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COLUMN

世界の「困りごと」を家庭燃料に。HiGi Energy の一挙両得な 発想とは?

2011 年の東日本大震災以降、環境やエネルギー問題に対して敏感になったとい う人は多いのではないだろうか。そんな人に紹介したい、マレーシアのスター トアップ企業がある。「HiGi Energy」(ハイジエナジー)だ。


HiGi Energyは世の中から「無駄遣い」を減らすことでエネルギー問題を解決 すべく活動している企業である。その HiGi Energy が「もったいない」と着目 しているのが、ホテイアオイ。日本では水槽の水草としてよく使われている植物だ。



強害雑草を家庭用燃料に


ホテイアオイは紫色の花を咲かせる。単に眺めるだけであれば、花のシーズン に水路や池を紫に覆い尽くされる様子は美しい。しかしホテイアオイは恐ろし い勢いで成長し、瞬く間に増える。川を堰き止め、時に洪水を引き起こす強害 雑草なのだ。


HiGi Energy の CEO である Jackie Yap 氏は、マレーシアで工学専攻の博士課 程の学生だった時にホテイアオイのその特徴に気づいた。地元ではホテイアオ イを手工芸品に活用していたが、それではホテイアオイの成長スピードに見合 わない。



自分の専門分野を生かして何かできないかと考えながらフィリピンに滞在した 際、総人口 1 億人のフィリピンで、約 65%の家庭では今でも日々の調理に石炭 や炭、成形炭を購入して使っていることにも気づいた。もうもうと煙の上がる 調理環境は快適からは程遠い。


これらに注目し、Yap 氏はホテイアオイを原料に、無煙で長く燃え続け、安価 な家庭用燃料を作り上げ、商品化することにしたのだ。


30 億人の健康と世界の生態系保全に寄与


この燃料が世界に与えるインパクトがどの程度のものか、想像できるだろうか。


世界保健機構によると、世界では現在でも 30 億人が家庭の調理や暖房に薪等の 固形燃料を利用しており、その煙が元となる慢性気管支炎や肺がん等の病で、 毎年380万人が亡くなっているという。HiGi Energyの作る燃料は無煙である ため、この問題を解決できる。


現在でも 30 億人が家庭の調理や暖房に薪等の固形燃料を利用。写真はブラジルの様子。

また、ホテイアオイの被害を受けている国はフィリピンだけではない。ケニア、 インドネシア、タイ、バングラデシュ、アメリカ……多くの国が頭を悩まされ ている。生態系や漁業への影響も大きく、国際自然保護連合(IUCN)種の保全 委員会が作成した世界の侵略的外来種ワースト 100 に選ばれているほどだ。


加えてこの燃料は、フィリピンの工場で地元の人を雇い、地元の雑草を使って 作るため、生産過程で運搬にかかるエネルギーもほとんど必要とせず、フィリ ピンに雇用も生み出している。


こういった背景を受けて、2015 年に誕生した HiGi Energy は設立後 1 年足らず のうちにシリコンバレーの GIST competition during Global Entrepreneurship Summit 2016で2位を受賞したり、ASEANのソーシャル スタートアップ企業になったり、ソフトウェア企業のオラクルから CSR 活動と して支援を受けたりと、高く評価されている。


商品を流通に乗せるまで


Jackie Yap 氏がこの商品の開発に着手したのは、まだ博士課程の学生だった時 だ。好奇心から燃料のプロトタイプを作って、フィリピンの地元の人やフィリ ピン政府関係者に見せたところ、国営テレビへの出演を求められたのだ。


価値を認められたことに Yap 氏は驚き、これに専念することを決心する。両親 を説得して大学をやめ、商品を流通に乗せるべくマーケティング、ファイナン ス、IT の専門家を募った。メンバーはフィリピン人、ベトナム人と多国籍であ る。



現在、フィリピンの家庭で使われている燃料は、炭、石炭、成形炭である。成 形炭は炭を圧縮して作っているため炭よりも高効率で、成形しているので炭よ りも持ち運びやすく保管しやすい。その分、炭より少し値段が高い。


HiGi Energyの家庭用燃料は、その成形炭に代わって使われることを目指して いる。勝算はある。成形炭には原材料の木材やココナッツの殻などの運搬費が コストとしてかかってくるが、ホテイアオイの燃料にはそういったコストは必 要ないからだ。


しかし現在はまだ実験的に販売をしている段階だ。ある程度の生産量に届かな ければ、市場で通用する価格に抑えることは難しい。資金調達を行いつつ、商 品と戦略を研ぎ澄ましている。


身近な「無駄遣いの解消」から始まった思い



Yap 氏はなぜこういったビジネスを始めようと思ったのだろうか。聞いてみる と、かわいらしいエピソードを教えてくれた。


「もともとエネルギー分野には興味があって、学生時代からエネルギー関連企 業でインターンシップをしていたのですが、『身近な無駄遣い』と『エネルギー を生み出すこと』に注目したのは、母と祖母とのやりとりがきっかけです。


ある日、母から僕がシャワーを使いすぎて光熱費がかかると指摘されたのです。 ちょうどインターネットで太陽熱発電を調べていたところで、ぺットボトルも 身近にあったので、それを使って自分で発電機を作ってみようかなと思い立ち ました。それで太陽光兼風力発電機のプロトタイプを作ったんです。


それから祖母は毎朝夜明け前に出かけて昼頃戻ってくるのですが、夜明け前に 出るときは暗いからと電気を付けっ放しで出かけるのです。もったいないと思 って、モーションセンサーをつけて自動的に電気が切れるようにしてあげたら、 祖母にとても喜ばれました。


こういった経験から、『無駄の削減をもっと大きな規模でやれば、世界にインパ クトを与えることができるのではないか』と考えるようになりました」


世界は繋がっている


多国籍なメンバーとともにマレーシア人としてフィリピンの地をビジネスの場 として選んだことについて触れると、Yap 氏はこう語った。



「今の時代は、すべての人がさまざまな場所に移動可能ですし、世界は繋がっ ているのです。自国だけに集中するのではなく、広い目で見て大きな変化を起 こせる場所はどこかと考えることが必要ではないでしょうか。


そして何か『自分がこれをやりたい』と目標を持ったら、その目標を周囲の人 も巻き込める形に変化させていくことが大切です。自分一人だけの目標で何か を進めていこうとしてもサスティナブルではないですから。そのためには、広 い目で見て大きな変化を求めていくことが大事なのです。


これはとてもやりがいのあることです。でも、何か挑戦したときには成功する か、何か学びがあるかのどちらかで、決して失敗することはない。僕はそう考 えてやっています」


Yap 氏は 25 歳。ホテイアオイの家庭用燃料の販売に止まらず、これからもさま ざまな視点から考え、無駄をなくすことでエネルギー問題の解決を進めたいと 語る。いずれ HiGi Energy として日本でもビジネスを展開するかもしれない。 肩肘を張らず、それでいて長く燃え続ける情熱を、Yap 氏に感じた。


HiGi Energy Jackie Yap 氏プロフィール
中華系マレーシア人。National Energy University of Malaysia の再生可能エネ ルギー工学専攻の博士課程在学中の 2015 年に HiGi Energy を創業。翌 2016 年にはシリコンバレーのGIST competition during Global Entrepreneurship Summit 2016 で 2 位を受賞。同社は ASEAN ソーシャルビジネスの一つに選出 されている。


<企業情報>

HiGi Energy Pte Ltd www.higi.biz

参考:世界保健機構ホームページ (http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs292/en/)、国際自然保護連合世 界の侵略的外来種ワースト 100 リスト (http://www.iucngisd.org/gisd/100_worst.php)

FELIX 清香
Sayaka Felix

greenz.jp、Pouch、「ソトコト」等のWEBマガジン、雑誌での執筆や書籍構成、オウンドメディアの立ち上げ等を行なっている。国際交流やエシカル、児童文学、体感型アートに興味あり。プライベートでは、Give & Takeではなく、Give & Giveで経済が回るかどうかをさまざまな取り組みで実験する「ギフト経済ラボ」のメンバーとして、カルマキッチンというカフェイベント等の運営に参加している。

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