結婚式とは、両親に感謝を伝える場であるべき。
そう思っていたさとみさんにとって、両親との関係が良好でないことは「自分が結婚式をしてもいいのだろうか」という葛藤につながっていました。
そんな時に出会ったのが、IWAI OMOTESANDO。今年1月に挙げた結婚式は、さとみさんとパートナーのともひろさんが感謝を伝えたい人たちで賑わっていました。
「結婚式をやって、本当によかった」
「ここから先の私は、何があってももう大丈夫」
初めてIWAI OMOTESANDOに来た日とは見違えるような笑顔でそう語るさとみさん。彼女は結婚式を通じてどのように自分の人生と向き合い「人生を祝う結婚式」にたどり着いたのか。
今回は、さとみさんとパートナーのともひろさんにお話を伺いました。

両親を呼ばない私に、結婚式をする資格はないのかもしれない
-まずは、おふたりが結婚式を挙げたいと思ったきっかけを教えてください。
さとみさん: ともひろくんとの結婚が決まったときに、ふと結婚式のことを考えました。
私は少し複雑な家庭環境で育って、成人式とか、大学の卒業式とか、“その日の主役になれる場面”でも、主役になったことが一度もなくて。ドレスや着物を着ることもなかったし、写真も残っていません。だから、結婚式ができるなら綺麗な衣装を着て、自分が主役になってみたいなって思ったんです。
ともひろさん:僕は「さとみちゃんの願いを叶えてあげたい」という気持ちがありました。それに、僕たちはこれまで多くの人に支えてもらってきたので、その人たちに感謝を伝えられる場にもしたかった。そういう意味でも、結婚式はすごく大事な機会になると思いました。

-一方で、さとみさんは結婚式に対する不安を抱えていた、と聞きました。
さとみさん: これまで10回以上、友人の結婚式に参列してきましたが、どの結婚式でも必ずといっていいほど、親への手紙とか感謝を伝えるシーンがあるんですよね。その度に「いつか私が結婚するときも、これをやらなくてはいけないのかな」と思っていました。
幼い頃から親との関係が良くない私にとっては、親に感謝の手紙を読むのも、そもそも親を結婚式に呼ぶこと自体もすごくハードルが高くて。だから、そんな自分が結婚式を挙げたら、まわりに気を遣わせてしまうんじゃないか、って不安だったんです。
-そんな不安を抱える中で、結婚式場探しを始めたのですね。
さとみさん: 最初は、いろんな結婚式場が集まる「結婚式フェア」に行き、そこで気になったところをいくつか見学しに行ったんです。どの結婚式場もとても素敵でしたが、バージンロードやベールダウンのセレモニーなど、親と一緒にやることを前提とした演出がたくさん提案されました。
「ここでお母さまにベールダウンしてもらいます」「このバージンロードはお父さまと一緒に歩くんです」といった説明を受けるたびに「私は本当に結婚式をしてもいいのかな」と悩んでしまいました。両親を結婚式に呼ばないと伝えて「これを機に仲直りしましょう!」と言われてしまったら…と考えると気が重くて。
ともひろさん:実際、両親と距離があることを伝えたら「それでもきっと、わかってくれるはずですよ」「子を愛さない親はいないのだから、ご両親は喜ぶと思いますよ」と励まされることもあって。もちろん善意だって分かっているんですが、さとみちゃんにとってはそれがプレッシャーになることもあったんですよね。
さとみさん:親を呼ばないという選択が、周囲にどんなふうに映るのか。「どうして来てないの?」と聞かれたり、気を遣わせてしまったりするかもしれないことが、やっぱり不安でした。
それに、ともひろくんの親族は両親も親戚も参加してくれるのに、こちらからは親さえも参加できないことが、情けなくて、辛くて。ともひろくんに恥をかかせてしまうのではないかと心配でした。
だから私も、無理に結婚式という形にこだわらなくても、お世話になった人に感謝を伝えるのは、結婚式ではなく別の方法でもいいんじゃないかと、だんだん思い始めていたんです。

「私でも結婚式をしていいんだ」と思えた場所
さとみさん:IWAI OMOTESANDOの見学に伺ったのは、そんなタイミングでした。最初は「外観や内装の雰囲気が好みだな」と思って見学予約を申し込んだんです。
でも行ってみたら、会場や演出の話より先に「ふたりはどんな結婚式を挙げたいですか?」「結婚式で“したくないな”と思うことはありますか?」と聞いてくれて。その流れで「両親を呼ぶつもりがない」「両親への手紙も読まない形がいい」と、自然に本音を伝えることができたんです。そしたら笑顔で「全然大丈夫ですよ」と言ってくれて。その言葉に、本当にホッとしました。「私でも結婚式をしていいんだ」って、やっと思えた瞬間でした。

さとみさん:今だからこそお話するんですが、最初は、私たちの結婚式を担当してくれたプロデューサーの美里さんにお会いするのが怖かったんです(笑)。事前にプロフィールやSNSを拝見したのですが、どの写真も笑顔が素敵で眩しくて。「こんなキラキラした人に私の人生を話したら、引かれるんじゃないか」と思ったんです。
でも、実際にお会いして、そんなイメージも変わりました。最初の打ち合わせで、自分の人生を振り返る機会があったのですが「結婚式に相応しい明るい話だけの方がいいかな」と私は思っていたんです。それを美里さんにお伝えすると「おふたりの人生すべてをお祝いしたいと思っています。もしよかったら、全部教えてほしいです」と言ってくれて。美里さん自身の過去についても話してくれて、キラキラした部分だけでなく「美里さんもいろいろな経験を乗り越えてきたんだ」と思えて、少しずつ心を開くことができました。

これまで言えなかった本音を吐き出した準備期間
–結婚式の準備期間は、さとみさんにとってどんな時間だったのでしょうか?
さとみさん:結婚式の準備って、ドレス選びとか演出を考えるとか、そういう“華やかな作業”だと思っていたんです。でも、IWAI OMOTESANDOではそういったことはメインではなくて。「今までの自分の人生と、これからの未来についてちゃんと向き合う時間」でした。
–IWAI OMOTESANDOでは、結婚式の準備の中で「自分の人生を振り返るワーク」がありますよね。
さとみさん:年表を作って自分の人生を振り返る時間が、本当に大きな転機になりました。最初は正直「美里さんと気まずくなるのも嫌だし、当たり障りなく『昔から親とあんまり仲良くなくて』くらいに言えばいいかな」と考えていました。
でも、美里さんが先にご自身のことをオープンに話してくれたから、私も「ちゃんと向き合ってみよう」と思えたんです。気づけば、5枚以上の紙に自分の過去を書き出していました。それまで見ないふりをしてきたこととも、ちゃんと向き合って。
母との関係や、愛されなかったという感覚、ずっと抱えていたわだかまり。気づけば私、たくさんの“憎しみ”の言葉を口にしていたと思います。そんな私の話を全て聞いた後、美里さんがこう言ってくれました。
「お母さんを憎いって思うのは、きっと本当は、愛されたかったからですよね。お母さんに愛されたかったっていう気持ちを、自分で認めてあげてほしい」
その言葉を聞いた瞬間、涙が止まらなくなって。 それまで、そんなふうに自分の気持ちを言葉にしたことも、認めたこともなかったから。本当の意味で、自分の気持ちに気づいた瞬間でした。
さとみさん: そこからはもう、感情を整理するというより「とにかく吐き出す」ような時間でした。 親に会って話すとか、何か解決するための行動を起こしたわけではなくて、ただずっと心の奥に押し込めていた本音を、ありのまま出していく。
母に愛されたかったこと。愛されなかったと感じていたこと。ずっと寂しかったこと。でも同時に、ともひろくんをはじめ、私を想ってくれていた人もいたこと。
全部を隠さずに出したら、自分の中でいろんなことが肯定されていったんです。「ここまでよく頑張ってきたな」って、少しずつ思えるようになっていきました。

-長年蓋をしていた想いに目を向けるのは、辛くはなかったですか?
さとみさん:そうですね。「私は両親にずっと愛されたかったし、今でも愛されたいと思っている」という気持ちに気づいたときは、正直苦しかったです。それからしばらくは、親の夢をよく見てうなされていました。
ただ、悪いことばかりでもありませんでした。 「愛されたかった」っていう気持ちを認めたことをきっかけに、少しずつ他の感情も素直に表現できるようになったんです。
ともひろさん: さとみちゃんは、もともと自分のことを話すのがすごく苦手で。僕が「何を考えているのか教えてほしい」と言っても、黙ってしまうなんてことがよくありました。最初は「我慢しているのかな?」と思っていましたが、さとみちゃん自身も自分の気持ちがわからないのだと後々気がつきました。
それでも「本当はどうしたいの?」と根気強く聴き続けたことで、少しずつ話してくれるようにはなっていたのですが…。それでも、まだ遠慮している様子は見えていて。
さとみさん: 私は育った環境の影響もあり、ずっと「他人とは分かり合えなくて当たり前だ」「言いたいことを言うのは、相手をコントロールしたいからだ」という価値観を持っていたんです。だから、ともひろくんから「何か不満はある?」と聞かれても「正直に自分の気持ちを話すと、ともひろくんをコントロールすることになっちゃうんじゃないか」と思って、なかなか言えなかった。そもそも、他人に思っていることを言うという選択肢もなかったから「どう思ってる?」と聞かれても、自分でも答えがわかりませんでした。
でも、ともひろくんや美里さんが「言っていいよ」「聞きたいよ」って言い続けてくれたことで「本音を伝えるって、相手をコントロールしようとすることじゃなくて、関係をつくるために必要なことなんだ」と少しずつ理解できるようになっていきました。
ともひろさん:結婚式の打ち合わせが始まったくらいのタイミングから、さとみちゃんの様子も変わってきたんですよね。少しずつですが、自分の気持ちを伝えてくれる機会が増えていって。今では、僕が気づく前に自分の思っていることを言ってくれるようになりました(笑)。

自分を縛っていたのは自分だった。これからは、私が私を幸せにする。
-自分の人生と向き合ったことで、人生の見え方は変わりましたか?
さとみさん: 最初は「私の暗いだけの人生なんて、お祝いするようなものじゃない」と思っていましたが、少しずつ自分のことを認められるようになって。「私の人生だって、祝福していいんだ」と思えるようになっていきました。
IWAI OMOTESANDOでは、1回目の打ち合わせで自分の人生を振り返り、2回目の打ち合わせでそれを元にした「ライフストーリー」をプロデューサーが作成してくれます。美里さんが作ってくれた私のライフストーリーを見た時、本当に心が揺さぶられて。
人生の振り返りでは、それまで誰にも言えなかったことをたくさん吐き出しました。光よりも影が多かった人生を、あえて隠さずに見つめました。
でも、だからこそ、光の美しさがわかる。 これまでのすべてをふまえて「私はこれから、幸せに生きていきたい」と思っている。
そんなメッセージが込められたライフストーリーを、ともひろくんと美里さんと3人で泣きながら見たと「私を縛っていたのは、私自身だったのかもしれない」と言う言葉が、ポロっと自分からでてきたんです。
美里さんの視点で私の過去をストーリーにしてくれたことで、客観的に自分の人生を見ることができて。そこで初めて、頑張ってきた自分を愛おしく思う気持ちが湧いてきたんです。「私は幸せじゃない」と思ってきたけど「幸せになっちゃいけない」って自分を縛っていたのは私だったんだなって。これからは、私が私を幸せにしてあげたいって。

-短い期間の中で、とても大きな変化があったのですね。
さとみさん:とはいえ、ライフストーリーの上映はかなり悩みました。ライフストーリーには、親との関係など重いエピソードも多くて。「結婚式なのに、こんなに暗い内容で大丈夫かな」「ゲストをしんどい気持ちにさせてしまわないかな」と、何度も自問しました。美里さんは、ライフストーリーの内容をもっとマイルドな表現で調整することもできると言ってくれました。でも「本当にそれでいいんだっけ」という気もして。
たしかに辛くて暗いエピソードが多いけど、それを乗り越えてきた力強さも含めて、これが私の人生だから。過去の出来事も、自分の気持ちも「これからは幸せに生きていきたい」というメッセージも、結局そのまま使うことにしました。
ともひろさん: 僕も、ありのままを伝える方が大切なことが伝わると思いました。さとみちゃんの過去をぼかしちゃうと、誰にも言えなくて辛かった時期の彼女を、封印することになってしまう。それだと、過去のさとみちゃんが報われない気がしたんです。美里さんが最初に言っていたように、結婚式をするなら、過去も今もこれからも、全ての人生を祝福する場にしたい。それなら、ライフストーリーをそのまま流したほうがいい、と思いました。
-結婚式当日は、どのような時間になりましたか?
さとみさん: 当日は本当に楽しくて、あっという間に1日が終わってしまいました。印象に残っているのは、やっぱりライフストーリーを上映したときの反応です。
友人たちの中には、涙ぐんでくれた人もいて。「いつも笑顔だから、そんなに辛い思いをしていたなんて気づかなかった」「苦しい中でも人に優しさを分け与えられるさとみは強い」と伝えてくれた友人もいました。その上で「だからこそ今のさとみがあるんだね」「今こうして幸せそうな姿を近くで見られて嬉しい」と、前向きな言葉もたくさんもらえました。
大切な人たちに、私の過去も、今も、全部を肯定してもらえたことが、本当に嬉しかったです。
ともひろさん:僕も、ゲストの皆さんからたくさんの温かい言葉をもらって。結婚式って、ただ祝福されるだけじゃなくて、過去も含めて“まるごとの自分”で人とつながれる機会なんだと感じました。

“自分を愛して、自由に生きていこう”
-ありがとうございます。最後に、結婚式を終えた今のおふたりの想いを聞かせてください。
ともひろさん:結婚式は、僕たちにとって“人生の節目”であり、“人生を動かすきっかけ”でもあったと思っています。さとみちゃんが、今まで蓋をしてきた感情に少しずつ向き合い始めたことで、僕たちふたりの関係も確実に変わり始めてるのを感じていて。いろいろあったけど、結婚式をするという選択をして本当によかったなと思います。
さとみさん:私も、本当にやってよかったなと思っています。
ライフストーリーの最後には「絶望を希望に変えてきた私は無敵。未来もきっと大丈夫。自分を愛して、自由に生きていこう。」っていう一文が添えられていて。それが、結婚式の日に一番心に響いた言葉でした。もしかしたら、私がどこかで言った言葉だったのかもしれないけれど、あまり覚えていなくて。ずっとそばで伴走してくれた美里さんが、私に贈ってくれた言葉のようにも感じてるんです。
たくさんの人が、私の人生をまるごと受け入れて、応援してくれている。私を愛してくれる人は、こんなにいたんだと、結婚式を通じて心から実感できました。そして何より、私自身が自分を肯定し、愛おしく思うことができています。
これからの人生は、自分の手綱は自分で握っていきたい。 「幸せになっていい」って、自分に言ってあげたい。 そして、誰かが私と関わることで、少しでも幸せになってくれたら嬉しいです。それが、私をこれまで生かしてくれた、みんなの愛への恩返しだと思うから。

編集後記
自分の人生に、まっすぐ向き合うということ。ときにそれは、怖くて、しんどくて、逃げ出したくなるような作業かもしれません。でも、見ないふりをしていた感情に触れたとき、初めて見える景色があります。
さとみさんの話を聞きながら、私自身も「自分の人生を肯定するって、こんなにも力強いことなんだ」と教えてもらいました。
そしてそれは、“特別な人”ではなく、“勇気をだした人”が体験できることなのだと感じました。
これから結婚式や人生の節目を迎える方にとって、この記事が自身の本音に耳を傾けるきっかけや、そっと背中を押す存在になれたら、この上なく幸いです。
夜久
企画・編集:夜久早紀
執筆:仲奈々
撮影(一部):kuppography
デザイン:林隆三