今からお話をするのは、とあるお客様と私のお話です。私は、オーダーメイドの結婚式をつくるCRAZY WEDDINGのプロデューサー・渡部恵理です。
私がお客様と出会ったのは、2018年の5月のこと。
ふたりらしさを表現した結婚式を作るべく、パーソナルな部分までお話を伺っていました。ふたりの生い立ち、惹かれた部分、結婚を決めた想い。にこやかな新婦さんの隣で、新郎さんはほとんど表情が変わらず、新婦さんが「彼は喜怒哀楽の感情があんまり無いんですよ」と微笑みながらフォローをしていたのが印象的でした。
そして最後に家族について伺ったとき、一瞬の間を置いてから、新郎さんがこう呟いたのです。
「僕には両親がいません」
幼い頃に離婚して、父に引き取られ、20歳頃までは共に暮らしていたこと。しかし、ある日出先から家に帰ると、鍵が変えられて、父は別の家族のもとへ行ってしまったこと。その後、数年間は母のもとで暮らしたものの、母が元恋人と別れたタイミングで家を出てから、思わぬ悲報が届いたこと。“ 母が別れた元恋人に殺された”こと……。
また、新婦さんも大好きなお兄さんを海外で亡くしていると話してくれました。バックパッカーだったお兄さんは、渡航してから、もう二度と会うことはできなくなってしまったと。
ふたりの話を聞いた私は、どう言葉を返せば良いのか分からなくて「伝えてくださってありがとうございます」と伝えるだけで、精一杯。これが、私とお客様の最初の出会いでした。
ウェディングプロデューサーとして、まずはふたりの人生を表現したコンセプト製作に取り掛かりました。
結婚式はハレの日なので、ハッピーな姿だけを演出するほうが、一般的。でも、ふたりの共通項である、大切な人の死をひたと隠して、ふたりらしい式になるんだろうか。そして私には、親が殺された気持ちなんて、分かりっこない。色々考えてしまい、コンセプトはいっこうに決まりませんでした。
そして、コンセプトを提案するまで、あと5日となり、焦っていた夜のことです。
突然私の叔父さんから、電話がかかってきました。
「おばあちゃんの家に行ってほしい」というお願いでした。両親と同居をしているおばあちゃん。ですが、両親が年に1度の海外旅行に出かけたので、今は家でひとりきり。そして、叔父さんが電話をかけても、電話が繋がらないというのです。
私は自転車をかっ飛ばして、急いで向かいました。時刻は23時を回ったところです。インターホンを押す指が震えます。なんとなくの勘で、分かったのです。誰も玄関を開けることはないと。
「おばあちゃん!おばあちゃん!」
裏庭にある窓をこじ開けて、思いきって家へ侵入しました。すると、ベッドでうつ伏せに倒れているおばあちゃんの姿がありました。
まさか、と思いました。でも、手のひらを見て、亡くなっていると確信しました。誰もいない部屋で、命を終えてしまったのです。
“ 一人で逝かせてごめんなさいーー。 ”
ふと、部屋を見渡すと、とある字が目に飛び込んできました。「笑顔」。それは、おばあちゃんが書道で書いていた字です。明るくて、破天荒で、家族の中心的存在だったおばあちゃん。「人に迷惑をかけないで死にたい」と言っていたけれど、本当に、一人で、ぽっくりと逝ってしまったのね。
その後、親戚が続々と集まってきました。久しぶりに会った従兄弟、急いで駆けつけた弟夫婦、みんな頼りになり、たくましく成長していました。「笑顔」の文字をみて、「おばあちゃんらしいね」と口を揃えて笑います。こんなつながりを残してくれたおばあちゃんは、なんて立派な人だったんだろう。
悲しみが、穏やかな気持ちに移り変わっていくのをうっすらと感じていました。
もしも、おばあちゃんがいなければ、私も、家族も、だれ一人としてこの世に存在はしていなかった。おばあちゃんの死は、すごく悲しいけれど、100%悲しみだけではない。すべてを受け入れて生きていく今にこそ、意味があるんだろう。
そして、おばあちゃんの死から5日後。お客様にコンセプトを提案する日がやってきました。
送ったコンセプトは「歓迎の森」
過去の経験があったからこそ、闇にも目を向ける感性が育まれ、それがクリエイティブな仕事に生きていると語ってくれた新郎さん。辛かった過去も、無駄なことだと思っていないと語ってくれた新婦さん。何よりも、お互いがいれば、幸せな家庭が築けると確信しているふたり。その事実を、結婚式に参加するみなさんとともに、心の底から祝福したい。そんな思いを込めました。
結婚式では、ふたりの歩んできた人生を朗読する「人生朗読」を提案しました。タブーとされる、家族の死も含めて、良い悪いではなく、ドラマティックに演出するのでもなく、ただただ伝えること。噛みしめること。ふたりは「やりましょう」と即答してくれました。
そして、迎えた当日。これまでの話が確かな言葉で語られていきます。会場にいた人たちはみんな、すすり泣く声とともに、静かに聞いていました。
最後に、新郎がしめくくった言葉。
「僕は家族というものにいい思い出はありません。ただ悪い状況になるプロセスを知っています。それこそが家族を守るうえで武器になるのだと思っています」
この時、新婦さんのお腹には新しい命が宿っていました。
今でも私は、よく思い出します。
式が終わった後に、汗と涙でいっぱいになった顔で、新郎さんが言ってくださった言葉。
「想像以上、想像以上ですよ、こんなに感情が溢れるなんて」
感情がない、と言っていた彼はもういませんでした。そして、彼の横には、優しい笑顔で彼を見つめる新婦さん。
ふたりと出会って、ふたりの結婚式を通して、私の方が教えられたように思います。重ねてきた人生を味わい、闇と光、全てを受け入れて生きていく今にこそ、価値があるということを。
そして、このことを、伝え続けていきたいと思います。結婚式を通して、生きている今に心が震える、人生を祝える人がひとりでも増えていくようにと願って。
■ CRAZY WEDDINGでは結婚式を考えている方向けにフェアも開催しています
フェアではお話を伺わせていただき、お二人に合った結婚式のカタチを一緒に考えてまいります。
3月23日(土) 9:30~/13:30~
https://iwai-crazy.jp/bridal-fair/detail/?fid=11
3月24日(日) 9:30~/13:30~/17:30~
https://iwai-crazy.jp/bridal-fair/detail/?fid=13
編集:水玉綾
渡部恵理 ERI WATANABE
大学卒業後は教師の道を選び、入社2年後に新規校の立ち上げチームに参画。同校を退職後、世界一周の旅に出て、国際問題について学ぶ。帰国後、創業間もないCRAZY WEDDINGで自身の結婚式を挙げたことを機に、CRAZYに転職。総数200組以上の結婚式をプロデュースした後、現在は新ブランドIWAI OMOTESANDOの立ち上げに携わっている。