2018.09.04

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新ビジョンがもたらした、熱狂と別離。CRAZYの新たな幕開け。

6年前の2012年7月。理想だけを胸に抱えた3名によって、CRAZYは誕生した。「できっこない」「無謀だ」という声に飲み込まれることなく、ウエディング業界の当たり前を覆し、「業界の革命児」と呼ばれたこともあった。

売上は創業から6年間平均190%成長し、社員数は100名に迫る拡大の中で、大きな挑戦が新たに始まろうとしている。外部からの経営ボードメンバーの加入に次いで明らかになったのは、新ビジョンの発表。ビジョンを変えて、CRAZYはどこへ向かうのか。

自分が掲げた創業ビジョンを、手放す決意

To celebrate your life the most in the world. 「世界で最も人生を祝う企業」。2018年7月2日にリリースされた新ビジョンに対して、森山は「想いがのった、熱量のあるビジョンが出せました」と、誇らしげに語った。

旧ビジョン『style for Earth』は、創業者の森山個人の人生をかけたビジョンでもあり、会社の仕組みや意思決定など、全ての根底にある考え方だった。

*style for Earthとは、誰もが地球に生きる人間として、より自然な生き方ができる世界を実現すること。そうして起こる連鎖が、あらゆる世界を美しい循環へと変える事を信じて。(HP抜粋)

ビジョンが変わるということは、会社が変わることだといっても過言ではない、大きな意思決定だ。だからこそ、旧ビジョンを手放すことへの葛藤があったことはゆうに想像できる。

「自律的な経営に向かう中で、ビジョンの重要度が高くなっていることを感じていました。そして、2022年までに100億企業になるという目標に対し、成長スピードが足りないという課題認識もありました。全員が、より一層高い解像度で語れるビジョンでなければ、目指す世界にはたどりつけないと思ったんです」。

経営会議でメンバーと繰り返し行われた会話は、「私たちはどこへ行きたいのか」という根本的な問い。経済成長を選ぶも選ばないも、どのレベルで事業をやるのかも、すべては自分たちの哲学から始まる。経済性だけでなく人間性をも両立した世界をつくりたいと願う、CRAZYにとって今必要なことは何なのか。話し合いの中で見えて来たのは、一人ひとりの社員がもっと自律的に働ける状態をつくることだった。

『style for Earth』はスケールが大きいため、誰しもの想いを包含できる。多くのメンバーがこの言葉を拠り所にもしてきた。当然、森山は自身のビジョンだから手放しがたくもあった。しかし、一人ひとりがビジョンを自分の言葉で語り、自律的にエネルギーを発揮するには、抽象度があまりに高い。ビジョンが会社のエネルギーの根本であるからこそ、一人ひとりに近い距離感の言語に変換する必要があった。森山は新ビジョンをつくることを決めたのだった。

とはいえ、すぐにビジョンが舞い降りてきたわけではない。前職でビジョンコンサルティング経験を豊富に持つ森山は、様々なビジョンメイクの方法は知っていた。しかし当事者として、「自分の人生を賭けられるだけの、強烈に信じられるビジョンをつくることはできるのか」と問い続けることになる。結果、これまで経験したどれとも違うやり方で、新ビジョンを決定することになった。

社員の熱量の総和こそが、会社のビジョン

社員一人ひとりからインスピレーションを集めようと行った、自分の人生のビジョンを語る「Co-visioning Session」。約10名/回で、全11回。レストランでの食事や屋形船への乗船など、様々な場所で行われた。そこには、「人を幸せにしたい」「愛し、愛されたい」「その人の人生が変わるような結婚式を届け続けたい」など、社員の数だけ溢れる想いがあった。

森山いわく「とにかく、一人ひとりが自分自身のビジョンを本気で語りました。そして、みんなでそれを受け取る。ただそれだけのシンプルなコミュニケーションでしたが、尊くて本物の時間が流れている感覚がありました」。

“ 綺麗な言葉を並べただけのビジョンには、誰も熱狂しない ”というのは、森山の持論。実際、会社のビジョンは、創業者でない限り他人事になってしまうことも多い。立場にかかわらず、誰もが熱狂できるビジョンがあるとしたら、それは自分自身のビジョンでしかないということを、森山は分かっていた。だからこそ、社員が自分の人生のビジョンを語る場を設けたいと思った。

フラットな状態で全員のビジョンを聞いて、インスピレーションを蓄積させていく。そしてメンバーのビジョンと会社のビジョンを融合させていこうという森山の考えは十二分に機能した。100名近い社員のビジョンと会社のビジョンの感覚的な共感や共鳴が、Co-visioning Sessionの場を通じて、実現されていったのだった。

「ビジョンもそうですが、形がない・目に見えないものを生み出すときは、空気感が大事。アウトプットしなくてはいけないと意識しすぎると、作為的になる。自然と浮かび上がってくるものを待って、クリエイティブに編集していくことです」。

Co-visioningSessionで出てきた言葉は、「celebrate」と「your life」。当然、インスピレーションだけではない。他社のビジョンについて研究を重ね、言葉から受ける感覚などクリエイティブのチェックにも余念がなかった。最終的には、経営ボードメンバー5名が公園に集まり、コーヒーを片手に青空の下で語らい合う中で、新ビジョンは誕生した。

新ビジョンがもたらした、熱狂と別離

『To celebrate your life the most in the world. /  世界で最も人生を祝う企業』は、人生に向き合い、誰よりも一人ひとりの人生を讃える存在でありたいという、創業以来、顧客にも社員にも向けてきた姿勢が、改めて言語化されたものだとも受け取れる。馴染みが深そうに見えるからこそ、新ビジョンへの移行は容易いものだとも思われたが、決定後にまず森山が取り組んだのは、「新ビジョンを自分に定着させるプロセス」だった。

創業時とは異なり、自分だけで決めたものではない。皆でつくった会社のビジョンを、トップとして、相手が感動するレベルで語れるのかどうかが問われていた。「私という個人にとって、このビジョンはどういう意味があるのか」「人生を祝うってどういう意味か」「なぜ私は、あなたの人生を祝いたいのか」。森山は自問自答を繰り返した。

7月2日に行われた全社員向けの戦略発表会では、森山自身のパーソナルストーリーと共に、新ビジョンが披露された。会場は感激の渦となり、その場で新ビジョンと全員の気持ちが重なった感覚を、誰もが感じていた。それを示すように、森山のプレゼンテーションを聞いた社員は口々に、新ビジョンと自身を重ね合わせた身の上話を始めたそうだ。

「自分が解像度高く語れなければ、他の誰も語ることはできないと臨んだ場でした。本気の気持ちが伝わって、皆からも本気が漏れ出てきた。これこそが、ビジョンの意味だと実感しました。私だけではなく、全員がパーソナルストーリーとして会社のビジョンを語れるようになったとき、CRAZYは唯一無二のパワーを持った会社になるんだと思います」。

一方で、「同時に伝えておきたい事実もある」と、言葉を選びながら森山が語り出したのは、CRAZY KITCHENの事業譲渡とWHEREの独立運営化についてだった。特にCRAZY KITCHENの代表は、創業メンバーのひとりでもあった。事業にも人に対しても、並々ならぬ思いがあっただろう。

「この2社と別れるという決断は、大きな意思決定でした」。いち人間としての感情は、辛いし嫌だという気持ちは当然あった。だが、CRAZYはどこへ行きたいのかを考え、ビジョンに立ち返れば、必要な判断だということもまた、森山自身が一番わかっていた。

「やらなければならないからではなく、この方向性に対して、しっかりとお互いを理解し合う時間が必要でした。何度も対話を重ねて、最終的には両社の社長はもちろん社員も、納得して合意した決断になりました。CRAZYの社員からは、寂しいという声はまだありますけどね」と、語った。

新ビジョンを携えた、CRAZYのこれからについての答えは「celebrateする/祝うという行為の本質に立ち返り、再定義し、この領域のオピニオンリーダーとなって、新たな文化を根付かせていきたい」というもの。

情報が溢れ返る中で人生に迷い、自分の人生が不確かだと感じている人は多い。そんな時代に対して、新たな人生がスタートする結婚式という節目をきっかけに、今までそしてこれからの人生を一緒に考えていく。結婚から始まり出産記念日など、その後の人生のあらゆる節目においても。

最後に森山は、経営者としての決意表明のようにこう語った。「今回、新ビジョン策定と2社の事業譲渡と運営独立化という、大きな決断をしました。経営者としてはまだまだ未熟だけれど、すべては世界を変えるほどの情熱から始まっています。自分たちの理想にブレはありません。成し遂げると信じている人だけが世界を変えられる。私はこの生き方を貫き通したいと思います」。

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Editor:水玉綾(@maya_mip
Photo:小澤 彩聖(@ayatoozawa

伊勢真穂 MAHO ISE
リンクアンドモチベーションにおける約8年間の組織人事コンサルティング経験を経て、フリーランスとして活動中。組織変革の知識と現場経験を豊富に持つため、HR領域における取材依頼が多い。「Forbes JAPAN」や「HR2048」といったビジネス系メディアでの執筆を行う。


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