2017.02.27

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本当に思っていることなんて、言えやしないよ

まだ朝日が昇る前の薄暗い時間に電車に飛び乗る。忙しそうに化粧をする女性を横目にカバンから本を取り出した。これは先輩から借りた自己啓発本。つくばエクスプレスの女性車両、香水が混じり合う匂いを感じながら「この本を書いた人は孤独なのかな……」と考えていると両国駅に着いた。

少し歩いて、見慣れたオフィスに到着し、そのことを先輩に話すと先輩も同じようなことを言っていた。

“ 人と深く交わらなかった人生が、文章にもあらわれるよね。 ”

やっぱり、
この本を書いた人は孤独なんだと思った。

CRAZYには「シェア」という文化がある。今感じていること、思っていることを素直に共有するのだ。仕事が楽しくて毎日充実している、という話をする人もいれば、彼氏と別れて辛くて本当は今すぐ帰りたいと個人的な話をする人もいる。

1年前の4月、新入社員だった当初。誰に聞いても「シェアは大事な文化」と話す先輩たちがカッコよかった。まるで宝箱を開ける瞬間のような、キラキラした目。私も1年後にはこうやって、会社の文化を自分の言葉で語れるようになってたらいいな、と思った。

私の同期は、自分も含めて14人。学生時代に起業をした人や、旅をしていた人、大学院にいっていた人、フリーランスだった人、学生団体の代表をしていた人、いろんな人がいる。共通していたのは、こんな風に生きたいという人生に対する想いと、学生時代はお腹いっぱい楽しんだ、という自負くらい。

「思っていることを、シェアしましょう」

70人のメンバーの前で、手をあげて話すのは勇気が必要だ。入社してすぐの、意気込んでいた頃の同期や私は、なんでもいいから発言をしようとする。でも緊張しているからなのか、自分をよく見せたいからなのか、どんな発言の語尾も「がんばります」とか「宜しくお願い致します」とか、つまらない言葉で落ち着いてしまう。

感じていることをありのままに表現すればいいのに
綺麗な言葉を選んでしまう。

シェアって、むずかしいなと思った。

新人研修が終わり、配属先の仕事が始まると、働くことの大変さに明け暮れた。脳のCPUがいっぱいいっぱいとは、こういう日々を言うのだろう。がんばっても、また次の日は仕事に追われる。

休みたいな……という小さな弱音。気がつけば、ちっぽけでしかない等身大の自分をさらけ出すことを恥ずかしいと思うようになった。毎朝のシェアの時間も早く終わっちゃえばいいのに。自分のことなんて、言いたくない。

「シェアは大事な文化なんです」と、自信満々に話す先輩たちをちょっと斜めから見て思った。

本当に思ってることなんて、言えやしないよ。

とある日、出産をして仕事を休んでいた先輩がオフィスに遊びに来た。お母さんにピタっとくっついている赤ちゃんは、安心した表情で私を見ている。

「思っていることを、シェアしましょう」

しばらくオフィスに来ていなかった先輩だからか、安心した表情の赤ちゃんがいたからか、私の口から出てきた言葉は、こうだった。

「今まで新しい環境でどうにかうまくやろうと、自分を作っていた気がします。もう二度と素直な自分には戻れないのかな、と思うと悲しくて」

はじめて自分のこころの内をシェアできた瞬間だった。

先輩は赤ちゃんを抱きしめながら

「ああ、よかった」

「気づいてくれて、よかった」

ともう一度繰り返して赤ちゃんを見るような優しい目で、私の気持ちをただただ受け止めてくれた。

直視したくない等身大の自分を隠そうと、思っていることを言わないで、仕方がないよと諦めて過ごす日々が苦しかったと気づかせてくれたのはシェアの文化。

誰しも、目を背けたいちっぽけな自分は存在する。
それを自覚して、誰かに話すことで、受け入れて、前に進める。人は普段からこれを、友達や家族、大切な人としているのかもしれない。

仕事場では弱みを見せることが不利に働くことがあるし、「仕事仲間だから」とビジネスライクな付き合いをするのが大半かもしれない。でもCRAZYはこうしてシェアをすることで、ひとりひとりが自己認知を高め、内省をし、主体的に動ける組織を作ってきた。

シェアは自分に対して、自分自身が最高のコーチでいられるように訓練を重ねる、組織的な仕掛け。自分へのコーチングと言えるのかもしれない。

同時に、誰かの豊かな感情に触れたとき、「こんな風に思う人もいるんだ 」という驚きと、自分の中にある「人」に対する多様性がひろがっていく。寛容性が育まれていく。

そして誰かに自分の思いを伝える練習を通して、人の心を動かす術をも身につけていけるかもしれない。

シェアのメリットは挙げだしたらキリがない。

でも何よりも痛感しているのは、日常のしょうもないこと、笑えたこと、泣けて仕方がなかった気持ちを本音で話して、分かち合える仲間がいる人生は、とっても楽しいということ。

人間らしさは、心地よいってこと。

今なら、シェアの文化がどうして大事なのか
自分の声で誰かに伝えられる気がする。


編集:高橋 陽子

水玉綾(@maya_mip)AYA MIZUTAMA

CRAZY MAGAZINE編集長。フリーの編集者・ライター。HR領域の取材記事を中心に、媒体は「未来を変えるプロジェクト」「新R25」「PR Table Community」「BizHint」「FastGrow」等。三度の飯より愛犬が好き


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