2018.08.21

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健康経営で実現する、ライフオリエンテッドな会社

人生100年時代において、個人の健康寿命だけでなく、企業の「健康経営」にも注目が集まっている。生産性向上をひとつの目的として、社員の健康を経営課題と捉える企業が増え始めたからだ。一方で、2012年の創業時から、「社員の健康」について独自の取り組みを展開してきたのが株式会社CRAZY。その背景には、企業と個人の新しい関係を定義し、「食事が最も大切なカルチャー」と言いきる、代表森山の哲学があった。

カルチャーの根幹は「食事の空間」

-今や「健康経営」とは珍しい言葉ではありませんが、創業当時から取り組んできたのは、なぜでしょうか。

CRAZYのカルチャーの根本は「食事の空間」なんです。みんなで一緒に食べること。創業したときからずっと続けています。もしカルチャーをひとつだけしか残せないとしたら、迷わず食事を選びます。それくらい強い思いがあるんです。

一般的に、社員の生産性向上の取り組みは、利害関係が合致しています。生産性を上げることで、会社の利益は上がるからです。ただ、利害関係を引きずったままの「健康経営」では、あくまでも業務時間中のパフォーマンスに焦点を当てるため、本当の意味で健康管理をすることは困難かもしれません。

例えば業務中は、集中して生産性高く仕事ができるけれど、プライベートで体調を崩してしまう。もしくは、プライベートはとにかく仕事の回復のために寝るだけで、毎日夜遅くまで仕事漬け。こんなケースもあると思うんです。

それは今の資本主義社会の文脈の中では、健康管理とは、社員個人の責任であるというのが通説という、会社と個人の分離した関係が存在しているからですね。

森山和彦(Kazuhiko Moriyama)
株式会社CRAZY 代表取締役社長。前職の人材コンサルティング会社では、法人向けコンサルティング部門の事業責任者として、中小企業から大企業までの組織改革コンサルタントとしてトップセールスを記録する。6年半の勤務を経て2012年7月に株式会社CRAZYを創業。独自の経営哲学から組織運営のシステムを確立している。

ですがテクノロジーによって、時間や場所にとらわれずに働きけるようになり、個人の生き方が際立ち始めた現代では、会社と個人の関係性の境界は、曖昧になってきています。だからこそ、双方の役割を再定義する必要があると思うんです。

僕は、会社というコミュニティの役割は、個人の努力ですぐには実現できないことを担うことだと考えています。だからこそCRAZYは、食事はもちろんですが、健康のサポート及び託児の制度を整えていますし、将来的には医療費を無料にする計画を立てています。

WHO憲章の「健康定義」では、「身体的健康」「精神的健康」「社会的健康」という3つのカテゴリ分けがされているのですが、CRAZYで取り組んでいることは、この3つに当てはまっているんですよ。

CRAZYでは食事以外にも、健康における様々な取り組みを行っている。本連載「健康経営特集」の中で徐々に公開していく予定だ。

具体的には、「休養」「栄養」「運動」(=身体的健康)、「働く環境」(=精神的健康)、「人間関係」(=社会的健康)の5つです。それぞれ具体的な制度や取り組みをしています。

◆身体的健康(栄養)に関する記事:「こころ」は腸内環境に存在するのか?

◆精神的健康(働く環境)に関する記事:
あの時と同じ景色を見たら、今の自分は何を思うのだろう

◆社会的健康(人間関係)に関する記事:
CRAZYが戦略的に全社員休業をする意味とは

何を食べるかよりも、誰と食べるかが重要

-取り組みの1つである「食事」について伺いたいと思います。これは「栄養」のカテゴリに入る取り組みということでしょうか。

そうです。自然食のランチを毎日提供しています。今は専属のダイニングチームがいますが、創業当時は、炊くのに3時間もかかる発酵玄米を、僕が炊いたり、メンバーが代わる代わる手づくりでご飯をつくっていましたね。

-なぜ、そこまでのこだわりがあるのですか。

人間の三大欲求は「食欲」「睡眠欲」「性欲」だと言われますが、最もパブリックで、誰とでもシェアできる欲が、「食欲」です。つまり、食事を共にすることで誰もがつながることができるんです。

「美味しいね」「嬉しいね」「楽しいね」という気持ちを交換できることが、重要です。栄養補給という点で言えば、素材にも気を配っています。ただそれ以上に、みんなと一緒に食べることが重要なんです。

ちなみに、良い食事をみんなで食べることで、一人ひとりが健康になって生産性が上がる以外にも、問題行動が減るという効果もあるんですよ。

-どういうことでしょうか。

まず、健全な肉体ができれば健全な思考が宿るということはあります。ただシンプルに、「同じ釜の飯を食う仲間」であることで、社員がお互いのことを知っている者同士になれるんですね。

ちょっと飛躍しますが、戦争の中で悲惨な行為をなぜできるのかといえば、相手のことを知らないからです。知っていたら傷つけることは難しくなる。知らないから戦えるんです。

食卓を囲むことで、相手を知り、安心・安全を感じると、人間関係が良くなります。相手のことを大切にする気持ちが自ずと生まれるので、問題行動が減っていくんですよね。

-健康経営という文脈では、健康に良いお弁当のケータリングを取り入れている企業も多いと思います。

そうですね、添加物の多い食事をとるよりは、良い試みだと思います。ただ、いくら健康に良い食材を使っていたとしても、「自席でモニターを見ながら、ひとりで食べる」のはおすすめできません。

もちろん、そういう日もあっていいとは思います。でも、それはあくまでも「栄養補給」をしているだけということを忘れてはいけないと思います。孤食では、精神も含めての健康にはならないから。

つながりの見える食事が、安心をもたらす

-「健康に良い食事を、みんなで食べる」ことが実現できれば、ケータリングサービスでも良いかと思うのですが。なぜダイニングチームを内部に持つのでしょうか。

食事は、動植物の命をいただくことだと思っています。農作物をつくった人、調理をした人の存在によって、命のバトンが渡っているんですよね。そのつながりを知ることが大切だと考えています。つまり、知っている身近な人がつくることが大切なんです。

簡単な例えだと、「母親がつくった料理と他人がつくった料理は同じなのか」という問いに似ていると思います。どっちが良い・悪いではなく、やっぱり母親がつくったものは特別なんです。食事は、提供してくれる相手に信頼がないと口にできないものですしね。

CRAZYでは使う食器にもこだわっている。なぜなら、長く使い続けることで、素材が溶け込んで口に入る可能性があるからだ。「安心安全な陶器」がコンセプトの、天然石を独自にブレンドして焼き上げた「森修焼」を使用している。

ちなみに今日のランチで提供されたスープは、社員のおじいさんが採った野菜でつくられたものでした。やっぱりつながりが想像できると、より安心しますし、美味しく感じますね。将来的には、自分たちで農作物をつくる仕組みも立ち上げるつもりです。

一度の食事から、ささやかな家族の営みを想像できる心を育む

-コスト面だけを考えても、相当な投資だと想像できますが、なぜそこまでこだわることができるのですか。

それはやはり、人の人生を大切に扱っている会社だからです。僕たちのメイン事業は、CRAZY WEDDINGそしてIWAIという、結婚式を通じて人の人生に触れるものです。普段から私たち自身が、自分の人生に対する手触り感・温度感を感じて生きていないとそれは出来ないんですよね。

食事ひとつをとっても、子どもの頃にお父さんやお母さん、もしかしたらおじいちゃんやおばあちゃんが、つくってくれていたはずです。家族の特別な日に食べる手料理もあったかもしれない。そういう、ささやかな家族の営みや人の繋がりを感じる心はとても大切です。

CRAZYは「感じる気持ち」を育むことで、カスタマーオリエンテッドを超えていきたい。会社の商品・サービスを通じて、お客様の人生や生き方にもっと深く関与していくことができる「ライフオリエンテッド」な会社でありたいと思っているんです。

編集:水田 真綾 写真:小澤 彩聖

伊勢真穂 MAHO ISE

リンクアンドモチベーションにおける約8年間の組織人事コンサルティング経験を経て、フリーランスとして活動中。組織変革の知識と現場経験を豊富に持つため、HR領域における取材依頼が多い。「Forbes JAPAN」や「HR2048」といったビジネス系メディアでの執筆を行う。 


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