「みんな誰かにとっての失敗を恐れて、自分の人生を生きるのをやめてしまう」。葛藤から生まれた確かな希望ー白木夏子・山川咲の対談ー【UNSTANDARD PEOPLE #2 】

「やってみたい! 」という衝動を、どれくらい後回しにしてきただろうか。心の中で聞こえる「やめた方がいいんじゃないか」という声に何度も負けてきてしまった。一方で、そんな声に屈せず、信じる道を切り開いてきた人たちがいる。彼らは、私たちとなにが違うのか。

各業界の常識を覆した人と『CRAZY WEDDING』ブランドマネージャー・山川咲が、トークセッションを行う企画「UNSTANDARD PEOPLE」。第2回目は、ジュエリーブランドHASUNA代表・白木夏子氏。二人のトークショッセッションの中で見えてきたのは、彼女たちに共通する「葛藤との向き合い方」だった。(第1回目はこちら

人、社会、自然環境に配慮した事業を

吉田勇佑(以下、吉田):まずは、お二人が作られたブランドを教えてください。

白木夏子(Natsuko Shiraki)氏  ジュエリーブランドHASUNA Founder&CEO
英ロンドン大学卒業後、国際機関、投資ファンドを経て2009年4月に株式会社HASUNAを設立。2018年には「パートナーシップのあり方を問い直す」をコンセプトに掲げたプロジェクト《re.ing[リング]》をクリエイターの高木新平氏とともに立ち上げ、LGBTを含む多様な家族観・パートナーシップの社会意識変革を行う。日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011キャリアクリエイト部門受賞。2013年には世界経済フォーラム(ダボス会議)にGlobal Shaperとして参加・204年には内閣府「選択する未来」委員会委員を務める。

白木夏子(以下、白木)氏:HASUNAというジュエリーブランドの代表をしています。2009年の4月に創業して今年で10年目です。きっかけは、大学時代に国際協力の仕事をしたいと思って、インドの貧困層の研究をしたことです。実際にインドの高山に登ってアウトカーストの村に滞在する中で、鉱山労働者に出会いました。

彼らは1日1食しか食べられない、学校も行けないような状況。でも、高いお金を払って買う、金属や化粧品に使われるパウダーは、鉱山からきている。「どうしてその人たちにお金がいかないんだろう」ってすごく疑問が湧いたんですよね。この状態を変えるには、ものづくりの業界自体を変えていかなきゃいけないと思って、人と社会と自然環境に配慮したジュエリーの会社を作ったのがはじまりです。

今年は新しく『Re.ing』という、パートナーシップの多様性をテーマにしたブランドを立ち上げています。どの雑誌やブランドをみても、男女のカップルがデフォルトだと思うんです。私はジュエリー業界で10年やってきましたが、実際はいろんなお客様が来られます。

男のカップル、女のカップル、トランスジェンダー、一人でいると決めた人、子連れのカップル、再婚、再々婚、ペットを家族にしている方など。いろんな家族観があるわけです。指輪は「関係性」の象徴なので、今の日本におけるパートナーシップの姿をアップデートしたいと思って始めています。

山川:実は最近、なっちゃんのところで婚約指輪を買い換えたんですよ。少し前に旦那の森ちゃん(CRAZY代表・森山和彦)と色々ぶつかって、関係性を新しくしようと思って。

ビジネスの前提には、知れば知るほどお金儲けがあると思うのですが、それを起点に始まっていない商品を身につけられるのは、嬉しいですよね。

山川咲(Saki Yamakawa)株式会社CRAZY / CRAZY WEDDINGブランドマネージャー 業界で不可能と言われ続けた完全オーダーメイドウェディングのブランド「CRAZY WEDDING」 を立ち上げ、たった1年で人気ブランドに成長させる。2016年には夢であった毎日放送「情熱大陸」に出演。2年間の休業を経て第一子を出産後、表参道にて新ブランド「IWAI」を始める。著書に『幸せをつくるシゴト』(講談社)。

自分の人生は唯一無二だと感じられる事業

 私は6年前に、CRAZY WEDDINGという、完全オーダーメイドの結婚式を作りました。私自身24歳の時に式を挙げたんですが、今までで一番自分がやりたいと思ったことが叶ったんです。結婚式ほど多くのお金と時間と労力をかけて、やりたいことをやる機会ってないじゃないですか。 どんな場所でもその人らしい結婚式ができて、自分の人生は唯一無二だと感じられるのが結婚式だと思ったんですよね。

ただ、オーダーメイドで多くのお客様に提供していくのは非常に大変でした。数を増やすのが限界な中で、1人でも多くの人に、人生が変わるほどの結婚式を届けるべく、最近『IWAI』というブランドを立ち上げました。

オーダーメイドの式を作る中で「そんな仰々しいものはしなくていい」「私たちのためじゃなくて、みんなと共有することにお金を使いたい」っていう声があったんですよ。だから、参加者全員に心を込めてお手紙を書くことや、料理はお決まりのコースではなく、同じ釜の飯を食べることなど、参加者と一緒に楽しめる新しい形の結婚式を提案しています。

吉田:ありがとうございます。たくさんの社会課題がある中で、なぜ白木さんは今の領域に進んだのか、教えてください。

何をやってても社会貢献になるのだから、好きなことをやろう

白木氏:国際協力の勉強をしていると毎日いろんな課題と向き合うわけです。貧困、森林破壊、北極の氷がなくなってホッキョクグマが飢えている。途上国のみならず日本の中でもいろんな問題があって、何から手をつけたらいいか分かりませんでした。

インドに行っても、培った経験もスキルもない、何もできない自分が本当に無力で。そこで目を背けることもできたかもしれないけど、発想を転換したんです。何をやってても社会貢献になるのだから、じゃあ好きなことをやろうって。

吉田:世界を知った上で、自分の無力さを受け止めて開き直る瞬間があったんですね。小さい頃はどんな子どもでしたか。 

白木:内向的な子でしたね。人と話したくなかったんですよ!

一人っ子だったので、周りはみんな大人。20年間、ほぼ日本から出たことがないような子でした。私の母はもともとファッションデザイナーでした。鹿児島出身の母は、小学生の時に読んだココシャネルの漫画に影響を受けて田舎から飛び出し、デザイナーになったんです。そんな母の影響を受けていると思います。

ただ残念なのは、母は、結婚と同時にデザイナーを辞めてしまったんです。私は、「なんで自分のキャリアを諦めたんだ」と感じてきたからこそ、「やりたい仕事をずっとやるんだ」って胸に決意を秘めていましたね。同時に、自分に影響を与えた第2の人間は、おじいちゃんです。ちょっとクレイジーなおじいちゃんなんですよ! 

戦争でいろんな国へ行って、戦後は旅をして、英語・ドイツ語・ロシア語・中国語を習得していて。本業は薬剤師として昼間は薬屋を営んでいたのですが、能楽の資格を取って、夜は家でお能の教室を開いていました。さらにそれだけでは飽き足らず、催眠術師の資格を取って、薬屋の店頭で子供のおねしょを直したりしていましたね(笑)。

 

そんなクレイジーなじいちゃんが、あるとき私に言ったんです。「いろいろな世界を見て気づいた。日本は女性を差別する風習がある。働いてもお茶汲みぐらいの仕事しかできない。結婚してもその家の言いなりだ。だから夏子は、海外へ行け」って。それに背中を押され、大学から海外にいくことを決めたんです。

吉田:夏子さんのハートに強烈に影響を与えた体験ですね。咲さんは、いかがですか。

苦しみを感じられる自分にたどり着いてるって素晴らしいこと

山川前回の話でも父の影響について話をしたんですけど、私は、父がフジテレビのアナウンサーを退職してから、ワゴンカーで日本中旅をして、最終的に、電車が8時台には全て終わってしまうような千葉の片田舎で育ちました。

登下校中に猿の大群に遭遇して、通り過ぎるのを待っていたら遅刻しちゃうとか、マムシが家の中に入ってきて、誰かの家に泊まりに行くのが自然なくらい「守られていないサファリ」みたいな場所で育ったんです。昔はそんな自分が本当に嫌で、普通になりたい、個性をなくしたいってずっと思っていましたね。

白木氏:私も、自分が嫌いだった感覚がすごく強いですよ。人と喋りたくなくて、部屋から出たくて。この気持ちは、高校の文化祭や体育祭を全力でがんばった経験やイギリス留学で薄れていきましたが、自分が何者であるのか、なんの為に生きているのか、世界に何を与えられるのかをずっと考え続けていましたね。26歳でHASUNAを立ち上げると決めるまでは結構苦しかったです。

山川:そうだったんですね。

白木氏:また、私はたまに絵を描くのですが、落ち込んでいる時ほど、皮肉なことにいい絵が描けるんですよ。だから絵とか小説とか会社を作るとか、クリエイティブなことは、苦しみとちゃんと向き合った人だけが生み出せるものなのかなって思います。咲ちゃんも、芸術肌ですよね。

吉田:苦しみや辛い感情は、無視したいものじゃないですか。でもそれを高いレベルで取り扱っているのは、UNSTANDARD PEOPLEのコアに近いものだと感じますね。

山川:「中二病」って言われるから、みんなそれから卒業しようとするけど、私は35歳になっても悩んでいますよ。苦しみがない人生って生きていないのと一緒。苦しみを感じることができる自分にたどり着いてるって素晴らしいことだし、パワーが出ることなんですよ。

CRAZY WEDDINGとIWAIを立ち上げる時も、人生で1番辛い時でしたね。会社にも行けない、外にも出られない、誰にも会いたくない。旦那の森ちゃん(CRAZY代表・森山和彦)との結婚も続けられないのではないかと思うくらい、辛い時期でした。

白木:そうだったんだ。私も、さっき言った新ブランド『Re.ing』が生まれたのは、パートナーシップの形が固定化されていることに、疑問や怒り、不甲斐ない気持ちを感じたから。2年前に離婚を決める前、「本当にこれで良いんだろうか」と元夫と何年もかけてじっくり話し合って向き合ったんです。

結婚ってなんだろう、パートナーシップってなんだろう、家族ってなんだろうって。その時間もあって今はお互い友人として、とても良い関係を築けていますし、葛藤や考えさせられた日々があった中で熟成されたアイデアなんですよね。

 

みんな誰かにとっての失敗を恐れて、自分の人生を生きるのやめてしまう

吉田:二人が今社会に届けたい、伝えたいと思っているメッセージはありますか。

山川:これからの時代、答えが1つじゃなくなっていくと思うんです。今の結婚式では、必ずお決まりの流れがあります。でも多様性にあふれているこの時代に、1つのスタイルしかないことがおかしい。私はこう思いますよって別の提案していきたいと思います。

白木氏:確かに今あるものからの脱却というか、常識を疑うことが大切ですよね。私たちは成長して経験を積み上げていく中で、無意識化でバイアスがかかってしまう生き物なんです。それによって生きづらさを作り出してしまっている。これを一つ一つ紐解いていくだけで、どれだけ生きやすくなることか。

山川:すごくよく分かります。また「失敗するのが怖い」とよく聞きますよね。世の中における定義では、「成功とは何かを手にすること、失敗とは物事がうまくいかないこと」だと思うんです。でも私は 「成功とは挑戦すること、失敗とは挑戦しないこと」だと思っています。

みんな誰かにとっての失敗を恐れて、自分の人生を生きるのやめてしまう。一生を終えて振り返った時に、小さい失敗はしていないけど、人生を丸ごと失なっていたなんて嫌じゃないですか。生きているうちに失敗して落ち込むことは素晴らしいことです。成功したくて頑張ったことよりも、失敗してでもいいからやりたくてやったことの方が価値があると私は思います。

(END)

悩むことは誰しもある。ただ、二人は向き合い方が違っていた。いくつもの問いを自分に突きつけ、散々考え、逃げ出したくなっても考え続ける。もしかすると、そこで感じる苦しみとは、自分の中にあった古い常識を壊す苦しみのことなのかもしれない。

UNSTANDARD PEOPLEに共通するのは、葛藤と深く向き合うこと。何かに迷ったり、立ち止まったりしたときには、自分の枠を超え、新しい常識と出会うチャンスなのだと思い出して欲しい。そして1人でも多くの人がこの記事を通して、失敗を恐れず、自分の人生を生きる勇気を持ってくれたら嬉しく思う。

 

 ※UNSTANDARD PEOPLE第1回目の記事はこちら

 

写真:佐田真人

水玉綾(@maya_mip)
Aya Mizutama

CRAZY MAGAZINE編集長。フリーランスのライター・編集者。働き方・組織論などのビジネスシーンから、個展やポエミーな文章まで幅広く担当。世の中が美しくなる編集を大切にしている。吉本ばななさんのTUGUMI、ミヒャエル・エンデさんのモモが好き。

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