2019年から「CELEBRATION for All – すべての人に等しくお祝いを -」を掲げてセクシュアルマイノリティの方々のセレモニー(同性カップルとの結婚式をこのように表現しています)に携わらせていただいているCRAZY WEDDING。
「それぞれの人生なのだから、それぞれのお祝いの形があっていい。」そんな想いで活動をする私たちが、今回はセクシュアルマイノリティの当事者でもあり、2021年9月に同性パートナーとイギリスで結婚式を挙げたKanさんに自分らしく人生を歩む方法を伺いました。
おしゃれが大好きで、シャイで、熱い Kanというひとりの人
みなさんは、NETFLIXで話題のアメリカ番組『クィア・アイ』をご存知でしょうか。美容やファッション、フードなど各領域のプロフェッショナル5人(通称:ファブ5 )が、悩みを抱えた人をたった数日で大変身させる、世界中で人気のドキュメンタリー番組です
Kanさんはその日本版の『クィア・アイ in Japan!』に主役として出演しました。
この番組は大きな話題となりました。放送後、Kanさんは数々のメディアに取り上げられ、いまやセクシュアルマイノリティである若者たちのロールモデルともいえる存在になっています。
そんなKanさんも、「自分らしく生きられるようになるまでには時間がかかった」と言います。
幼少期からこれまで、自分やあらゆる出来事と向き合い続け、手探りで生きてきたそうです。
自分らしく、イギリスでの結婚を通して、夢だった愛するイギリス人のパートナーと暮らすことを叶えたKanさんに今、リアルな胸の内を聴かせていただきました。
「居場所がない」子ども時代
Kanさんは元々、どんな子どもだったんですか?
幼少期はものすごく不安定な子どもだったんですよ。実は、幼稚園も行けていなくて。小学校も半分くらい不登校でした。
今思えば、異性愛中心の社会で「自分の存在を認められない苦しさ」が無意識にあったのだったと思います。
当時はまだ自分のセクシュアリティや社会の何に抑圧を感じているのかについて言語化することが出来ませんでした。
だけど日常に存在する「男の子だから◯◯しなさい」「女の子は◯◯してはいけない」といった区別に、自分の居場所のなさを感じていたのだろうと今になって考えさせられます。。
親御さんは、当時不登校になっているKanさんに、どのように向き合ってくれましたか?
母は、とても心配して、学校に一緒に行って、授業中隣の教室でずっと待ってくれていました。
僕の違和感を理解して支えてくれたというよりは、「みんなと同じ行動がなんとか当たり前にとれるように」と母も必死だったんだと思います。
ご家族もKanさんも違和感はまだ掴めていなかったのですね。どのように自分のセクシュアリティに気付いていったのですか?
中学校2,3年生頃だったと思います。徐々に自分と周りの考えの違いに気づいていったんですよね。
ただ、メンタルクリニックに通い、拒食症になった時期もあった小学校時代を過ごしていたので、自分のセクシュアリティが周りと違うことに気づいた時は、今もそうかもしれませんが、セクシュアリティについて当時は周りに相談できる相手やロールモデルがおらず、また正しい情報を得ることができませんでした。なので「異性愛者でない自分を治さないといけない」と思ってしまったんです。
そこから少しずつ情報を知る中で、自分のことを少しずつ理解していきました。
そうだったんですね。そんな中で、初めてのカミングアウトはいつ頃誰にしたんですか?
初めてのカミングアウトは、高校時代の親友です。
人気のない小さな公園に連れていって、勇気を出して伝えました。当時は「苦しくてしょうがないから、とにかく誰かにこれをシェアしたい。」という一心でしたね。親友は「KanくんはKanだよ。」と受け入れてくれ、嬉しかったです。
その一方で、理解してくれる人は増えたけれど、自分の中での自己理解が進んだわけではない。だから、結局この時もまだ「自分」が「自分」でわかりませんでした。
徐々に知っていった、自分のこと
Kanさんが幼少期から自分と向き合い続ける中で、自分のセクシュアリティをポジティブに受け入れられたのはどんなタイミングでしたか?
20代でカナダへ語学留学したことが、ひとつのきっかけでしたね。
国をまたいで多様性に出会えた、ということが大きかったのですか?
はい。
当然ながら社会の仕組みや文化は、国によって違うんですよね。
カナダのバンクーバーに留学して、そこで自分らしく生きている性的マイノリティの方々に出会ったんです。その時に、「生きづらいのは僕のせいだけじゃないかもしれない。国の制度や文化によっても人の生きやすさってこんなに違うんだ。」と気づくことができたのは大きかったですね。
この留学をきっかけに、徐々に徐々に整理できていきました。これが大きな節目というよりは、連続の中の一つの機会です。
考えて世界を広げ続けることで少しずつわかっていった。人生はグラデーションなんですよね。
これ、という転機だけではなく、積み重ねの中で今のKanさんがいるんですね。
好きな自分で生きる勇気をくれた、『クィア・アイ』との出会い
そこから数年後、「クィア・アイ」の出演があるわけですね。出演のきっかけは何だったんですか?
知人からの紹介です。当時、僕は働いていて。今のパートナーとも日本とイギリスの遠距離でした。「彼とこれからどうなるんだろう?」「移住するのかな?」「だとしたら、日本で丁寧に暮らしても意味ないんじゃないか?」「服もどうせ捨てるならなんでもいいんじゃないか?」ずっと迷って、いろんな物事が適当になっていたんです。
出演の打診を受けた時、どう感じましたか?Tomさんはどのような反応をされましたか?
人前に出ることは嫌いではないので、自分の人生が変わるかもしれない可能性に「楽しそうだなあ」と思って話したら、Tomも「すごいね、やって見たら?」と言ってくれました。
とにかくファブ5のメンバーが本当に魅力的で、「彼らに出会ったら、きっと自分の悩みなんて解決しちゃうだろうなあ。」という希望の方が大きかったですね。NETFLIXに公開されることや自分のプライバシーがさらけ出されてしまうことにはもちろん怖さもあったけれど、ポジティブが上回りました。
実際に番組が始まってみて、どうでしたか?
「これは、本当にリアリティショーだ!!!」って思いました。
家で掃除をしていて、振り返るとファブ5がいました。
撮影の4日間は、洪水のようにたくさんのアドバイスをもらいましたね。撮影中はとにかく必死でした。正直「撮影が終わり、ファブ5がいなくなったあと、これで自分は変われるのだろうか?」と不安な思いもありました。
「自分を愛するには、メンテナンスが必要。」
そんな中で、「自分のいいところを書き出そう」というワークをしたんです。
「本当にこれで効果がでるのかな?」と疑問でしたが、「ものは試しにやってみよう!」という気持ちで撮影が終わっても続けていました。
方法は簡単で、思いついた時に自分の好きなところを書き出すんです。何でもいい。それを続けるうちに気づいたら自己肯定感が下がりづらくなっていました。
こうやって撮影後も継続していく中で、「彼らのアドバイスはこういうことだったのか!」と気付かされることが多かったです。
出演前後で大きく変化したように見えますが、やはり番組きっかけに「自分を好きになる」「愛する」ということができるようになったのですか?
いや、正直「ここから自分が好きになれた」という明確なラインがあるわけじゃないんです。「自分が好きかどうか」って波がありますよね。
「自分を好きになれた」というよりは、「自分を好きになってあげるためにはメンテナンスが必要なんだな」と気づけたことが大きかったですね。
「今日は自分が好きじゃない。」「今日は超自分が好き。」それでいい。自分は自分なんです。好きでいられる時間が多くなるように整えてあげればいいんだと思います。
やっぱりグラデーション。だから今も、このワークを続けて、「好きな自分」を見つけ続けてあげています。
これまでの全ての日々が今をつくっている
SNSやメディアを通して見るKanさんは、大好きな服を着て、メイクをして、自分の言葉で発信している、「セクシュアリティに囚われない、自分らしさを自信をもって表現できる人」だと感じていました。
しかし、インタビューを通じてみえてきたのは、一見華やかに見える彼の背景にある、誰にも理解されない孤独を感じながら生きた幼少期であり、揺れ動く自己肯定感の中で「好きな自分」を見つけ続ける努力でした。
「人生はグラデーション。」
一筋縄ではいかない人生で起こる一つひとつの出来事を丁寧に体験し、そこから学び、自分自身が向き合い続けたからこそ、今「幸せです」と言える彼がいるのだと思います。
そんなKanさんが叶えた、イギリスでの愛する人との結婚式。
日本ではまだ実現できない「法律で認められた結婚」への道のり。そこには「愛する人と生きるために超えてきた壁とふたりの信じて行動し続けた日々」がありました。
次回の記事に続きます。
ぜひ、ご覧ください。
お知らせ:1/15 19:00-にCRAZY WEDDING主催のKanさんトークライブを開催します
インタビュー記事では伝えきれない本音や、質問にお答えするお時間もとらせていただきます。ぜひ、ご参加ください。
インタビュアー/執筆 CRAZY WEDDINGプロデューサー:渡部恵理
編集:池田瑞姫
バナー画像:東和香
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受付時間:平日11:00〜13:00、17:00〜19:00
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(月曜、火曜、水曜午前 / 毎月第一水曜定休)
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Kanさんプロフィール
大学在学中にカナダへ留学。大学卒業後はイギリスへ渡り、大学院でジェンダー・セクシュアリティについて学ぶ。帰国後は化粧品会社に入社し、マーケティング業務を担当。2019年にNetflixの番組『クィア・アイ in Japan!』エピソード2に主人公として出演。性的マイノリティ当事者として、自分らしさやセクシュアリティをテーマにSNSでの発信や企業・学校での講演を行う。2020年には「REING」のジェンダーニュートラルアンダーウエアのモデル、ジュエリーブランド「Hirotaka」のモデルに抜擢されるなど、多岐に活動中。2021年9月20日に同性パートナーのTomさんとイギリスにてご結婚、メディアなどでも積極的に発信し話題となった。ロンドンに在住。Kanさんのプロフィール