2025年、CRAZYでは新たな取り組みを開始しました。代表の森山と取締役の熊谷が保有していた株式の一部について、会社による自己株式取得(いわゆる金庫株化)を行い、その一部を社員へ譲渡する仕組みです。
株式とは、重要な意思決定に関わるものであり、CRAZYという存在の行く末に責任を持つということ。
そう語る2人は、なぜその責任を社員と分け合う決断をしたのか。どんな仕組みで、何を目指したものなのか。
2年間の検討と対話を重ねた末に生まれたこの取り組みについて、代表取締役社長の森山和彦(以下、森山)と取締役の熊谷幹樹(以下、熊谷)に話を聞きました。
選んだのは、社員とともに会社をつくる未来
—まず、今回CRAZYが行った取り組みについて教えてください。
熊谷:森さん(代表森山)と私で100%所有していた株式のうち、25%を会社が自己株式として取得し、その一部を社員に譲渡することを決めました。
今回の取り組みについて
【何をしたか】25%の自己株式取得 → 社員への一部株式譲渡
【目的】一人ひとりが自らの人生を軸に、会社をつくる当事者意識を高め、長期にわたり繁栄し続ける組織を実現するため
【対象】株式を受け取った社員は11名
株式というと資産として語られがちですが、本来株を持ってもらうことは「会社を一緒につくるオーナーになること」を意味します。
—ストックオプションなど既存の制度とは、どんな違いがありますか?
熊谷:例えば、世の中には持株会やストックオプションなど、社員が株式に関わる仕組みがすでにあり、それぞれに良さがあります。そのうえで僕たちは「金銭的なリターンだけではなく、意思決定に責任を持つ立場」を経験として渡すことに重きを置きました。
お金の報酬だけではなく、会社の未来をともに扱えるようになること。そのための土台をつくりたかったんです。

森山:株式会社では、日々の経営判断は経営陣が担い、重要事項は株主総会で決議されます。
だからこそ、株式を持つことは「会社の未来に関わる重要な責任を持つ人になる」ことだと捉えています。もっと言えば、僕にとって株はお金ではなく会社の“命”そのものです。
株式を持つことで「この会社の未来を担っている」という確かな実感が生まれる。その確かさが「自分の存在が会社を形作っている」という深い覚悟を引き出します。
既存制度では届かなかったその構造をつくるために、この仕組みを選びました。
熊谷:多くの組織では、意識せずとも「雇う側・雇われる側」という前提が残りやすいと感じています。
働く人の情熱や時間は、対価として交換されるが、未来をともにつくる権利までは手に入らない。その意識構造の中では、会社の未来に自分が関わっている実感を持つことが難しい部分があります。
そこで社員に対して「自分の人生として会社をつくる席」を、具体的に株式という形式で渡すことにしました。これは、働くことの意味を再定義する仕組みでもあると思っています。

組織拡大を見据えた仕組み
—そもそも、この仕組みを考え始めた最初のきっかけは何だったのでしょうか。
森山:はじまりは、幹樹さんからの一言でした。
金融業界で経験を培ってきた彼は、株についても多面的な視点を持っています。そんな幹樹さんから「今後CRAZYが大きくなっていく上で、森さんは株についてどう捉えているの?」と聞かれて。
当時の僕は「いつか向き合うべきテーマだ」と思いながらも、明確な考えがあるわけではありませんでした。幹樹さんと何度も話すうちに「株をどう扱うかは、CRAZYの未来そのものにつながる問いだ」と気づいたんです。

熊谷:金融の世界では、株価は“数字”として語られがちです。でもその裏側には、必ず“人の努力”があります。株式というのは、本質的には“人”が生み出した価値への信頼。
つまり株式とは、会社ではなく、 “人”への投資なんです。だからこそ「人が価値を生む」というCRAZYの原理原則を、資本の構造でも体現できないか。そんな想いがありました。
森山:そしてもう一つ、現実的な背景もあります。
CRAZYはこれから組織拡大を目指していく。そのとき必要なのは、統率でも管理でもなく、会社の未来を自分ごととして動かす“リーダー”の存在です。
会社が大きくなれば、経営者一人で担える範囲は必ず限界を迎える。逆に、リーダーとなる社員一人ひとりがオーナーシップを持てば、組織はその人の人生とともに成長していく。
今回の株式の仕組みは、そんな未来を前提に設計した “組織の土台”でもあり、CRAZYが次のステージへ進むための仕掛けでもあるんです。

—熊谷さんは今回の取り組みを「働くことの意味を再定義する仕組み」と話していました。現代において、この取り組みはどんな意味を持つのでしょうか?
熊谷:戦後の日本は、年功序列や終身雇用といった仕組みが企業と個人の関係を支えてきました。けれど今は、転職も副業も一般化し、働く人が自分の選択肢を自由に持てる時代です。
働く人にとっては選択肢が増えた素晴らしい時代である一方で、企業にとっては優秀な人材を引き寄せ続けることが難しくなってきています。
森山:この課題に対する解決策は「給与を上げる」「福利厚生を充実させる」といったものは間違いなく大事な要素です。ただ、僕たちは別の独自性のある入口をつくってみたかった。
働く理由が「オーナーとして会社のあらゆる出来事を楽しむ」そんな選択肢をつくれないかな、と。
自分の夢や希望が会社の未来と重なったとき、人は義務ではなく“自分の意志”で働ける。
それが、働くことの充実や、人生の張り合いにもつながっていく。そんな可能性を、僕らは探ってみたいと思っているんです。

熊谷:今回の株式譲渡は、単なる金銭的なインセンティブではありません。「自分もこの会社の未来をともにつくる存在だ」という、関わり方そのものの再定義です。
働き方が多様化するほど「なぜここで働くのか」「どう生きたいのか」を自分自身に問う機会が増える。
その問いに対して、株式という形で“共同経営者としての視点”を持てるのは、これからの時代のひとつの選択肢になると考えています。
2年間の葛藤と、与えることで見えた未来
—大きな決断だったかと思いますが、迷いはなかったのですか?
森山:もちろん、たくさん悩みました。幹樹さんともアイデアを重ね始めてから、決断するまでに実際2年くらいかかっていますね。
—最終的に株式の譲渡を決断した決定的なきっかけは何だったのでしょうか。
森山:パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードさんの記事との出会いが大きかったです。彼が全株式をNPOに寄付したというニュースを見た時、パタゴニアが大好きな僕は「あぁ、かっこいい」と感動したんです。
ただ、読み進めるうちにふと「なぜ今のタイミングなのだろう?」という問いが残りました。考えれば考えるほど、やるなら若いうちの方がいいし、会社が大きくなる前に渡した方がいい。CRAZYに置き換えたら「今渡すのが一番いいタイミングだ」と思ったんです。
—「若いうちに渡した方がいい」という考えには、どんな背景があったのですか?
森山:20代・30代で会社のオーナーとして生きる経験は、お金では測れない大きな財産だと思っています。
僕自身、創業者としてうまくいかない苦しさも、事業をつくる喜びも、挑戦の興奮も味わってきました。

会社を「自分の手でつくる」という実感は、働く以上のロマンを与えてくれる。もし社員がその体験を若いうちからできたら、働くことと自分の人生がより深く結びついていく。
逆に、渡すタイミングが遅くなればなるほど、そのロマンを味わえる時間は短くなる。そう気づいたとき「できるだけ早く渡したい」と自然に腹が決まりました。
—ただ、そうは分かっていても実際に決断するまでには時間がかかってしまった、と。
森山:そうなんです。頭では渡すべきだと分かっていても「いくら渡すか」「誰に渡すか」「本当にこれでいいのか」とても葛藤しました。
考えを整理するために、一人で山登りをしたんです。そこで、葉が落ちていく枯れ木を眺めていたときに「愛というのは、自分がまず身を切って、与えることなんだ」と気づいて。
葉はいつか枯れて、地面に落ちますよね。同じように、僕たちもいずれは死にます。命は、誰にとっても有限です。でも、落ち葉が養分となって次の命を渡していくように、僕たちも次の世代に何かを残すことができるはず。そのひとつの答えが、株式なのかもな、と。
僕たちが次の世代に渡した株式も、その次の世代に渡っていく。こうやって、命が繋がれていく。
そう考えたときに「だったら、やっぱり若いうちに渡したほうがいい」「渡せるだけ渡したい」と、自然と決断できたんです。同時に、不思議と気持ちが楽になったんですよね。

—なぜ、気持ちが楽になったのですか?
森山:これまで創業者として「自分が頑張らなければダメだ」という感覚がありました。問題があれば駆けつけるし、社員に何かあればすぐ対応する。誤解を恐れずに言うと「重い荷物」をずっと背負っていたというか。僕は、仲間がずっと欲しかったんですよね。

株式を渡したことで「一緒に背負う仲間ができた」と思えたのだと思います。僕も頑張っている。でも、同じようにみんな頑張っている、ということを心から信じられるようになったんです。
—「仲間がずっと欲しかった」とは、具体的にはどのような想いだったのでしょうか。
森山:CRAZYでは、これまでに多くの困難がありました。人間関係の問題、事業の危機、数え切れないほどの問題を皆で乗り越えてきました。ただ、どこかで「僕がなんとかしなきゃ」という想いもずっと抱えていたんですよね。
そうした経験を重ねる中で、同じ夢を共有し、同じリスクを分かち合い、同じ未来に向かって歩む対等なパートナーがほしい、と思うようになったんです。

熊谷:実際、決断後の森さんは柔らかくなりましたよね。先に「与える」ことで、結局「与えられている」んだな、と傍から見ていて感じました。
—「与えること」について、あらためて向き合う機会にもなったのですね。
森山:成功した結果として生まれる余剰を社会に還元することにも、もちろん大きな価値があります。
一方で、今回僕たちが行った譲渡は、今自分が大事にしている経営権も含んだものを手放す決断だったので、心理的な痛みも含めて向き合う必要がありました。株式について、お金について、僕の人生について、散々考え抜いた2年でした。
手放し与えると決めるまで、多くの葛藤があったのは事実です。だからこそ、結果として大きな喜びを感じることができています。
「手放し、与え、与えられる」とは、そんな尊い営みなのだと思います。
—社員の方への譲渡は、どのように進めていったのでしょうか?
熊谷:まず、付与対象となった社員には「株式とは何か」について徹底的に学んでもらいました。冒頭でも話したように、株式を所有するということは、ただ利益を受けとるだけではなく「会社の一部を所有する責任」を負うということですから。
森山:その荷物を背負うかどうかも含めて、株式を受け取るかどうかの最終的な判断権は社員側にあります。
このプロセスをしっかりと踏んだ意味は、大きかったですね。単に「株式をあげます」ではなく、儀式的に段階を踏んだからこそ、お互いが納得感を持って譲渡ができたのでは、と思っています。

—先ほど、譲渡を決意してから、森さんに大きな変化があったとお話がありました。譲渡した社員には何か変化はありましたか?
熊谷:現在、株式を受け取ったメンバーは11名います。森さんと私を含めて13人で、定期的に株主会を開催し、会社の未来について話し合っています。
そこで感じているのは、メンバーの能動性が目に見えて増えたな、ということ。CRAZYは100名を超えて、次の規模へと成長していきます。そのためには、20〜30人の「強いリーダー」が必要だと考えています。株式を活用することで、その実現に着実に近づいているな、と実感しています。

森山:「目に見えない信頼関係」が、着実に育まれていますよね。先程も話したように、「同じように頑張ってくれている人が、こんなにいる」と心から信じられるようになったから、任せられることが格段に増えた。
結果として、メンバーが僕たち経営陣を信頼してくれる度合いも高まっていると感じますし「自分たちが会社を成長させるんだ」という当事者意識もこれまで以上に強くなったように感じています。
—一方で、株式を受け取っていない社員の方もいますよね。そうした方々へは、どのように説明を行っているのでしょうか。
森山:全社員に対して、この取り組みを公表することにしました。株式について詳しくない社員も多くいたので、丁寧なコミュニケーションが必要でしたね。まず株式とは何かについて社内勉強会を開催し、次に今回の取り組みの目的を共有する。

そのうえで、不安や疑問を感じた社員とは、個別で対話する時間を設けました。今回の選考基準について詳しく説明し「一緒にさらなる挑戦をしていこう」と、僕たちの想いを伝えました。
熊谷:大前提、CRAZYにいるメンバーはみんな全力で頑張ってくれています。だからこそ「なぜ自分はもらえなかったのか」という声もありました。悔しさや違和感が出るのは自然なことだと思います。
その感情を分断ではなく「次の挑戦の力」に変えられるか。そこは私と森さんの腕の見せ所です。
森山:今回株式を譲渡しなかったメンバーとの対話の中で、これだけCRAZYのことを思ってくれているんだということを知れたのは本当に嬉しかったですね。だからこそ、一人ひとりに向き合いましたし「さらに勇気を出して人生を進めてほしいと思っている」という気持ちを伝える機会にもなりました。
愛から始める資本主義──働くことの意味を再定義する
—この取り組みを通じて、CRAZYが目指す未来とは?
森山:僕の尊敬している企業のひとつに、サントリーがあります。売上高3兆円を超える日本最大級の非上場企業で、創業から120年以上経った今でも、創業家が経営に深く関わっているんですよね。
サントリーって、ウイスキーのような長期熟成が必要な事業をやっているから、短期的な利益よりも長期的な視野を大切にしている。そういう永続的な仕組みをCRAZYでも作れたらなと思っています。
あと、サントリー美術館や財団活動を見ていると、勝手な意見ながら本当に楽しそうなんですよ。会社を大きくすることで、社員により良い環境を提供できるのはもちろん、社会にも貢献できる。
利益が出たら、その分を世の中に分配していけるじゃないですか。そういうことを考えたときに、すごくワクワクするなって思うんです。

熊谷:今回の取り組みは、ある種の社会実験でもあるんです。生活の安定も大切にしながら、同時に「自分の希望やロマン」に向かって働ける人が増えたら、もっと幸せになると思うんです。これを、思想的な話ではなくて、経済社会の中で実現可能なものにしていく。
CRAZYが成長すれば、その影響はもっと外へ広がる。だからこそ、私たちは日本だけでなく世界にも挑戦したいと思っています。働き方の選択肢を広げられる会社でありたいからです。
森山:社会って、お互いに影響を与え合いながら、織り込むように、編み合うように変化していくものだと思うんです。僕自身がさまざまな記事や本、周りの人たちの生き方からインスピレーションを受けたことで、CRAZYも変わってきました。同じように、CRAZYの生き様を見て、変わったと言ってくれる人たちもいらっしゃいます。
「1社がやったところで、世界は変わらない」という声もあるかもしれない。それでも、僕たちは、この仕組みを運用し、改善し、次の世代へ渡せる形にするところまでやり切りたいと思っています。
企画・編集:夜久早紀・越智日和
執筆:仲奈々
撮影(一部):kuppograpy
デザイン:宮川雄気
