2018.09.26

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「常識がないことが常識になる」ファッション・ウェディング業界の新しい常識を作る女性ー荻原桃子・山川咲の対談ー【UNSTANDARD PEOPLE #1 】

「それは思いつかなかった! 」と言わせる、突飛な提案をする人はいないだろうか。それは側から見るとアンスタンダードだが、本人たちにとっては、ただ本心に従った結果なのかもしれない。

各業界の常識を覆した人とトークセッションを行う企画「UNSTANDARD PEOPLE」。第1回目は、完全オーダーメイドウェディング『CRAZY WEDDING』ブランドマネージャー・山川咲と、『UN3D.』デザイナー・荻原桃子氏。ブランド立ち上げの背景にあった一風変わった幼少期と、二人が思う次の時代のスタンダードとは。

3つのアンチテーゼから始まったブランド。

吉田勇佑(以下、吉田):今日は「UNSTANDARD PEOPLE」という企画で、新しい価値観を提案している人をお呼びしています。テーマは、「時代が求めるアンスタンダードなブランドの作り方」です。まずお二人が作られたブランドを教えてください。

荻原桃子(Momoko Ogihara)氏 UN3D.デザイナー
2002年からアパレル業界で販売、企画、バイヤーを経験。2006年より「MURUA」をスタートし、CREATIVE DIRECTORとして9年間にわたってブランドのトータルディレクションを行う。2016年 新ブランド「UN3D.」をスタートしデザイナーを務める。

荻原桃子(以下、荻原)氏:2006年にMURUA(ムルーア)という、若い世代のガールズブランドを立ち上げました。その後2016年にはUN3D.(アンスリード)を立ち上げて、現在デザイナーをしています。UN3D.は、UN STANDARD、UN SIMPLE、UN SIMILARという3つのUN(アンチテーゼ)を語源にしたブランドです。

洋服の作り方の常識や、流行りを追ったマーケティングを無視して、自分たちの世界観を貫きたいと思って立ちあげています。自由な個性や感性を大切にしているので、インパクトのある色味や素材を使って、今までありそうでなかったものを作っています。

山川咲(以下、山川):私も今日UN3D.の服を着ているんですよ。このスカートを履いて、ちょっと歩いてみると、いつもと違う気分になれますね。日常から脱却できる感覚があります。

山川咲(Saki Yamakawa)株式会社CRAZY / CRAZY WEDDINGブランドマネージャー 業界で不可能と言われ続けた完全オーダーメイドウェディングのブランド「CRAZY WEDDING」 を立ち上げ、たった1年で人気ブランドに成長させる。2016年には夢であった毎日放送「情熱大陸」に出演。2年間の休業を経て第一子を出産後、表参道にて新ブランド「IWAI」を始める。著書に『幸せをつくるシゴト』(講談社)。

私は、2012年に完全オーダーメイドウェディングのCRAZY WEDDINGというブランドを立ち上げました。私自身が結婚式をあげたときに、世の中のウェディングで常識とされていることは、おかしいと感じたんです。

本意ではないと思いますが、いつしかお金儲けが中心となり、本当にお客様が求めているものに答えられていないように見えてしまって……。そこで、あえて自分たちにCRAZYという冠をつけて、本当に心から良いと思える結婚式を作るために始めたのが、CRAZY WEDDINGです。

6年間で累計1000組のオーダーメイドの結婚式を作ってきました。ですが、オーダーメイドは非常に大変で、これ以上多くの人に届けていくには限界があると悟ったんです。

そして、結婚式の人生が変わるほどのパワーを、もっと多くの人に体験してもらえる、新しい時代のスタンダードを作りたいと思って、表参道に新ブランドIWAIを始めました。お決まりの披露宴をやめて、人が人を想う、人が人を祝うことを考え尽くしたサービス・空間を作っています。

吉田:具体的にはどのようなきっかけから、ブランドが生まれたのでしょうか。

後追いはイヤ。普通になりたかった幼少期。

荻原氏:私は、高校を卒業した時から、旦那が経営しているアパレル会社の販売員をしていました。洋服をお客様に提案するだけでなく、商品企画やバイヤーの仕事にまで携わっていたんです。

「こういう物があるといいんじゃないか」と考えたことを試していくうちに、お客様に喜んでもらえるのが楽しいと実感するようになって。いつか自分のブランドをやりたいと思っていました。

ちょうどブランドを立ち上げるお声がけをいただき、今に至ります。アパレルブランドのデザイナーって、専門学校を出て勉強をするのが王道の道なのですが、私は働いていた中で始まったんですよね。

当時はコンサバがブームで、ちょっとキレイめ、ぱちっとしたメイクがもてはやされる時代でした。みんな同じような服を着て、同じカバンを持って。正直私はそういう服装は気持ちが悪いと思っていました(笑)。もっと楽しそうに自分を表現したかったんですよね。

吉田:多くの人が周囲に合わせていく事が普通なのに!

荻原氏:後追いしているのが恥ずかしかったんです。プライドがあったんですよ。私の母は大阪出身で、靴下の色が右と左で違うものを履いたり、色物を取り入れたファッションをしていた女性で。幼少期からこうした環境にいた影響が大きいのかもしれません。

吉田:お母様が個性を表現していたからこそ、なんですね。咲さんは、どうですか。

山川:私が影響を受けたのは、父ですね。本当に変わった人だったんですよ! フジテレビのアナウンサーをいきなり退職して、ワゴンカーで日本一周の旅に連れて行かれました(笑)。私が2歳のときです。そこから定住したのが千葉の片田舎でした。

そんな環境だったから、どこまでいっても周囲と違う私は、ずっと「普通になりたい」って思い続けていました。社会人になってからも、普通じゃないから、社会で認められていないというコンプレックスで「評価されなくちゃ」ってがむしゃらに働いたんですよ。

ずっと他の人と違うことが嫌だったそんな私が、「この人生でよかった」と一番感じられたのが、結婚式だったんです。だから起業を決めたとき、過去の体験の全てが繋がったんですよね。

吉田:また、お二人とも出産をされていますが、お子さんが生まれてからの変化や葛藤はありますか。

出産しても、変わらない。娘が私を助けてくれた。

荻原氏:妊娠が発覚した時は、ちょうどUN3D.を立ちあげて間もない頃だったので、「スタッフになんて言おうか」と不安がありましたね。お母さんになったら仕事はセーブしなくちゃいけない、自分の時間も減ってしまうし、人生がつまらなくなるかもしれないとも思っていました。

でもいざ出産してみると、正直何も変わらなかったんです。好きな洋服のテイストが変わることもないし、嫌いなものは変わらず嫌いですし、子供は本当に可愛いので、時間がセーブされても全然平気なんです。

山川:私もキャリア思考が強いので、もともとは子供はまだ先でいいと思っていました。ですが情熱大陸出演後に心身のバランスを崩して、会社に行けなくなって、3ヶ月したら妊娠が発覚したんですよね。今では娘が私を助けてくれたと思っています。

また、子供を産んだことで、私自身が両親にしてもらっていたことの偉大さに気づきました。生まれてすぐの私が泣いたら起きてくれて、おっぱいをくれて、365日24時間見ていてくれたから、今があるんだって分かったんです。もし娘が生まれていなかったら、IWAIは生まれていないかもしれない。IWAIは娘が与えてくれた未来だと思っています。

吉田:最後に、これからの時代のスタンダードは、どのようなものだと思いますか。

小さな本音と違和感。常識が存在しないことがスタンダード。

山川:「私が欲しい」という感覚が、重要だと思っています。これまでは目の前の人のニーズを聞いて、それに合うものを作ってきたと思うんですよ。でも満たされた時代の今、自分のニーズがクリアじゃない人が多いと思うんです。なんとなく共感していて、なんとなく違和感を抱いている。でも、うまく言葉にはできていない。

そうした心の中にある小さな声に応えていくことが、今後のスタンダードになるんじゃないでしょうか。それは多分誰かが求めているものじゃなく、個人が求めているものから生まれると思うんですよね。

荻原氏:私は、常識がないということが常識になると思っています。「何が常識ですか?」と問われた時に、1つの解に決めつけられない、こうあるべきだと言わない時代になっていくと思うんです。いろんな人が多様な価値観を発信できるのが今の世の中なので。

吉田:お二人とも意見が深くて、面白いですね。では、参加者からの質問に答えて、終えていければと思います。

参加者:私はいま、次の一歩が踏み出せない状況にいます。決断のタイミングに大切な考えや軸を教えてください。

山川:私は決断できないときは、決断できるタイミングじゃないんだと思っています。「何か始めたいと思ってるけど始められません」という人の話をよく聞きますが、そのレベルで始めても成立しないから始めないほうが良いと思うんです。私が何か大きな決断をするときは、「死ぬほど嫌だ」と思ったとき。奈落の底に落ちきって、涙を流しきって、新しい人生を始めるしかないときなんです。

決断する種類にもよるんですけど、それくらいの次元じゃないと私は決断しません。CRAZY WEDDINGを始めたのは流産をして会社を辞めたときで、IWAIを始めたのは、情熱大陸出演後の会社に行けなくなったときでした。改めて人生を問われて、葛藤して、考えきった結果に新しい決断ができた感じなんですよね。

多くの人は、ちょっと悩んでいる、ちょっと辛い状態をごまかして、ポジティブに何かをしようとすると思うんです。でも、もがいたり苦しんだり葛藤したりすることは、人生にとって大事なエッセンス。これに向き合わないことは、自分の人生そのものをスルーしていることに近いと思うんです。踏み出せない今の状況にしっかり向き合うのが良いかなと私は思います。

(END)

人と違う個性を持つ、アンスタンダードな彼女たち。育った環境にもその理由の一端が垣間見えた。二人に共通していたのは、今の世の中や業界に対する疑問、不安、怒り、自分は迎合したくないという強い意志を持っていたこと。これが、新しいブランドを作るヒントなのかもしれません。自分のスタイルを貫き、次の時代の常識を広げる彼女たちから、今後も目が離せません。

(第2回目のイベントレポート記事はこちら

写真:小澤 彩聖

水玉綾(@maya_mip)AYA MIZUTAMA
CRAZY MAGAZINE編集長。フリーの編集者・ライター。HR領域の取材記事を中心に、媒体は「未来を変えるプロジェクト」「新R25」「PR Table Community」「BizHint」「FastGrow」等。三度の飯より愛犬が好き


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