2019.05.17

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【後編】「感情とビジネスの両立」を考える。心を殺して仕事をするのではなく、感情をシェアして成果をあげるには(CRAZY・アカツキ)

これまでビジネスの現場では、利益をあげるために効率化や合理性が重要視されてきました。その一方で、欲求や弱さも含めて常に揺れ動く「人間の感情」も、経営資源として注目を浴びつつあります。

働く一人ひとりの感情や心を大切にしながら、ビジネス成長を遂げていくには、何が必要なのでしょうか。この2つの要素の両立を目指す、株式会社CRAZYと株式会社アカツキが共同企画して始めたのが、感情×ビジネス(経営)をテーマにした「Emotion Business Summit」です。

第1回目は、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの取締役人事総務本部長・島田由香氏をファシリテーターに迎えて開催。CRAZYからは新事業CRAZY CELEBRATION AGENCY(通称:CCA)のエグゼクティブプロデューサー・オア明奈が、アカツキからはPRG(人事・広報部)の小能拓己氏が、熱く語り合いました。後編は、参加者も交えて討論をした、感情とビジネスは両立するのか否か。そして、個人・チームのネガティブな感情とどう向き合うべきかーー。

▶︎前編はこちらです

「嬉しい・悲しい」を伝えていく方が、効率的かつハッピーに

島田由香(以下、島田)氏:両社とも、感情とビジネスが両立すると信じているのが基本思想なんですね。では、会場の皆様がどう考えているのかお聞きしたいと思います。

参加者1:“ 両立するのかどうかは分からない”というのが私の立場です。私は経営者なのですが、両立する道筋がまだ見えていない。それに、そもそも私自身が感情を出すのが苦手なんです。

参加者2:両立は“ 条件次第 ”かなと思っています。できるなら、両立させるべき。ただ、CRAZY・アカツキのように、経営者が哲学を持っているかどうかだと思います。

参加者3:実体験を踏まえ“ 両立する”と考えています。今は女性12名のチームなのですが、「これ、悲しかったな」と伝えるようにし始めたら、揉めることが少なくなったんです。嬉しい、悲しいを伝えていく方が、数字だけで物事を進めるよりスムーズで、かつハッピーなんじゃないかなと思います。

島田氏:聞いてみたいのですが、その女性のチームで感情を伝えるようにしたきっかけは、なんだったのですか。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長 島田 由香 氏 慶応義塾大学卒業後、株式会社パソナを経て、2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院卒業。組織心理学修士号取得。その後、日本GE(ゼネラル・エレクトリック)にて人事マネジャーを経験し、現職。R&D、マーケティング、営業部門のHRビジネスパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て現在に至る。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLPトレーナー。日本の人事部HRアワード2016 個人の部・最優秀賞受賞。

参加者3:まずは、中間管理職の方に話を持ち掛けてみたんです。すると、面白がってくれて。最初はその方とふたりで、感情を共有することをゲームみたいに始めてみました。そのうちに、メンバー内に広がっていき、感情をシェアできる雰囲気が作られていきましたね。

島田氏:今の例は良いヒントですね。多くの人は、やりたいと思ってもやれない・やらないんです。やりづらい環境であることも少なくはない。でも、本気でウェルビーイング(well-being)*1や感情を活かして働いていきたいのなら、諦めずに自分から動いてほしい。

もしできない場合、それを責めるのではなく、できない理由を考えてみてほしいんです。多くは「嫌われたくない」「バカにされたくない」からではないでしょうか。でも、本気でやりたいと考えているなら、必ずひとりは共感者が現れます。先ほどの方は、そのいい例ですね。

感情とビジネス両立の鍵は「型」と「血」

株式会社アカツキ RPG(RelationshipRroduceGuild:人事広報部)小能 拓己 氏 神戸大学国際文化学部卒。2009年大手マーケティング・リサーチ会社に新卒として入社後、2014年株式会社アカツキに入社。マーケティング・新卒採用担当を経て、2017年よりHEARTFUL領域のリーダーを担う。偉大な幸せ企業としてアカツキが成長していくべく、法人格”アカツキらしさ”に着目して各種企業文化推進活動を行う。

小能拓己(以下、小能)氏:僕は、“ 感情が仕事の成果と直結している ”と実感したことがあるんです。ロジカルシンキングの鍛錬をしたり、様々なフィードバックを受け続ける中で、感情的には楽しいことだとしても、“ 数字で説明できないものは意味がない ”と考えてしまった時期があって。

組織全体を見たときに、やってみたい、貢献したいと思うワクワクする企画を横に置くようになったんです。毎日針の穴に意図をとおすように発言して、誰かの期待に答える正しそうなことばかりしていました。

すると、仕事にワクワクできないだけではなく、集中すら難しくなったんです。自分の持ち味や時間が100%だとしたら、70〜80%くらいは価値創出と違うことを考えていたのではないかな、と。100%に近い成果を出すには、思考だけにとらわれず感情も活かすことが必要だと思いましたね。

島田氏:「心を殺して仕事をする」という言葉があるように、前提として感情とビジネスは両立できないと考えられているのが日本。でも、そうじゃない。それを伝えていきたいのがエモサミ*2なんですね。

オア明奈(以下、オア):ただ、両立させるためには、思いだけではなく“ 仕組み ”が必要。毎朝の朝礼でシェアの時間を設けるとか、ランチで立場関係なく話せる時間を作るとか。CRAZYもアカツキも制度があって、習慣化にしていますよね。

小能氏:アドバイザーとしてお世話になっている方の受け売りなんですけど、「型」と「血」でカタチになると思っています。「型」があるだけで「血」が通っていないと誰も乗ってこない。ですが、ひとりが「血」をたぎらせていても、枠組みとしての「型」がなければダメなんだと思います。

仕事=アートワーク。アートには“ 表現 ”が必要

島田氏:先ほど「心を殺して仕事をする」と言いましたが、日本の社会って、感情を出すと「プロ意識に欠ける」と言われるところがありますよね。ネガティブな感情はもちろん、ポジティブな感情も自慢や遊んでいるように思われて怒られたり。

出すな出すなと言われて抑えているうちに、使わなくなってしまう。もったいないことです。その点で見ると、このふたりは感情を抑えていないように思えます。

オア:私は社内一泣き虫だと言われていますね(笑)。もはや感情移入が特技なんです。自分が嬉しかったことや悲しかったことを話している時だけでなく、誰かの話を聞いている時でも、涙が出てきてしまう。

女は泣くと「だから女は」と言われてしまいますし、実際に前職の同期にそう言われて傷ついたこともあります。ですが今は、もうこれがキャラクターだと思っていますね(笑)。

株式会社 CRAZYの新事業CRAZY CELEBRATION AGENCY エグゼクティブプロデューサー オア明奈 新卒から7年間、経営コンサルタントとしてフランチャイズビジネスの業績改善、新規事業の立ち上げに従事。2015年1月より(株)CRAZYに参画。CRAZY WEDDINGのプロデューサーとして3年で約100組のオーダーメイドウェディングをプロデュース。現在は組織の変革に寄与するCRAZY CELEBRATION AGENCYにて組織コンサル、イベントプロデュースを担当。

小能氏:実は僕も泣き虫人事と言われていました(笑)。ただ、アカツキに入ってからも1,2年くらいは感情に蓋をしていて。自分の感情を殺して効率的に収益を上げること、論理的に正しそうなことばかりを考えていたから。そのうちに全然笑えなくなり、会社を辞めようとすら思ったんです。

転機は、心配してくれていた創業メンバーに声をかけてもらったこと。1年分の涙をぶわあっと流して、MUST(すべきこと)からWILL(したいこと)に原動力が変わったと感じています。正しいと思ってもらえるかよりも、自分がどんな価値を生み出したいのか。それに、頭で考えて数字で説得した提案よりも、意思と想いベースの提案の方が、粗探しをされにくく、提案に乗ってくれる人も出てきたんですよね。

島田氏:実体験があるからこそ分かることですね。私は、“ 表現する人すべてがアーティスト”だと思っています。仕事は英語で「ワーク」と言いますが、ワークは作品という意味もあるんですよ。作品を作るうえで、表現しないアーティストなんていません。自分らしさを抑えることは違う。いい仕事をするためにも、自己表現が必要だといえるのではないでしょうか。ここで、会場の方からのご意見をいただければと思います。

社員・チームのネガティブな感情とどう向き合うべきか

参加者4:今私は人事をしています。ポジティブな感情は会社にも良い作用をもたらしますが、メンバーのネガティブな感情はどう捉えればいいでしょうか。

小能氏:ネガティブな感情というか思考がフィルターになって、良いアドバイスを受け取ってもらえない状態もありますよね。何より僕がそうでした。そうした感情を抱いている人に対してできることは、まずはその人のありのままを受け入れた上で、物事の見方や受け取り方のクセに気づいてもらうことじゃないでしょうか。

また、周囲の人たちも、日頃から自分の発言が相手に与える影響に自覚的であれるかどうか。伝え方が大切でしょうね。

参加者5:“ ネガティブの感情を出しても良いという場 ”の設定が重要ではないでしょうか。私の会社では「評価に関係なく、あなたを丸ごと受け止める時間ですよ」と冒頭で伝え、なんでも言ってもらう場を設けています。

オア:いいですね。ネガティブの感情が出てくること自体は、改善のきっかけになるので、悪いことではないと私は思います。CRAZYでは、良し悪しに関わらずどんな感情でもオープンに開示してOKになっていて。ネガティブな感情を一個人の問題にするのではなく、会社がより良くなっていくために必要なことだと考えていますね。

小能氏:アカツキでは、“ 緊急じゃないけれど重要なことに向き合うための合宿 ”をしていますよ。2月には、280人で1日かけて絵を描いたんです。トークテーマごとに本音をぶつけた上で、気持ちを全力でアートに表現しようって。その後、わかち合いをしてみたら、その時間を通して過去ないくらい最高に感動した人もいれば、全くもって無駄な時間だと感じたという意見もありました。

そこで感じ方は違うから、ネガティブな感情も出していいと社内で分かり合えたように思います。それ以降は、オンラインでも議論が巻き起こるようになりましたね。良いことだけじゃなくて、悪いことも表現するからこそ、本質的なことを捉えてトライできるようになるんじゃないかなと思います。

参加者3:仕事に対する熱量が一定量ないと、そもそも感情を分かち合えないと思います。そうした熱量のある環境はどう作っていけばいいでしょうか。

小能氏:そうですねアカツキでは、月のとある金曜日に1時間、代表の塩田が投げたメッセージや問いに対して分かち合う習慣を作っています。その時間で、それぞれの熱量を交換し合い、インスパイアしていると感じるときはありますね。まず前提として「どんな人を採用するか」は一番大きいとは思いますが、どういう場を設けるか、習慣も大事だと思います。

オア:CRAZYでは、毎週水曜日に全社員参加必須の朝会で、社員全員で握手を行っていますよ。握手って、元気がない時にすると、良い意味で感化されるというか、元気をもらえるんです。仕事への熱量アップに繋がっているな、と思いますね。

島田氏:たくさん質問をいただきましたが、そうした問いがあることがまず素晴らしいことだと思います。問いが未来を創る道筋になりますから。人との関わりにおいては、「どうしたの」と問いかけられながら肩に手を置いてもらうだけで変われることがあります。「どうすればできるんだろう」「どうしていきたいんだろう」という問いが、すべてを変えていけるのではないでしょうか。また次回のエモサミでお会いしましょう。

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参考
*1 ウェルビーイング(well-being):身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念。

*2 エモサミ:株式会社CRAZYと株式会社アカツキが共同企画して始めた、感情×ビジネス(経営)をテーマにした「Emotion Business Summit」の略。

(編集:水玉綾  写真:小澤 彩聖

卯岡若菜

「仕事・家族・どこにも属さない自分」の3つの自分の共存を目指すフリーライター。息子ふたりの母親でもある。生き方や働き方への興味関心が強く、人の想いに触れるのが好き。趣味は映画鑑賞、音楽鑑賞、児童文学執筆、弾丸旅行、読書。本や漫画はキノコのように増えるものだと思っている。


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