2017.06.10

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ハーバード大も注目!売り上げ目標なしでも黒字続きのYume Wo Katareのビジネスとは?

ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学をはじめ、数々の大学が集まるアメリカ最大の学園都市、ボストン。この地にあるラーメン屋の経営方法が注目されている。2012年に日本人オーナー西岡津世志氏が開業したYume Wo Katareだ。

■Yume Wo Katareとは

「Yume Wo Katare」は、山盛りのラーメンが食べられる店だ。ハーバード大生、MIT生など多くの人が真冬のマイナス40℃の日にも長い行列を作る。行列嫌いが多いアメリカで、珍しい光景である。

ユニークなのは、ラーメンを完食した客に店内で「I have a dream. I want to…」と夢を語る機会が与えられるというところだ。居合わせた客は、それに対して応援の声をかけたり、質問したりする。

西岡氏は、「私たちの提供しているものはラーメンだけではなく、学生たちが自分の夢を語る空間そのものなのです。」と語る。

その空間作りのために、店には様々な仕組みがある。たとえば、「ポジティブサイクル」と名付けられた仕組み。店にラーメン代を託すと、それが夢を語りに来た若者に送られ、その若者はラーメンをお腹いっぱい食べた上で夢を語る機会を得られるのだ。

また、ボランティアスタッフとしてYume Wo Katareで働くと、自分はもちろん家族や大切な友人が無料でラーメンを食べて夢を語れるという賄いの仕組みもある。

経営指標は「夢の個数」

Yume Wo Katareは、2016年実績で年商約$450,000、純利約$150,000を達成した。2012年に開業して以来、赤字になったことは一度もない。

しかしYume Wo Katareでは売り上げ目標は一切立てず、金銭的な経営指標もない。代わりに経営指標として持っているのは「夢の個数」だ。

2016年の経営目標は「語られた夢20000個」であり、実績は23050個だった。2017年の経営目標は「語られた夢40000個」である。2017年からは、夢を語った人の数も集計し始めた。

直営店は1店舗だが、弟子入りを願う経営者の卵が後を絶たない。しかし、西岡氏は利益を抱え込むような多店舗展開を良しとしない。

「自分で管理するよりも、自由にやってもらった方が広がっていくと思うのです」と西岡氏は語り、学びたい若者がボストンまで来れば、自宅に住まわせて店を手伝ってもらいながら仕事のノウハウを無償で教えてきた。

その結果、現在では12店舗が独立している。

こういった経営を行いながら黒字を続けていることにハーバード大学ビジネススクール竹内弘高教授の門下生が興味を持ち、半年間研究に訪れた。BBT大学から講演を依頼されたこともある。西岡氏の経営のユニークさを物語るエピソードだ。

知人の自殺で気づいた、夢を語れる環境の必要性

「店を経営するに当たって重視していることは、自ら夢を語るようになった人の数、夢を語る人の数、語られた夢の数です。売り上げは必要ではあるけれど大事なものではないという認識で、何かをやろうとしたときの経営判断は『最終的に赤字にならなければいい』という程度です」と語る。

かつて、西岡氏は京都のラーメン激戦区・一条寺でラーメン屋を経営していた。「ラーメン荘 夢を語れ」という店名ではあったものの夢は語る場を提供するわけではなく、ラーメンを提供する店だった。

京都では珍しい二郎系山盛りラーメンということもあって、店は繁盛し、系列店が何店舗もできた。初めは激務だったが、いつしか自分が店に立たなくても店は回るようになった。ラーメン屋として成功したいという西岡氏の夢は叶った。
しかし西岡氏は疑問を持ち始める。「自分の夢は叶ったが、従業員の夢は叶っているのだろうか」と。

「夢を持つこと」に関して、西岡氏は長らく別の思いも抱えていた。それは、京都で出店する前の雇われ店長時代の出来事がきっかけだ。知人が店にラーメンを食べに来て、おいしそうに食べて帰っていった数日後に自殺をしたのだ。
西岡氏はそのことに思い悩み、さまざまなデータを当たるうちに、若者が自殺をするのは夢を持てなくなることに理由があると考えるようになった。

「多くの人が、周りが就職する時期を境に夢を語らなくなります。『もう、現実を見なきゃな』と。そして夢も希望も持てなくなり、何かのきっかけで絶望してしまう。もっと気楽に夢を語れる環境があれば、自殺を食い止められるのではないか、そう思って、夢を語れる場所を作りたいと思ったんです。」と西岡氏は述懐する。

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かくして、西岡氏の夢もバージョンアップした。京都の店は独立したい人に任せ、ボストンに渡った。ボストンを選んだのは、世界中から若者が集まる場所だからである。

マネー経済だけを盲信していていいのだろうか

夢を経営指標にしていることには、別の理由もある。
「ハーバード大やMITなどの間近で仕事をしていると、マネー経済が今後長くは持たないのではないかと感じることがあります。AI(人工知能)投資が急拡大していると聞きますが、例えば学生が優れたAIを生み出せば、一夜にして大儲けができてしまう。
そういう時代に、お金を指標にしているだけでいいのだろうか。仕事というものはそういうものではないはずだと考えました」(西岡氏)

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堀江貴文氏も、YouTube番組「ホリエモンチャンネル」で、「ロボットが自動的に富を作り出し、生活コストはどんどん安くなっていくから、お金は必要なくなっていく」と発言している。
今すぐにお金が一切不要になったり、即座にマネー経済が破綻したりすることは想像しがたい。しかし、マネー経済だけで世の中が回り続けるという確証もない。お金だけを指標としないビジネスの形があってもいいはずだ。

2030年までのYume Wo Katareの経営目標は、全世界195カ国に夢を語れる空間を作ることだという。ボストンで、思いに賛同してくれる様々な国の人にも出会った。西岡氏の挑戦は続いていく。

Yume Wo Katare 西岡津世志氏プロフィール
1979年生まれ、滋賀県出身。元お笑い芸人。2002年から元ラーメン二郎神谷(現ラーメン富士丸)にて働き、2006年に独立。京都で『ラーメン荘夢を語れ』創業後、関西を中心にラーメン荘グループを展開する。2012年、ボストンにてYume Wo Katare開業。ラーメンを食べた後に夢を語ってくれる店を作り上げる。


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Editor:水田 真綾(@maya_mip

FELIX 清香SAYAKA FELIX

greenz.jp、Pouch、「ソトコト」等のWEBマガジン、雑誌での執筆や書籍構成、オウンドメディアの立ち上げ等を行なっている。国際交流やエシカル、児童文学、体感型アートに興味あり。プライベートでは、Give & Takeではなく、Give & Giveで経済が回るかどうかをさまざまな取り組みで実験する「ギフト経済ラボ」のメンバーとして、カルマキッチンというカフェイベント等の運営に参加している。


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