2019.12.10

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「主語は“YOU”ではなく“I”」——感情を原動力にする組織論【TOP LIVE】

マインドフルネスや瞑想に注目が集まり、ビジネスにおいても「内省」や「感情」の価値が認識されつつあるように感じます。そんな中「『感情』を原動力にする新時代の組織とは」をテーマに、CRAZYの代表・森山和彦と他業種の代表が組織哲学を語るTOP LIVEを開催しました。

シリーズ第11回目のゲストは、2019年10月3日に著書『ハートドリブン』を発売した、株式会社アカツキ代表取締役CEOの塩田元規氏です。感情を原動力にするために、個人でできること、組織においての実践法とは。両者の体験をもとに見えてきた、感情経営に必要な考え方をお届けします。

一見非効率にみえて「効率的」な感情経営のススメ

乾 将豪(以下、乾):今日のテーマは「感情を原動力にする組織」なので、まずは“なぜ経営に感情が大切なのか”を聞かせてください。

森山和彦(以下、森山):その問いが成立している時点で、違和感を感じてしまうよね。だって、経営は人間が行う活動のひとつ。経営に感情が必要か否かを問うことは、究極的には“人間に感情が必要か否かを問うこと”になってしまう。「会社経営においていかに感情が大切なのか」を考えられたらいいなと思います。

塩田元規(以下、塩田)氏:そうだね。今のビジネスシーンでは、感情を大切にしない前提が強い。でも、感情を扱うことって一見非効率だと思われがちだけど、本当は効率的だよね

森山:そう思う。分かりやすい例でいうと、部長がメンバーに今後の方針を共有したとき、「分かりました」とみんな言うけど、心では納得していないことってよくあるじゃん。そのまま進めずに、納得していない感情を共有して、全員が腹落ちするまで話し合えたら、結果効率的になる。納得度が高いと、メンバーは自律的に動くようになるから。

塩田氏:そう、そう。

森山:ただ、表面的な納得に甘んじず、感情を扱い続けることは、結構難しいんじゃないかな。研修合宿では本音を吐露してワイワイと盛り上がったとしても、いざ日常に戻ったら、感情を消して淡々と業務に向かうのはよく聞く話。仕事をしながら感情を扱うことは、簡単ではないよね。

塩田氏:分かる分かる。仕事をしてると、うまくいかなくて悲しくなったり、効率的に進めようとして、感情を切り捨ててしまいがち。でも、そうすると結果的に最大のパフォーマンスには繋がらない。例えば、僕が彼女に振られたとする。

振られたときは悲しんでいるのに、仕事では無理やり気持ちを切り替えて、頑張ってしまう。すると、心のなかでモヤモヤしたわだかまりが残り、結果70点くらいのパフォーマンスになってしまう。

でも、感情を切り捨てないで「悲しい」と深く味わえば、心のなかから悲しみはスゥッと消えていくもの。すると、スッキリしているから全力で仕事に向かいやすくなる。

本来悲しみ続けるのなんて至難の技で、ずっと悲しんでいる人は、実はその正体は“感情”じゃなくて“思考”なんじゃないかな。自分を悲劇のヒロインだと思い込んで、ネガティブな妄想をして、頭のなかで苦しんでしまう感じ。僕もそういう時はあるんだけど、それってこころで感情を味わえていない状態なんだよね。

森山:いつもどんなステップで感情を味わってる?

塩田氏:今日も味わったよ(笑)。アカツキのslack(※1)で、僕の取材記事が出るたびに広報メンバーが報告をしてくれるんだけど、いつもメンバーが感情を表して押してくれるスタンプのリアクションが減っていて…。「最近記事数が増えているから仕方がないな」と思いながらも、なんだか胸がザワザワしていたんだよ。

すると人間の脳は面白くて、勝手に妄想が始まる。「取材で話したことが、熱くて重い内容だったから、ウザいと思われているかもしれない」「会社を空ける時間が増えてきたから、みんな不安なのかもしれない」「会社を放り出して自分の本、『ハートドリブン』(※2)の売り子になったと思われてるかもしれない」とか(笑)。

森山:妄想って本当にあるよね…!

塩田氏:まずそこで、「妄想がスタートした」と認識しないといけない勝手に繰り広げる妄想のなかに真実はひとつもないから、考えるのは一旦ストップ! そして、「反応がなくて悲しいーーー!」っていう感情をまずは味わう。そうすれば落ち着いてくるから。それでも気になるなら、みんなに直接聞いてみて、それから解決策を考えたらいいだけ。

森山:ただ、“感情を味わうことを自分にうまく許可できない状況”もあると思わない?最近とある人に夫婦間の話をしたら「今、怒りを隠しているでしょ。その感情、出すのを許したほうがいいよ」と言われて。

自分ではそんなつもりはなかったんだけど、言ってもらえたからには“なぜ怒りの感情を止めていたんだろう”と考えてみたんだよ。すると、幼い頃から僕のなかには「誰も見ていないとしてもお天道様が見ているからツバは吐けない」という概念があったな、と気づいて。

塩田氏:あー、要するに「自分でやったことは自分に返ってくる」と思い込んでいたんだ。だから怒りの感情を表に出せなかった。思い込みによって感情にストッパーがかかることはあるよね。ただ、メタ認知できていれば、次からは意識的に違う選択を取れるようになるから良いと思う。

感情は「Why」ではなく「What」を問うことで見えてくる?

乾:次の質問です。組織内では、メンバーの感情をどうやって扱っています?

塩田氏:「分かち合い」という時間をとっていて。感じていることを、ただただ周りに共有するんだよね。大切なのは、相手に押し付けるのではなく、テーブルにそっとおろすように伝えること

よく感情を押し付けちゃう人がいるんだけど、それは「相手が悪い」という前提があると思っていて。「あなたがこう変わればいいのに!」と暗に伝えて、相手をコントロールしようとしてる。でも、関係性って双方で作るものだから、どちらが悪くてどちらは悪くないという話ではないんじゃないかな。

森山:主語が“YOU”だとダメ。主語は“I”にするべきだと思うな。特に“I feel”(私はこう感じる)と伝えると、相手は責められているとは感じないし、感情を受け取りやすい。

特に「会社が〜だから」と、主語を“会社”にしてしまう時は要注意じゃない?会社って実体がないから、「誰」と話せば解決するのかが見えなくなっちゃう。

塩田氏:ある、ある。主語がなくても日本語は成立するからこそ、「誰が」の部分は曖昧になりやすいよね。例えば、リーダーが「この企画はダメだ」と伝えるとき。「僕が」なのか「部長が」なのか主語が曖昧だと、メンバーは「会社がダメだと言った」と捉えてしまう。

もし仮に、「僕が」ダメだと言ったなら、僕と話せば糸口が見つかるかもしれないのに。主語の実体がないと、話し合って解決ができないから、モヤモヤするしかなくなってしまう。

森山:「これは僕が決めたから、意見があったら僕に言って」って言えたらいいんだけどね。それに対して、I feel(私はこう感じる)やI think(私はこう思う)と、自分にとっての真実をテーブルに出す。そう進められたら良い議論になると思うな。

塩田氏:その通り!ポイントになるのは、「相手に受け入れてほしい」と期待しないことじゃないかな。だって、受け入れるかどうかは相手次第だから。もし相手に否定されたとしても、伝えた感情は自分のなかにある真実であり、自分のなかでは正しいもの。「受け入れてもらえるか不安」という状態からスタートするのをやめると、人間関係はもっと簡単になると思うね。ちなみにCRAZYでは、どうやって感情を扱ってる?

森山:「ファクトと感情でわかり合う」っていうコアバリューを決めていて。多くの組織はファクト(事実)だけを共有しがちだと思うんだけど、感情もセットで伝えるのがカルチャーなんだよね。

そのためにまずは、怒りや悲しみを言ってもいいという“安心の場”だと皆に伝えているかな。あと、感情を引き出すときは“Why”ではなく“What”で問いかけること。「なぜそう感じるの?」よりも「何を感じてるの?」のほうが、答えやすい。思考ではなくこころでね。その上で、ファクトを追っていく感じかな。

塩田氏:“ファクトと感情のバランス”は重要だよね。僕の本*2を読んでくれた人の一部には、「“feel”(感じる)を大切にすべきで、“think”(考える)はいらないと考えている」と思わているようなんですけど、実は全くそうではなくて。

予防医学研究者の石川善樹(いしかわ・よしき)くんが、ハートドリブンの考えを最高の図にしてくれたものを書いてみるので、ちょっと見てほしいんだけど。

ハートドリブンサークル。上:internal(内部) 下:external(外部) 右:feel(感じる) 左:think(考える)

塩田氏:人生という旅は、自分の内側の大切なもの、つまりinternal(内部)の「feel」からアイデアが生まれて始まっていて。次に、そのアイディアを実現するために、どうすべきか企画するinternal(内部)の「think」に移行していく。

そして、考えたものを外に表現していくexternal(外部)の thinkに向かうんだよね。僕の場合だったら、アカツキの創業がexternal thinkの状態。最後に、表現した結果をチームみんなで受け取っていくexternal(外部)の feelにたどり着くんだよ。チームメンバーで打ち上げをしたり結果を振り返るのがここだね。

本来物事を進めるには、この循環が大切。でも多くの会社では、業務時間外のコミュニケーションが減って、仲間とともにfeel側の“感じる時間”が少なくなっていると思う。プロジェクト終了後には、「なぜ失敗したか」「どうすればよかったか」と、失敗の分析が一般的だからね。

そこで「成功や失敗を受けて、自分がどう感じるか」という“feel”に向かえると、サイクルがスムーズに一周して、描く円・影響力がどんどん大きくなるわけ。だから僕が主張する“feel”は、“think”があるからこそ成り立つものなんだよ。

森山:分かりやすい!「今自分は感じるのか考えるのか、内部なのか外部なのか、どのステップにいるんだろう」と自己認識すると動きやすいかもしれないね。僕はいつも「動的平衡」を意識しているんだけど、それと一緒の概念だと思う。愛と力や、感情と思考みたいに一見矛盾するように見えることであっても、どちらか一方を切り捨てるのではなく、一緒に進める。すると、結果的に双方のバランスが取れる良い状態になるんじゃないかな。

「みんなが左の道を歩むなら、私も左で」「ややこしくなるから自分の意見は黙っておこう」。このように、感情を飲み込んでしまう人は多いと思います。

ですが、今回二人の話を聞いて“think”だけでなく“feel”を大切にする魅力と、手法を少しだけでも知っていただけたのではないでしょうか。まずは、自分の感情を仲間に分かち合うことから始めてみるのが良いのかもしれません。

関連記事: 【前編】「感情とビジネスの両立」を考える。心を殺して仕事をするのではなく、感情をシェアして成果をあげるには(CRAZY・アカツキ)

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※1 slack:オンラインのビジネスコミュニケーションツール
※2 『ハートドリブン』:塩田氏の著書『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』。2019年10月3日に発売

 編集:水玉綾  写真:伊藤圭

Writer:柏木まなみ MANAMI KASHIWAGI

1994年生まれのフリーライター・編集者。“働く人”のウラ側にあるストーリーを伝えていきたい。人生のBGMはサザンオールスターズ。とろけるチーズは飲みものだと思って生きています。


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