2019.05.21

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身体的健康だけでなく「精神的健康」を。ただの“ 社食 ”ではない、有機的なコミュニケーションを育む場。

「健康」が、個人の生産性に与える影響はすでに広く知られています。健康維持への努力は、高パフォーマンスを発揮するビジネスパーソンには必須の素養。しかしながら、企業が制度に反映する“ 健康 ”の側面は、身体的健康だけに限定的な場合も多くあります。

そんな身体面における健康だけでなく、“ 精神面 ”においても重視しているのは、株式会社CRAZYのダイニングチーム。経営の優先順位の1位に健康を置き、そのために毎日の食事やコミュニケーションを工夫しています。社員の健康を願う、チームリーダー・木村佐和子が語った、単なる社食ではないダイニングチームの役割とはーー。

自分で健康になれる人を作る仕組み

ーダイニングチームの機能について教えてください。

ダイニングチームは、オフィスにあるキッチンで、毎日社員の食事やおやつを作っています。福利厚生の、いわゆる社食ですね。使う食材は全て、ダイニングチームが足を運んで、見て触った信頼のおけるものだけを選んで、提供しています。

ただ食事をとるだけでなく、“ 自分自身で健康になれる人を増やすこと ”が目標なんですよ。そのために、精神的な健康を支える“ 有機的なコミュニケーションを生む場 ”を意識しています。

CRAZY ダイニングチーム リーダー 木村 佐和子  学生時代にチアダンスと出会い、踊ることの楽しみを知る。2010年と2012年には、世界大会にも出場。新卒で入社した会社で3年間営業を務める。その後、CRAZY KITCHENにて業務を積んだのち、2017年4月からCRAZYの社食・ダイニングチームへ異動。

ー有機的なコミュニケーション?

一般的な社食のイメージは、順番に列を作って、ご飯をトレイに載せて行く社員の姿が浮かぶと思います。ですが、CRAZYでは少し違うんです。お皿に盛り付ける作業、配る作業を、社員全員で行います。

まるで家族のように一斉に「いただきます」をして、同じ空間で食べるんですよ。ランチタイムに、先輩や同僚に悩み相談することもよくあると聞きます。つまり、ランチは社員同士の大事な交流の場でもあるんです。

代表の森山は常々「健全な心は健全な身体に宿る」と言っていて。心と身体は密接に繋がっていて、身体が健康であっても心が元気でないと動けないもの。ランチを通して社員同士の繋がりを深め、心理的に安全な空間作りを意識していますね。

また、ダイニングチーム自体、ただ食事を作るだけでなく、何か心に引っかかることや悩みなどあれば、ぽろっと打ち明けられる場所でありたいと思っています。学校の保健室に近い感じですね。

だからこそ、“ただ食事を作る人達”であってはいけないと思うんですよ。その象徴ともいえますが、ダイニングチームの採用において、調理経験の有無は重要視していません。調理経験だけでなく、繊細なコミュニケーションを取れることや、心の中に愛や感謝があることが大切ですから。

ー精神的な側面が強いんですね。

そうですね。また“ 健康的な素材に関心を持つ場”としての役割もあります。1つ1つの素材の生産者や、調味料にはこだわっていて、そのことを社員に都度伝えているんですよ。調理やレシピを教えることもあります。

すると、日々の食事においても、素材に気を使うようになるんです。その先に、一番叶えたい“ 自分自身で健康になれる人を増やす  ”ことに繋がるんじゃないかな、と思っています。

特に身体の不調を訴えている社員によく話しているのは、「調子が良いときには何を食べているか、悪いときには何を食べすぎているか、自分の身体に聞いてごらん」ということ。

食べるものに自分の身体がどう反応するのか、ちゃんと感じることは大切です。それが自分から健康になるための第一歩。自分が食べたものに含まれているものや、それによる身体の反応に意識が向くよう、伝えていますね。

ーダイニングチームの働きかけを通して、社員にはどのような変化があらわれましたか。

とある中途社員は、味覚の変化があったみたいで。広告系の会社に勤めていた彼女は、前職時代の食事といえば、もっぱらコンビニ弁当。当時は何の抵抗もなく、濃い味付けが美味しいと感じて食べていたそうです。作る手間もかかりませんし。

でもCRAZYに転職をし、食事への意識が変わって自炊を始めたそうで「久々にコンビニのご飯を食べたら、しょっぱく感じた」と言っていましたね。昔大好きだったメニューがもう食べられなくなった、と。

他にも、入社後に食生活を気にかけるようになったことで、体重が3キロ〜10キロほど減った話や、風邪を引きやすい体質だった方は入社後は一度も風邪をひかなくなったなんて話も。家族に提供するご飯に使う、調味料やドレッシングの全てを無添加に変えた社員もいました。そうした実感や変化があることは嬉しいですね。

「このままでは夢を叶える前に身体を壊してしまう」CRAZYダイニング誕生の裏側

ーダイニングチームが始まったきっかけを教えてください。

ある創業メンバーの奥さんの” 手作りのお弁当 ”がきっかけなんですよ。それを見た他のメンバーが「いいなぁ、食べたい」と羨ましがって。彼が帰宅後、そのことを奥様に伝えると「じゃあ、みんなの分を作るよ」って(笑)。そこから社食制度が始まり、社員の食事は全部手作りになりましたね。

実は、その奥様は、創業当時の働き方をそばで見ていて「この働き方を続けていたら、いつか倒れてしまうんじゃないか」と不安を感じていたそうなんです。彼女自身、自分にできることを考えた結果が、“愛情のこもったご飯を作ること”だったそう。その思想は創業7年目を迎えた今でも変わらず続いています。

ダイニングチームのメンバーと撮影した写真

ー忙しく働く中で、無茶を続ければ身体を壊してしまいますもんね。

そう、そう。身体さえ動けば、無茶できてしまう。ほとんどの人は、自分の仕事を通して、“ 誰かを幸せにしたい・社会を良くしたい ”という想いがあると思うんです。でも、我慢を強いていては、想いを叶える前に、身体を壊してしまいます。

そんなビジネスマンの方々に、まずは健康な身体を自ら作り、維持することが先なのだと、伝えていきたい。忙しさの中で、身体に鞭打って仕事をしてしまう気持ちも分からなくはないんですけれどね。

生産地をめぐる中で感じた「命のバトン」

ー木村さんは、社員に提供している、食事の生産者をめぐる旅を始めたんですよね。

そうなんです。代表の森山がよく言うことなのですが「消費は投資だ」と考えていて。モノを買うことで企業にお金が入り、そのお金を元に企業はまた生産活動ができる。自分の消費が、誰かへの投資に繋がっているんです。だからこそ、どこで購入すべきか考えることはとても大切なこと。

ダイニングチームは福利厚生として存在しているからこそ、皆の売上から得た資金を使わせて頂いているわけですよね。私として、CRAZYとして、投資先の生産者さんに責任を持ちたいと思ったんです。

また、私たちは他の生き物の命をもらって生きています。そうした生き物の命を繋いでくれている生産地に足を運び、改めてダイニングチームがある意味や価値を考え直したいなって。

ー実際に足を運んで、どんなことを感じましたか。

印象的だったのは、富山の里山で農業をされている、有限会社「土遊野(どゆうの)」代表の、河上めぐみさん。そこは彼女とそのご両親の2件しか家がない、いわば限界集落なんです。彼女は“ 里山の大切さや、人も動植物と共に生きて、命を循環させていることを伝えていきたい ”との思いで、その地で農業を続けていています。

彼女が守り続けている、里山の財産の1つが棚田。棚田は先人たちの知恵が詰まった水田形態ですが、最近では農業人口の高齢化によって手放されてしまうケースも多いんです。

すると、その土地は『耕作放棄地』として国に購入され、産業廃棄物の置き場など様々な用途で利用されるようになり、そこでまた農業が行われることは無くなってしまう。河上さんは、それが心苦しいからと、農業をリタイアされる高齢の方々から、棚田を受け継いで生産を続けていると教えてくれましたね。ダイニングチームはそんな彼女から、棚田で育てた有機米や、平飼いで育てた有精卵などを頂いています。

ー想いを聞くと、安心しますね。

そうですね。また、生産者さんと話したことで、“ 命の始まり ”や“ 繋がり ”をより意識するようになりましたね。普段都会にいて、コンクリートの街並みの中にいると忘れてしまうけど、私たちは豊かな自然や動物たちと共生しながら生きています。土があって、その上に元気に育っている植物があって、その木々にはとても豊かな実りがある。海に出れば、たくさんの種類の魚たちが泳いでいる。

ついピラミッド型の生態系をみて、人間はその頂点にいるように考えてしまいがちですが、大地や海から始まる命の流れの中に私たちがいるんです。そうした“命の始まり”や“ 繋がり ”をより意識するようになりました。

私たちダイニングチームは、植物や動物を育て卸してくれる生産者の方から、命をもらい、より美味しく食べることができるように調理して、社員に届けています。だから、命のバトンを繋ぐ人なんだ、と。そのことを忘れたくないし、ちゃんと伝えていきたいなと思います。

運動、睡眠、人間関係まで支援するチームへ

ー今後の展望、目標を伺わせてください。

当面の目標としては、ダイニングチームとして、社員個人の健康を作るきっかけや意識付けをより深めていくこと。そのために手作りのお惣菜を持ち帰りできる取り組みを今検討中です。

例えば「夜は適当にカップラーメン食べればいいや」と思っている人がいるとします。CRAZYダイニングのおかずが一品あれば、ご飯とお味噌汁だけ自分で用意しようと考えられるかもしれません。

その先は、「健康」という概念をさらに広く捉えて、運動と睡眠、心理的安全性を確保するための人間関係まで、全面的に支援できるチームになれたらと思っています。

ただ、ダイニングチームの大事にしている根幹は、思いというか“ 祈り ”なんです。社員が叶えようとしている理想に、私たちは強く共感しているからこそ、その過程で失ってしまいがちな「健康」を、放っておけない。社員みんなの身体の中に入って悪いところを治すことも、手を当てて治癒させることもできないけど、料理に「どうかこれを食べたことで元気になってほしい」と“ 祈り ”を込めることはできるから。

ビジネスとしての生産性はもちろん大事だとは思うんです。ですが、素直に「美味しい」と感じる瞬間や、その気持ちを共有できる仲間がいる豊かさあるランチを、今後も届け続けたいな、と思います。

編集:水玉綾  画像:伊藤圭

萩原 愛梨 AIRI HAGIWARA

ビューティーテックカンパニーSpartyでChief Customer Officerを務める。ITフリーランスの支援事業を行うgeechsでの広報・メディア運営の経験から、フリーライターとしても活動中。複業ワーカーの可能性を自ら体現すべく奮闘する日々。著書に『女子的「エモい」論 ~おじさんに伝えたい私たちの本音~』(「幻冬舎plus+」)


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