「デザインの力を最大限生かし、この状況を前に向けたかった。」 デザイナー板坂諭氏が語るオリジナルパーテーションへの想い

新型コロナウイルスの感染対策のため、飲食店をはじめ様々な場所で導入されている飛沫防止用パーテーション。

安心とはいえアクリル板という構造上、相手とのコミュニケーションにおいて壁があるように感じてしまうという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

IWAI OMOTESANDOで使用されているオリジナルパーテーションは、その壁を無くすということにチャレンジしました。今回は、パーテーションの制作に関わっていただいたデザイナーの板坂 諭さんに開発への想いを伺いました。新型コロナウイルスの影響が続く中、この状況下でのデザインやプロダクトの在り方について考えるきっかけとなれば幸いです。

オリジナルパーテーションの概要はこちらをご覧ください。

デザイナー 板坂 諭氏
2012年に株式会社the design laboを設立し、建築設計、プロダクトデザイン、アート活動まで幅広い分野で創作活動を行う。個人邸や商業建築設計を主軸としながら、海外メゾンなどではプロダクトデザインを担当している。NYのギャラリーや世界的なアートイベントでアート作品を発表し、幾つかの作品が美術館のコレクションに加えられるなど、エリアやジャンルを越えた活動を行っている。


この状況をどう乗り切るのか、デザインで示したかった

-今回パーテーションを制作いただいた上で、デザイナーとして考えたことやお気持ちをお伺いできますか?

板坂さん:
デザイナーやアーティストはよくカナリアに例えられますが、世の中の変化をいち早く察知し、周囲に伝えることが我々の役割です。新型コロナウイルスが襲来し、世の中の流れが大きく変わりました。この状況をどう乗り切るのか、それを示すことが我々の役割だと感じていました。俯いて乗り切るのか、前を向いて乗り切るのか。当然後者を選択し、その道筋をデザインで示したかったんです。

例えば、病院にアートを導入することで、心身的に癒しとなる場を提供する「ホスピタルアート」というものがあるのですが。病や、どうにもならない弊害を抱えた人に、「頑張ってください、元気になってください」と言ってはいけないんですよ。逆に気落ちさせてしまうだけだと思っています。どう前を向いてもらうかっていうと、アートなんですよね。言葉がけよりもアートやデザインのほうが、より心を満たせたり、伝わりやすいと思っています。

新型コロナウイルスという大きな弊害も同じで。このような事態が起きた時に「お祝いごとをしない」という選択肢はなくて、こういう時だからこそ笑顔になろうよというのが、私たちなりの乗り越え方だと思うんですよね。

アクリルをただ設置するだけでは、みなさん笑顔にならないと思うんです。何かしらの形で遮ったりして会話の弊害になってしまうでしょうから、そのアクリルを少しでも柔らかく表現するということが今回求められたことだと思います。

 

-そのような想いでご一緒させていただけてとても嬉しいです。
このような状況下でCRAZYから依頼がきた際に、率直にどの様に思われましたか?

板坂さん:
これまでも私たちは、環境問題をはじめとし、食の安全性や生命や遺伝子操作、テロなど社会が抱える問題をテーマにしたデザインに取り組んできました。

CRAZYさんとは以前に、長野県の根羽村で、村が抱える過疎化をテーマにした椅子を一緒に発表させていただきました。代表の森山さんもカナリア気質(アーティスト気質)をお持ちで、今回のお話でも、これまでの普通が普通じゃなくなった時に、祝いの場はどうあるべきかと世に問う姿勢に共感しましたね。声の大きなカナリアとして騒ぎ立てるぞと思い、協力させていただくことになりました。

 

-ありがとうございます…!!!
最初からこのようなパーテーションを作ろうというイメージはされていたんですか?

板坂さん:
僕は生花でやるのが一番美しいと思ったので、はじめに提案してみました。
お花を密に置くことや、お花の間にパーテーションを置くことで飛沫を防止できると思っていました。IWAI OMOTESANDOであれば、フローリストの方もとても素晴らしいですし、それが美しくできそうだと思ったんですよね。

ただし、1回1回あの美しい花を揃えて婚礼を行うということは、コスト的にも難しいとなったので、アクリル的なもので、花と見立てましょうとなったんです。初期投資はお花より今のもののほうがかかってしまいますけど、使い回しができるので、コスト的にもいいのではないかと。

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難しく思えますが、それを実現できるのがデザインの力だと思います。今回の場合は特に、世の中のパーテーション需要が一気に高まり、どのアクリル屋さんも仕事がいっぱいで、やってくれる人がいないという状況でした。やってくれるとしても、こんな高い見積もりが出てくるかと思うほど高い見積もりが出てきたりして、特に労力を使ったのは予算の調整でしたね。

 

-そこから興味を持っていただけるように板坂さんから職人さんに掛け合っていただいたのですか?

板坂さん:
職人を探し、交渉をするというところは私が行いました。ただ、御社の立地とこれまでの活動が受けてくださった方には響いたと思います。IWAI OMOTESANDOという場所と共同で無ければ受けてくださる方はいなかったと思いますよ。

日本らしさを残した新しい時代のものづくり

-大変ありがたいです。職人さんはこのパーテーションに対してどう思ってくださっていたんでしょうか?

板坂さん:
金物の部分と、アクリルの部分、2つの職人さんに動いていただいているんですけど、特に金物の職人の方は楽しんでやってくださったと思います。金物屋さんって、大量に物を作らないと絶対に赤字なんですよね。今回の200個の生産は、善意でやってくださっていて、確実に利益は出てないと思います。

今回金物屋さんは、株式会社ヒラミヤという神奈川にある金物屋さんにお願いしました。関東で知る限りとても腕のいい金物屋さんだと思っています。

他とは違うところが、データでのやりとりが非常にスムーズに済むんですよね。かなりハイテクな機械を揃えていて、3Dデータでものづくりを行なってくださっています。世界でいえば、あんなことをできる方はなかなかいないと思いますね。

工場って未だに人が手で曲げたり、切ったりするということが多いんです。ヒラミヤさんは、機械に指示を出して、機械が金物を曲げたりすることができる。機械でも、細かい局面まで表現することができるんです。少量でもそのような特殊な加工ができるという点では、かなり進んでいると思うので、日本らしいなと思います。

日本は少量多品種でものづくりをしていますから、そのような需要はとても高いんですよね。
アメリカだと、日本の3桁、4桁も多い数でしか動かないですから、今回だと200個で対応していただいていることがすごいことですよね。ハイテクな機材が揃っているのは日本が誇るべきことだと思います。

-どの数を生むかによって、ものづくりの世界はやれることが変わっていくんですね。

板坂さん:
日本でもそうですが、アメリカで200個作ってくださいというのは正直難しいと思います。笑
その金物屋さんでデータをいじっているのも日本の方ではなく、海外の方がデータと機械を繋げてやっていらっしゃるんですよね。これはプログラミングとものづくりができる方でないとできないことですね。

記憶に残らなくてもいい。ただそこに美しく存在するものをつくりたい。

-そのような素敵な方に作っていただいていたのですね。
今回のパーテーションのコンセプトに僕自身心を打たれました。「野に咲く花のような存在」というキーワードの背景や工夫されたことをお伺いできたらと。

板坂さん:
普段建築をやるときの考え方で、生活する場で記憶に残るとだめだと思いながら、私たちはやっています。何かっていうと普段生活をしている場所に1箇所でも強いインパクトを残すものを作ってしまうとそこで生活する人たちとしては飽きるポイントになってしまうんですよね。

何もないプレーンな空間に行って、2、3時間ごはんを食べたけれどその場所がどんな場所だったかは思い出せないくらいがちょうどいいんです。

今回のパーテーションも同じで、本当の主人公はまず目の前の新郎新婦様や、ゲストであって。その人以外のものは、別に印象に残らないほうがいいと思いますし、パーテーションについてはもはやなかったと思って帰ってもらったほうがいいんですよ。

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ただしある以上は美しくなければならないので、そのバランスは我々のデザインの力でクリアしないといけないんですよね。

今回は素材は最小限ですし、安定感を重視すればもっと強い脚をつける必要があります。飛沫のことを考えるともっと目線の高さまである板を増やしたほうが、確かに安心感は増やせると思います。安心感をどこまで攻め、削れるかというところが今回の肝だと思っていました。

その辺は「野に咲く花」というイメージがそうで、別に無くてもいいけど見たら美しいというところを大きさや素材で表現するために、今回は事前に模型でいろいろと大きさを試してみました。

森山さんが専門医に最低限必要な大きさを確認してくださって、それを頼りにギリギリのところを攻めながらこのような形になりました。

実はまん丸い案も作りましたし、四角いものも作りました。直前まで森山さんは古典的なものがいいとおっしゃっていたんで、四角い案が通っていたのですが、最後の最後でCRAZYのみなさんにヒアリングしていただいた結果、あの有機的な形で決まりましたね。

様々な方にあわせて使用いただけるように3パターンの大きさ、高さを用意しています。例えば、お爺様・お婆様がゲストとしていらっしゃって、その場所を重点的に対策をしたいというのであれば、大きいパーテーションを多めにお二人の前に置くなど、調整することができます。そういった工夫を凝らすことで、「野に咲く花のような存在」を生み出すことができたと思います。このパーテーションの存在を通して少しでも笑顔になっていただけるきっかけを届けられると嬉しいですね。

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新型コロナウイルスによって「利用者の感情」、「安全」、「予算」といった項目に対して、特にシビアになりがちな状況の中、このようなプロダクトをデザインされた板坂さん。

その裏側には、金物屋さんをはじめ日本のものづくりを行なっている職人さんへの敬意を持つ姿勢や、デザインの基礎を常に体現しながら、この時代を前向きに乗りきりたいという板坂さんの志を感じられました。今後もこの板坂さんの想いが詰まったパーテーションを通して、お祝いを多くの人に届けていきたいと思います。

インタビュー:佐藤 史紹
編集・執筆 :浅田 有貴

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