2017.03.10

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女性のキャリア特集〜 命の可能性を言葉にする仕事 〜

“ なんのために生まれたのか、
一度きりの命をどう輝かせるのか ”

自分の生きる意味を自覚したとき、人はこれまでにないくらい強くなる。逆にいうと、生きる意味や志を見つけることは、人間として生まれたからには逃げられない永遠の命題なんだとすら思う。

新郎新婦二人に、人生のコンセプトを生み出す仕事、コンセプター。これまでに合計200組のカップルの人生に触れ、世界でたったひとつのコンセプトを生み出し続けてきた渡部恵理さんにインタビューをした。

― コンセプターとはどういうお仕事なのでしょうか。

渡部さん:新郎新婦の人生を、コンセプトに落とし込んで伝えるお仕事かな。ふたつとして同じ人生がないように、人生にはすごくたくさんのドラマがあって。苦しかったこと、愛されてきたこと、もしかしたらそれを疑ってきたこと……。コンセプトを作る上でのヒアリングでは、これまで歩んできた人生のすべてをさらけ出してもらうんだ。なぜこの人と結婚するのか、これからどうやって生きていくのか。私が二人の人生と手をつなげたという確信をもてるまで、質問し続けて、それを二人の代わりに言葉にする。それがコンセプターの仕事だと思う。

― そこまで向き合うんですね……!どうやって生きていくのかを考えたことがない人もいるのではないでしょうか? 家族や友達ともそういう話はしないですしね。

渡部さん:そう思う。心の奥にある本音って簡単には出てこないし、自分自身で気付いていないことも多い。だからまずは、話しやすいだろうと思う簡単な質問からしていって。「それってどういうこと?」「なんでなの?」といくつもの質問を重ねていくと、本当の気持ちに気づくことも多いんだよね。例えば、本当は役者の仕事をやりたいと思っていたことや、今の仕事についた理由とか。そうして二人の人生が自分ごと化できるまでとことん話す。私は同じ人間にはなれないけれど、同じ感覚にはなろうとする努力はできるから。

20年にわたる親子の確執と向き合う

― コンセプトには、お二人の人生をヒアリングして見えた、ふたりだけのドラマが詰まっているんですね。今まで作ってきたコンセプトの中で、特に印象に残っているものはありますか?

渡部さん:お母さんとの確執を乗り越えた新婦さんとの出会いは、私にとって一生忘れられない経験かな。

彼女は幼いころに自分を置いて家を出た母親がいて。定期的に会ってはいたものの、一度大きくぶつかりあったことをきっかけに4年間音信不通だったのね。ヒアリングでは、そんな母親を許せない気持ちや、自分は愛されていないと感じていたことを泣きながら話してくれて。新郎さんもそんな彼女を守りたい、という気持ちがとても強かった。だからふたりにとって親御さんと向き合うことそのものが結婚式の大事な要素だと思ったの。そして、二人だからこその、弱さを強さに変えられる力を言葉にしたの。そうして紡いだコンセプトが「Always light -雨と光の森- 」。

そのコンセプトを渡してから、彼女は自分の中にある強さに目を向けるようになって、お母さんに会いに行くことを決意したんだ。

ヒアリングの時間は、自分の人生を見つけられる体験ができる時間だと言ってくださる新郎新婦も多い。実は大切にしていたこと、愛していたこと、傷ついていたこと、いろんな過去を認識することで、世界でたったひとつの自分だけの人生を見つめることができるからだ。

新婦さんは心が離れていた母親と向き合って、結婚式を一緒に迎えたいという思いで、4年ぶりに会ったお母さんと1週間一緒に過ごしたんだよね。そしてお母さんが台所で立っている姿を見て「お母さんってこんなに温かいんだ」と初めて感じられたそう。

結婚式の打ち合わせの中で、読むか悩んでいたお母さんに向けた手紙は、当日書き上げて泣きながら読み上げたの。お母さんはその言葉を聞きながら、「こんな母親でごめんね、娘として生まれてくれてありがとう」と涙していて。たくさん傷つけたけどそれでも感謝していると伝えた時の新婦さん、それを聞いていたお母さんの表情を思い出すと、今でも泣きそうになる。自分が渡したコンセプトによって、新婦とお母さんの人生が大きく動いたことが、本当に嬉しい。

― その人の人生を言葉にすることで、今まで向き合えなかった過去にも光をあてることができて、それが前へと進む勇気になる。コンセプトの力ってすごく偉大だと思いました。でも、そこまで真剣に人の人生に向き合うことは簡単じゃないし、他人だからこそためらってしまう部分もあると思うんです。でも渡部さんはどうしてそこまでして、本気で人の人生に向き合うんでしょうか?

渡部さん:命の可能性を諦めたくないからかな。

― 命の可能性、ですか?

渡部さん:そう。結婚式とはなかなか結びつかない言葉かもしれないね。実はそう考えるようになったのはきっかけがあって。私がまだ3歳だったころ母親に「ハゲワシと少女」の写真を見せてもらったの。

南アフリカ共和国の報道写真家であるケビン・カーターが撮影した「ハゲワシと少女」という写真。これはスーダンの飢餓を訴えた写真であり、1994年にケビン・カーターは新聞等の印刷報道、文学、作曲に与えられる米国でもっとも権威ある賞のピューリッツァー賞を受賞した。

3歳の私は、この写真の子が同じくらいの歳の子だと思ったけど、実際は年上で、ご飯が食べられないから体が小さくなっていて。“ 世界にはどうしようもない命の扱いの差があるのかもしれない ”と幼いながらに衝撃を受けたことを覚えているのね。「撮影してるくらいなら、カメラマン助けてよ! なんでよ! 」と怒って泣きながら母に叫んで。これが命の可能性を無駄にはできないと思った原点。

― 3歳の純粋な感受性に、強烈に訴えてきたものがあったんですね。ずっと人生や命について、想像もできないくらい向き合い続けてきたからこそ、渡部さんの言葉は重みがあるんだと思いました。

渡部さん:それからは大学で教育を学び、卒業後は専門学校の先生になって、学校に来ない生徒やリストカットをしている生徒と、一対一で向き合うことの多い日々だった。一人一人背景はさまざまで、夢を諦めざるを得ないお金や体の問題、家庭内での暴力など。彼らと話をしていく中で、人の弱さと向き合える人でいたいと思ったの。

― 大学に入ってもなお、人の命や、人生について考え向き合い続けてきたんですね。

渡部さん:そうだね。先生を退職後は、生きる上で一番大事なことを見つけたいと思い、世界一周にいったの。そこで社会的な活動を行っていたレゲエミュージシャンであるボブマーリー*のお孫さんと出会ったんだ。彼女の平和を願う気持ちや愛情に触れて、感動して。

私も命の素晴らしさや、もらった愛に気づくこと、あなたの人生は素晴らしいよと伝えて生きていきたいと強く思ったんだ。

― なるほど、そうだったんですね。渡部さんがどうしてそこまでして、本気で人と向き合うのか、よく分かった気がします。3歳の衝撃から、これまでの人生を通しての経験が、命の可能性を諦めないで生きる渡部さんを作ったんですね。

渡部さん:そうだね。私はこれまでたくさんの人生に触れてきて、だからこそどの人生も素晴らしいって本気で思う。コンセプターという仕事においても、そんな素晴らしい人生を送ってきた人たちに、引っ張られて言葉を紡いできただけで、実は私が生み出した言葉じゃない。私はただ、あなたの可能性に気づいて欲しいと願っているただのひとりの人間なんだ。

photo by gaku murakami

「だいじょうぶだよ、あなたの人生は素晴らしいよ」

渡部さんは存在の全部でそう伝えてくれているように感じた。

たとえこれまで、どんな経験をしていたとしても
あなたの人生は素晴らしいといえるのは
そこにこそ生まれてきた理由が詰まっているからなのかもしれない。

正直、渡部さんの生き様を言葉に落として記事にすることは、望んでいたことなのに、気が引けることでもあった。
彼女の存在を、どんなに丁寧な言葉を使っても表現できる気がしなかったから。

近くにいると、葉っぱの香りを思い出す、
偉大な大自然のような、広くて美しいその存在を。

思いの外、言葉が多くなってしまったことを謝りたい。

伝えたいことはとてもシンプルで
彼女の生き様そのものが
「命の可能性を諦めない」というメッセージだということ。

だから、そんな彼女に触れた人たちが
自分の過去を見つめて、
人生に意味を見出していくんだと思う。

“ なんのために生まれたのか、
一度きりの命をどう輝かせるのか ”

私もこの永遠の命題の答えに、ちょっと触れた気がした。
ありがとう、渡部さん。

心からの感謝を込めて。

* ボブマーリー
対抗している政治家を壇上の上で握手させるなど、社会的な活動を行っていた伝説のレゲエミュージシャン。

水玉綾(@maya_mip)AYA MIZUTAMA

CRAZY MAGAZINE編集長。フリーの編集者・ライター。HR領域の取材記事を中心に、媒体は「未来を変えるプロジェクト」「新R25」「PR Table Community」「BizHint」「FastGrow」等。三度の飯より愛犬が好き??WRITER’S ARTICLES


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