2020.03.08

Article

CRAZY初の地方式場リニューアル——提案したのは「未完成な会場」だった

日本のウェディング業界を取り巻く状況は少しずつ変化してきています。結婚式をしない方の数が年々上昇し、婚礼数は減少傾向です。全国の式場はこの状況を打開する解決策を日々模索しています。

そんな中、高知県の結婚式場「SUITE VILLA SCENE’S(以下シーンズ)」も同じ課題感を感じ、2019年に会場のリニューアルを行うことにしました。CRAZYのクリエイティブディレクター林隆三さんはCRAZYで培った考え方やアイディアを元にした提案で、リニューアルを担当することになりました。

その提案内容やプロセスは、流行りに合わせた装飾を提案するだけではなく、会場が抱える本質的な課題に対してアプローチできるものでした。本記事では、その時のお話を詳しく伺っていくことで、CRAZYの考える結婚式サービスへの取り組み方をご紹介できればと思います。

林隆三 Ryuzo Hayashi
株式会社CRAZY クリエイティブディレクター / 執行役員 建築設計事務所、インテリアデザイン会社を経て、CRAZYの創業時から外部アートディレクターとして携わり、2013年より参画。CRAZY WEDDINGの空間装飾や数々のイベントの演出を手掛ける。2017年、CRAZY CELEBRATION AGENCYを立ち上げ、クリエイティブディレクターを務める。

ー大掛かりな地方会場の装飾リニューアルに入るのは初めてと伺いました。取り組むことに決めた背景を教えてください。

私たちCRAZYはCRAZY WEDDINGという業界になかったオーダーメイドのウェディングブランドを立ち上げました。当時主流だった、一定のフォーマットでは結婚式という機会の本質的な素晴らしさや、結婚まで至ったお二人の人生背景を反映させたウェディングは実現できてないと考えていたからです。嬉しいことに創業から7年で1200組を超える結婚式を作らせていただき、業界内にもその波を広げることができた実感がありました。

ただ、この7年間はブランドを確立させることを最優先し、脇目も降らず自分たちのお客様に向き合う事しかできていなかったのも事実です。これからは業界の様々な方々と共に協力できるのではないかと考え始めた時期でもあったので、力になりたいと取り組むことにしました。

−どのような提案をされたのですか?

私がこの案件を担当する中で、もっとも大事だと思ったのがシーンズで働くスタッフのみなさん自身が、シーンズを愛し誇りに思っている状態をつくることでした。

一般的なリニューアルは、顧客分析やマーケットの調査を元にして「選んでもらえる」会場を作っていくことを重要視していると思います。しかし、私はこれまでの経験から、ブランドを強くしていく上でもっとも大切なことは、働くスタッフがブランドを愛し、誇り、育てていく意思を持てることだと確信していました。

スタッフのブランドへの愛着がお客様に伝わり、サービス向上や集客の改善にも繋がっていきます。

見栄えのいい提案や、気をひくためだけの奇抜な取り組みなどは、一時的にお客様を呼ぶかもしれませんが、時代の移り変わりの中で消費されてしまいます。ビジネスにそういう側面があることは否定しませんが、時代が移り変わってもぶれることのない、“式場やサービスへの愛着”を生み出すということが必要ではないかと思います。

両国にあるCRAZYの本社オフィスは、工場だった4階建てのビルを社員自らリノベーションした。全社員でオフィスの意味や、理想の働き方を議論した経験から、愛着のある場所の持つ力を林は実感していた。

装飾のテーマは「未完成な会場」

−具体的にはどのようにプランを進めましたか?

まず、社員の皆様と共にシーンズという会場にある本来の価値をしっかりと言語化することから始めました。現場のお仕事で多忙な中、プランナーやシェフも含む社員のみなさんに集まっていただき、シーンズの「良いと思うところ」と「課題だと思うところ」を率直に話していただく機会をとりました。

−全員でそのような機会を設けることは中々ないですね。

シーンズのみなさんにとって、普段聞くことがなかった、仲間の感情や考えを知れる機会になったようです。中にはこの機会によって、営業の方とプランナーさんの認識のずれが明確になったり、お互い変に気を使っていたことが共有されたりもしました。

このプロセスで浮かび上がった会場の強みと、みなさんの想いをもとに作ったコンセプトが「Scenes of LIFE」です。お客様一人一人の感情を大切にして、お二人にとって世界に1つしかないシーンを彩る会場になるという想いを込めました。こちら側が客観的に言葉を作るだけではなく、シーンズのみなさんも一緒に作ったことで、コンセプトが深く受け入れられたように感じます。

−あえてその時間をとることで、社員のみなさんが自分ごと化するきっかけになったと。

まさにそう思います。第三者が考えた正しそうなものよりも、能動的に自分たちで作ったものだからこそ、我が子を愛でるように、良い部分を見つけようとするんじゃないかと思います。そうすることで、私たちが納品した後も、自分たちで考え、よりよいものにしていくという事後のアクションが起こりやすくなるんじゃないかと考えました。

そして、このコンセプトを元に装飾プランを提案させていただきました。
私の中でのテーマは「未完成な会場」です。

披露宴会場は2パターンの世界観を提案。そして、会場全体には全部で10の仕組みを用意した。それぞれの仕組みは、シーンズスタッフがお客様に合わせて工夫ができる余白が設計されている。

私たちが完成させた会場をそのまま売ったり使ったりしてもらうのではなく、社員のみなさん自身が、新郎新婦のことを考えた一工夫を加えることで、会場を完成させることができるようになっています。

リニューアルも装飾の提案自体も、主役である社員のみなさまが、自分たちで作っていくためのきっかけでしかありません。課題を点でみて解決するデザインや仕様を提供するだけではなく、今後そこで働くスタッフのみなさんの気持ちまで想像して、長い目で解決できるように意識しました。

−シーンズのみなさんの反応はいかがでしたか?

すごく喜んでくださいました。「自分たちでつくる」という概念を大事にしてくださっているのか、公式インスタグラムの中でも「育てる会場」という言葉で動画をあげてくださっています。さらに社員のみなさんも、独自の営業資料を作成したり、新しい装飾案を出し合ったり、自発的に行動していると聞いています。

そうやって、自分たちで考え、育てていくことで本当の愛着が作られていくのだと思います。スタッフが会場とサービスに愛着を持っていることが雰囲気から伝わることで、一生に一度の結婚式を任せたいと思う人は増えていくと信じています。

結婚式も、式場も、働くスタッフ自身がもっと愛せるものにしたい

−林さんありがとうございました。最後に、このプロジェクトを経て考えたことや、読者の方に伝えたい方ことはありますか?

今回の案件で提案した内容やプロセスは、シーンズのみなさんだからこそのものです。他の会場に同じように当てはまるものではないと思っています。ただ、その会場の価値を抽出して、言葉にし、表現する世界観を作り、そこで働く人が愛着を持って会場を育てていくように設計をする、という解決策はきっと多くの方の力になれると思います。

まさしく、私たちがCRAZY WEDDINGというブランドを作ってきた過程で学んだことはそれでした。私たちのこの経験が、大きな変化の中にあるブライダル業界のみなさんに対して役立つならばこんなに嬉しいことはありません。

それを通して、よりウェディング業界で働く人が、自社のサービスや式場を大好きだと誇りを持って仕事ができるようになったら最高だと思っています。

その前段としてまずはこの記事が、みなさまの式場、結婚式、ブランドを見つめおなすきっかけになってくれたらと願っています。力になれる部分があればお声掛けください。「もっと、こんなことやってみたいんです!」と、私たちが困るくらいの相談も心待ちにしています!(笑)

*結婚式場のプロデュースに関するお問い合わせはこちら


CRAZY CRAZY WEDDING IWAI OMOTESANDO BENE