で向き合うことは難しいのでは、と諦めそうにもなりました。

焦りもある中、もう会期の数日前になっていたと思うんですけど、朝3時にふと目が覚めて。最後まで文章を書き上げることができたんです。それで、すぐにえみちゃん(今回のプロデュースを担当した、CRAZY WEDDINGの伊東絵美)に送ったら、えみちゃんも「あぁ、これで見えました」って言ってくれて。

伊東絵美の記事はこちら:
女性のキャリア特集〜「結婚」のタイミングで「新規事業」をおこす決意と働き方〜

私の中で、言葉を出す作業もさることながら、余計なものを取り除いて、一粒一粒を磨いていく作業に、今回は最も時間を割きました。自分の言葉と、自分自身が研ぎ澄まされていくようなプロセス。そして、言葉が出揃ってからも、まだまだ何度も読み返して、差し替えてという作業が続いて、何とか会期前日のレセプションの日を迎えたんです。

-私は偶然にも、最初の訪問者になったのですが、当日は不安そうな顔していましたね。

はい(笑)。前日から、なんとも言えないほど緊張していました。ギャラリーは2階だったから、私は1階にいて。展示を見終えて降りてくるみんなの顔を見るわけなんですが、最初の10名くらいまで「どうだった? 」なんて、怖くて聞けなかったくらい。改めて、私は小心者なんだなぁーと思った(笑)。恐る恐るみんなの表情を見て、「ありがとう」を伝えるので精一杯でした。でも次第に、想像通り、そして想像以上に伝わってるという手応えも出てきて、最後の方には「よかった?」と感想を聞くことができた(笑)。

-その緊張は、プロデュースした結婚式の当日の感覚と似ていますか?


そうだなぁ…なんかもっと過酷に感じた。結婚式という場は、そもそも人生レベルで関係性の深い人たちが、ふたりの結婚をお祝いするという明確な目的で足を運ぶもので、圧倒的に好意がある前提。でも今回は、そうじゃない。入場料まで払って「どれどれ」と観に来る人たちに対して、言葉と少しの写真だけで勝負する、シンプルな場で。そして素材は私自身。今までの経験を問われているような気がしました。「山川咲、なんぼのもんじゃい」って(笑)。

私は、「一番強みが活きるのは、講演というか対面の表現だよね」と言われることも多いんです。「元気・笑顔・エネルギー」という印象も強いみたいで。でも今回は出産を通じて、私の内側に溢れる力強くて心揺さぶる、でもとても繊細なこの感覚を、淡々と言葉の粒に乗せて表現したいと思いました。私の表側の印象をすべて取っ払って。一人ひとりを感化してエネルギーを届けるという強みを脱ぎ捨てて、ただ言葉だけで勝負したのが今回の展示でしたね。

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「やっぱり、人生は素晴らしい」あたらしい山川咲、はじまる。

山川咲の言葉の力。彼女が言葉にこだわる理由。

-常々、「言葉で表現することが一番好きだ」と話していたようにも記憶していますが、言葉にこだわりがあるのはどうしてですか?ルーツがあれば教えてください。

「言いたいことが言えなかったから」じゃないかな。3歳から閉鎖的な片田舎で暮らすことになったよそ者の私は、周りの人を見て自分の立ち位置を探ることが多かった。誰がどんなことを求めているかが分かるから、そういうことを発言したりするような、子供ながらに洞察力の高い大人びた子供でもあったと思うんです。

同時に母親はとても厳しい人だったから、いくら頑張っても認められていないような気がして。そういう意味では外でも家でも、自分の人生について悩むことが多かった。

そんな中で、自分が自由に表現できる場が、絵や文章を書くことだったんです。言葉にこだわるルーツという意味では、言葉にするということは唯一、私が私で居られる方法だったのだと思います。書く世界にいるときだけが、自由で居られると思っていたから。言えないことも、言葉では表現できたし。だから、書くことって私の中で、とても特別で神聖なイメージなんです。大人になった今でもそれは変わらないかな。

表現できない不自由さと、考え続けた深さは、決して楽しい思い出ではないけど、思い返すと私の「書く」という今の武器を形成してくれた大きな要素なんですよね。

ひとつ言えることは、家族とずっと仲が良くて順風満帆に生きてきたから、あの「うまれる。」の世界ができたわけじゃなくて。「こんな家に生まれたくなかった」「顔も見たくない」、そんな衝突を何度も繰り返して大人になっているということ。

でも、今回改めて自分でも展示を見て、「いい年のとり方ができているのかな」と思えました(笑)。これまではずっと、先頭を切って旗を振って、周りを巻き込んで、一番自分が動くんだってやってきた。でも、その限界を感じて、仕事をお休みもしたし。そして、英(はな)がうまれたことをきっかけに、こうやって、また違う新しい表現にたどり着けて、たくさんの人が受け取ってくれた。10日間の会期は、あぁ私はここまでよく生きてきたなって、自分を承認する時間と空間でもあったと思うんです。

ギャラリーという新しい表現の方法。だからこそ、届けられた思い。

-私は、このギャラリーという形式がとてもよかったと感じます。自分の速度と距離感で、「山川咲」に相対することができたから。実際に、そういった声も多かったようですね。

ギャラリーの体験って、基本的には、パネルに印刷された言葉が並んでいるところに、少し写真が添えられているくらいのシンプルな展示なんだけど、究極的には言葉しかないこの空間で、本当に多くの人が涙をしていて。映画よりも心を揺さぶられたと言ってくださる方もいました。

世の中のトレンドとして、「体験型」がひとつのキーワードになっているけど、ギャラリーでもみんな、その言葉の向こう側にあるものを想像して感動を体験していたんだと思います。情報が少ない分、それぞれが、私の体験や言葉に端を発して、自分の人生を回想して、自分の人生に感動しているのだということが、すごく伝わってきて。

当たり前のことだけど映画は、見ている側の気持ちが追いついていなくても、勝手にストーリーがどんどん進んでいく。でも、このギャラリーでは自分の速度でストーリーを感じながら読み進めていける。そして何より、映画には主人公がいて、その人に共感して感動するものだけど、このギャラリーでは、私を通じてそれぞれが自分の人生を想像し共感している。

つまり、見てくださった人たちが、山川咲の人生に起きた出来事を通じて、自分の人生に共感し、肯定する気持ちが溢れたと思うんです。「自分の人生に共感し、肯定すること」って、人が最も求めていることなんじゃないかと思う。それを体感できるこの新しいクリエイティブの可能性を味わえたことも、大きな発見だったなと思っています。

それから、私の本を読んだり講演に来たりしてくれる人たちは、女性が多いんだけど、今回の展示は男性が来てくれていたことも印象的でした。彼らは、働くとか生きるとか、情熱大陸出演までの葛藤みたいなところに、同じビジネスパーソンとして見入ってくれていたように感じました。

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『うまれる。』のこれから。

-多くの反響が集まる中で、すでに次の開催地が決まっているそうですね。

3か所での開催を予定しています。英を生んだ場所であり、いのちについて考えるにふさわしい場所だと思った広島と、開催してほしいという声を多く寄せてもらった大阪と福岡です。

山川 咲 特別ギャラリー『うまれる。』
広島開催 2017/11/24(金) 15:30~2017/11/26(日) 17:30
大阪開催 2017/12/2(土) 10:30~2017/12/3(日) 17:00
福岡開催 2017/12/8(金) 13:00~2017/12/10(日) 17:30

-書籍にして欲しいと言う声も多かったそうですね。

そうですね。でも、あの空間は二次元では表現できないなと思います。あの場にいるから感じられることがあるから。同じように目の前の言葉と対話をしている人の気配を感じられたり、子どもの声が聞こえてきたりして。だから、ぜひ足を運んで、特別な体験をして欲しいと思いますね。

-言葉で魅せるということは、その言葉を紡ぐ力量が問われると思います。今回はご自身で紡いでいったと思いますが、通常のこのギャラリーという表現方法の場合は、書き手は誰になるのでしょうか。

通常は、GALLERY WEDDINGえみちゃんが、お話を聞かせていただいてコンセプトを決めて、言葉を紡いでいきます。自慢みたいなんだけど、えみちゃんだからできると思いますね。それは、「人生が素晴らしい」と信じている人であり、深い人生経験を重ねてきている人だから。キャッチーなコンセプトで、耳障りのいい言葉を並べることは誰にだってできるけど、人生と本気で向き合って言葉を紡ぐ作業は、相当なパワーがいる。簡単なことじゃない。それも改めて今回実感しています。

-最後に、これから足を運んでくださる皆さんにメッセージをお願いします。

言葉だけで勝負できるのかな…と思ったけど、究極的には言葉しか要らないとさえ思いました。ギャラリーという新しい形式だからこそ、皆さんに、私の新しい世界が伝わったのだと、今は確信を持って言えます。東京開催の前は、受け入れてもらえるか不安だったから(笑)。ぜひ、これからよりたくさんの方に、あの特別な時間と空間を体験して欲しいなと思っています。

(END)

山川 咲 特別ギャラリー『うまれる。』のチケット購入について
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◉インタビューを終えて
『うまれる。』は、「出産を機に発表した、山川咲のプライベートな展覧会」ではありませんでした。
熱望した情熱大陸への出演後、会社に注目が集まる今だからこそつかめるチャンスをともがく中で、自分を失っていった彼女に、仕事で葛藤する自分を投影する。妊娠を通じて精神的に解放されていく彼女に、自分の妻の姿を重ね合わせる。出産を経て娘に無条件に愛を注ぐ彼女に、自分の母の姿と自分の子ども時代に想いを馳せる。
女性であるか、結婚しているか、子どもがいるかどうかは関係ない。
言葉で紡がれた、「山川咲という真っ直ぐに生きる一人の人間の体験」を通じて、一人ひとりが自分の人生を想う、特別な時間がそこにはありました。

伊勢真穂
Maho Ise

リンクアンドモチベーションにおける約8年間の組織人事コンサルティング経験を経て、フリーランスとして活動中。組織変革の知識と現場経験を豊富に持つため、HR領域における取材依頼が多い。「Forbes JAPAN」や「HR2048」といったビジネス系メディアでの執筆を行う。

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