恋愛でも仕事でも「腹黒い」「計算高い」「したたか」などの言葉は、一般的にネガティブなものとして使われる。しかし、そんな性質を魅力に変えてきた人たちがいる。
完全オーダーメイドウェディングCRAZY WEDDING創設者・山川咲と、各業界の常識を覆した人がトークセッションを行う企画「UNSTANDARD PEOPLE」。
第3回目は、気鋭の建築家でありSUPPOSE DESIGN OFFICE共同代表・谷尻誠氏。二人に共通した、新常識を作る上での考え方とは。
建築家だけど映画も作る
大木氏:今日のテーマは「UNSTANDARD PEOPLE」です。谷尻さんは建築家という枠に囚われずに、細田守監督の『未来のミライ』の映画作品にも関わっていますよね。
谷尻氏:最初は細田監督に「どう作ったらいいですか」と聞いて提案していたんですよ。でも全然うまくいかなくて。悩んだ挙句、細田作品を全部見直したら、坂道だ! と思ったんです。
坂道で、映画の躍動感を表現する作品が多いことに気がついたんですよね。『バケモノの子』も熊鉄と丸太が坂をおりるシーンがあるし、『サマーウォーズ』では夏希の実家に行くまでに大きな坂道を歩きます。
だから『未来のミライ』では、傾斜地に沿うような階段状の家が良いんじゃないかと提案をして。監督の要望を聞くだけじゃなくて、普段の建築と同様に特徴を洗い出して提案したら、気に入ってもらえたんですよね。
大木氏:業外の立場だからこそ、できた提案ですね。山川さんも、ウェディング業界出身者が1人もいない中で始められたんですよね。
これまでの結婚式を覆すモデル
山川: そうですね。6年前に、オーダーメイドのウェディングブランドCRAZY WEDDINGを始めました。当時から「ウェディングの新しいスタンダードを作る」という気持ちでした。
ただ、全てオーダーメイドなので、毎回の結婚式はあまりに大変なんですよ。量産できるモデルではないですし、この提供スピードでは、世の中のスタンダードを変えていくことは難しい。6年目にしてある種そう受け止めたんです。
ただ、人生が変わるほどの価値がある結婚式を、1人でも多くの人に届けたいからこそ、今は新しいブランドIWAIを立ち上げています。詳細はぜひ、大木さんの口から(笑)。
大木氏:そうですね(笑)。結婚式は開始から終了まで、2、3時間あるじゃないですか。でも本当に新郎新婦を祝っている時間は、実は5分くらいしかないと思うんですよ。高砂に行って一緒に写真を撮るとき、終了後のお見送りのとき。累計しても新郎新婦と関わる時間は少ないですよね。
IWAIはそれを覆すモデルになっていると思いますよ。参加者が、祝うことを大切にできるブランドなんです。
山川:今の結婚式で不思議なのは、新郎新婦が絶対的に主役なことですよね。まるで披露するかのように、スポットライトの下で、大きなケーキを入刀するといったスタイルが主流なんです。でも今の時代は、みんなで一緒に楽しみたい、って人が実は多いんですよ。だからこそ、もっと深く知って、話ができる、感情の行き来のある新しいスタイルを提案するのがIWAIです。
腹黒さは、社会性を持つと感謝される
谷尻氏:CRAZY WEDDINGは、「クレイジー」って言いながらも、めちゃめちゃ真面目にやっているよね。それが逆に良かったね。
山川:創業当初は、本当に大変だったんですよ! 結婚式という正当なものに「クレイジー」は似合わないので、新郎新婦の親御さんから電話がきて、「あなたの会社では挙げさせたくない」ってクレームがくるくらい(笑)。でも創業期に一番喜んでくださったのは、毎回親御さんでしたね。
私は「人の人生は泣けるほど素晴らしい」と思っているんです。 これまで出会った全ての人との関わりがあって、今があり、パートナーを選んでいる。そう思うと、結婚式は二人の結婚だけでなく、今日までの全ての日々を祝う場所にしたいっていうのが私の想い。それを建築に落としているのがIWAIなんですよね。
谷尻氏:山川さん、絶対に腹黒いですよね(笑)。企画するとは、企む(たくらむ)ということで、誰よりも物事の現象を考えて「人はどう感じ、動くのか」を徹底的に考えぬくことだと思うのですが。腹黒さは社会性を持つと、白になるんですよね(笑)。
山川:私は母親に、計算高いところが長所だと言われていますよ(笑)。結婚式でも、二人が「やりたい」と言っているから「やりましょう!」って共感するだけでは良いものはできないと思うんです。たとえば会場さんに「それは無理です」と言われる中で、どう関われば前のめりに乗ってくれるかまで、かなり設計が必要なんですよね。
大木氏:単に腹黒い人と、お二人の腹黒さは何が違うんでしょうね。
谷尻氏:一般的に言われるそれはネガティブイメージで、利己的なものとして扱われています。でも僕たちは自分だけじゃなく、周りにいる人をどう豊かにするかを考えているので、感謝されるんですよ。どうすると人は感動するのか、リラックスするのか。利他的な方向で腹黒さを活用しているからで。
山川:人間的腹黒さではないんですよね。人間的に良い人であることと、ビジネスとして賢くあることの両方が大切だと思いますね。
大木氏:お二人はクリエイティブだなと感じるのですが、一般的にクリエイティブには制約があると良いと聞きます。咲さんはどうお考えですか。
山川:世の中の制約は、悪いことばかりじゃないと思っています。結婚式でいうと、挙式は神聖なもの、親には手紙を書くもの、という常識があるじゃないですか。そうした常識という制約に助けられたと私は思っているんですよ。たとえば、親御さんへの感謝の表し方をゼロから考えるのはあまりに大変ですから。世の中の常識を否定もしくは利用して、新常識を作るのがいいですよね。
谷尻氏:世の中は制約が多いので、苦悩するじゃないですか。でも制約が多い方が、自分たちの価値が顕在化すると思いますよ。だって、できない人が増えるということは、できた人の価値が高まるということだから。
僕は高校の時にずっとバスケをやっていたんです。背が小さいので、毎日スリーポイントシュートを練習していました。でも試合でいざ打とうとすると、邪魔されるんですよ。なぜなら、シュートを打つ線がバレているからです。
そこで、1メートル離れて練習を始めました。それって僕にしか見えない線だから、自由なので、シュートが決まるようになったんです。みんなゴールに近い方が有利だと考えますよね。でも進んで不利を選ぶということは、ある側面においては圧倒的有利を選ぶということ。僕は制約があるに越したことはないと思いますね。
周囲全員が「右ならえ」をしたとしても、絶対に右をむかないであろう二人。そこにはきっと、彼らなりの企みがあるのだと思います。「UNSTANDARD PEOPLE」に共通するのは、誰かの役にたつ為に、人とは違うやり方を選び考え尽くした、腹黒さそのもの、なのかもしれません。
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写真:浦口 宏俊