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INTERVIEW

理性を吹き飛ばす「学び」が、仕事を、人生を、加速させる。【 森山和彦×松田悠介対談 】

「人生100年時代」を踏まえ、経済産業省も社会人基礎力を見直しすべく、社会人の学びに注目している。生涯にわたって教育と就労を交互に行うことを勧める教育方法「リカレント教育」は最近のホットワードだ。世界の経営者はよく学ぶ、という話も聞く。

株式会社CRAZY CHO(最高人財責任者)の松田悠介は、現在スタンフォード大学経営大学院で学びながらCRAZYの経営に参画している。また代表取締役社長の森山和彦は、「奇跡の経営」で知られるブラジルのセムコ社とのダイレクトなノウハウ共有など、常に外部の知を取り入れ続けている。その二人が、仕事をしながら学ぶ上で社会人に必要なことを話し合った。

「学び」と「働く」の境目

松田:今日のテーマは「社会人の学び」ですが、「働く」と「学ぶ」の境目は最近薄くなってきましたね。リンダ・グラットンの『LIFE SHIFT』が数年前に流行り、100年を生きる上で「25歳くらいまで教育を受け、60歳くらいまで仕事をして、そのあとは引退」というこれまでのモデルは崩れてきています。

個々人の状況に応じて「働く」「学ぶ」を行き来することが必要になっていますよね。

森山:「学び」と「働く」のミックスのような状況ですね。

松田:工業化社会とは違って今は「正解」というものがない世の中です。働くとか生産するという概念そのものが相当複雑で、難易度が高くなっているのですよね。そういった社会で働くためには、学び続けることが重要です。

森山:そうですね。CRAZYでも松田さんがスタンフォードで学んでおり、今度は別の社員が国連平和大学で学ぶことになっています。経営者として、学びながら働く環境を作るのは大事だと感じますね。

松田:森山さん自身も経営者の集まりや、研修プログラムに参加していますよね。シリコンバレーでは、非常に多くの経営者が自分の「学び」をしっかりと考えていると感じます。

月に10冊、20冊と本を読む経営者はザラだし、シンギュラリティ大学という経営者向けのプログラムに何百万と投資して学んだり、スタンフォードビジネススクールの短期集中型エグゼクティブプログラムに何百人もの経営者が参加したりしています。

GoogleやFacebookも社内の学習環境が充実していると言われていますよね。

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新しい価値観を知り、脳を開発すること

森山:社会人の学びとはなんでしょうか。例えば研修やインターン、MBA留学などでしょうか。ひとつ思うのは、学びのイメージが硬直化してしまっているということです。

松田:そうですね。私はずっと子供の教育に携わってきましたが、本来教育は個性に合わせたものであるべき。学ぶタイミング、学び方、内容は人によって全く違う。しかし今は、個性を考慮しないで一つのやり方で押し通してしまっています。

おそらく仕事も同じ状況です。ダイバーシティが大事だとよく言われていますが、そもそも一人一人の個性や価値観、強みが生きる環境を職場が提供できていない。現状の社費留学や企業研修も会社都合で設定されていることが多いです。

また従来型で、アウトプットをせずに座学でインプットして「何かを得た」風になってしまうのは本質的ではありませんよね。

森山:私は、大人の学びの本質は、新しい価値観を知って脳を開発することだと考えています。カジュアルに言えば、今までの経験で凝り固まっている価値観や理性をぶっ飛ばすことだと思うんですよね。

だから私は「旅をすることも学び」だと思っていて、社会人1年目から必ず毎年海外へ旅をしていました。座学だけでなく、さまざまな種類の学びをミックスしていくことが大事だと思いますね。

松田:旅も学びですが、たとえば人生のライフイベントも「学び」の機会になりますね。結婚、転職、もしかすると離縁もそうかもしれません。

森山:そうですね。なぜライフイベントが「学び」になるかというと、棚卸し、リフレクションの時間になるからだと思います。自分ががむしゃらに走ってきたことをちゃんと立ち止まって振り返る。

そうしなければアンラーン(Unlearn:学び壊し)もできず、今までに得た価値観を新しいものに置き換えることも難しいのではないでしょうか。

森山和彦(Kazuhiko Moriyama):株式会社CRAZY 代表取締役社長
中央大学卒業後、人材コンサルティング会社へ入社。法人向けコンサルティング部門の事業責任者として、中小企業から大企業までの組織改革コンサルタントとしてトップセールスを記録する。6年半の勤務を経て2012年7月に株式会社CRAZYを創業。「style for Earth」というビジョンをもとに、独自の経営哲学から組織運営のシステムを確立している。経営の第一優先は健康。毎日3食手作りの自然食を提供したり、シーズンごとに全社員合宿を行ったり、全社員で世界一周旅行をしたり、と既存の企業経営にとらわれないユニークな経営をしている。

松田:そうですね。日々の業務に忙殺されたり、集中を妨げる要素(SNS等)が多い環境では、リフレクションはなかなかできませんよね。

私も昨年末にパタゴニアと南極に行って、電波がほとんど繋がらない環境を得たからこそ、自分のこれまでを振り返り、これからどうしたいのかを考える非常に良い時間を持てました。

森山:日常的に振り返りをしたり、週末ちょっと温泉に行ったとしても、それは本質的なリフレクションにはならないんですよね。なぜなら日常の中では、理性を捨てきることはできないからです。

理性とは、自分の価値観の「凝り固まり」。その凝り固まりをいかに吹き飛ばすか。それが「学び」において重要だと思います。

CRAZYでは3ヶ月に1度、メンバー全員の成長速度を加速するために、二泊三日で合宿を行なっていますが、そこでも非日常を体験できる大自然に触れたり、運動を組み込むなど、理性を吹き飛ばす経験を仕込んでいますね。

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CRAZYの教育の取り組み

松田:今、CRAZYで行なっているリーダー変革の研修は、個性に寄り添った学びになっていますね。これからのCRAZYを担うリーダー層に、毎月2万円、年間24万円の予算を「リーダー変革奨励金」として提供し、個々人が学びの計画を立てています。

企業側が「これが重要だろう」と思うものを提供するのではなく、自分で考え、設計し、コミットしていく形が非常におもしろいと思いますし、多様性を重視しているCRAZYならではだと感じたんですよね。

森山:プロフェッショナルコーチを依頼したり、クリエイター研修に参加したり。腹筋用のマシーンを申請している人もいましたね(笑)。

そういうものを申請するのが面白いと思ったのと同時に、自分で申請し公開されるからこそ、そこに責任が生まれるんですよね。学びの方法やタイミングは人それぞれですし、予算に加えて自己負担を出して社外の研修に参加する人もいます。

また学びが必要なタイミングは人それぞれだから、会社に必要な機能は、寛容であることと、中期的に時間軸を広げてみることだと思うんです。

たとえば、旅に出たい、何かを学びにいきたいと思っても「仕事を休んで周りに迷惑をかけるのではないか」等と思ってしまいがちですよね。中長期的に見ればみんな休むのに、なぜか罪悪感を感じてしまう。

会社の寛容性を信じて休んで良いと思うし、経営者としてはうまく社員同士が寛容になる環境をつくっていきたいですね。何年かに1回2ヶ月の旅をするよりも、1年間に半月の旅を2回くらい行ったほうが人生の楽しみが増えると思いますし。

松田悠介(Yusuke Matsuda):株式会社CRAZY CHO(最高人財責任者)
日本大学を卒業後、体育教師、千葉県市川市教育委員会・教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院教育リーダーシップ専攻へ進学し、修士号を取得。卒業後、PwC Japan にて人材戦略に従事し、2010年7月に退職。認定NPO法人Teach For Japan を創設し、日経ビジネス「今年の主役100人」、世界経済会議(ダボス会議)のGlobal Shapers Communityなどにも選出された経験を持つ。17年にTeach For Japan代表理事を退任。現在はスタンフォード経営大学院のフルタイムExecutive MBAプログラムで学びながら、CRAZYの経営にも参画している。

松田:創業2年目に全社研修で「世界一周」に行ったと聞きましたが、そのときはどんな学びがありましたか。

森山:実は企画段階から学びがあったんですよ。まず最初は、全社員20名くらいで1ヶ月休んで創業の地であるパタゴニアに行こうと思っていたんです。話題になるし採用にもつながると思って、ワクワクしながら共同経営者で妻の山川咲に相談しました。

すると「決められた旅なんかおもしろくない」と言うんです。価値観の違いを突きつけられた瞬間でしたね。

その後パタゴニアに行く費用に10万円ほどプラスすれば、世界一周旅行券が買えるとわかりました。それで一人一人が旅行プランをデザインして、約束の地・パタゴニアで出会う「世界一周」研修にしたんです。

松田:「学び」には主体性が大事だから、自分でデザインするのはいいですね。

森山:そうなんです。その後、経営陣からの了承を経て全社員に発表したら、非常におもしろいことが起こったんですよ。

CRAZYでは全社で何かを行うときに、モチベーショングラフ(図を参照)というものをよく扱います。プロジェクトに対してのモチベーションの高低を縦軸に。行動量をそれぞれ横軸におきます。そして、一枚の模造紙やホワイトボードめがけて、全社員が自分の位置にポストイットを貼っていくんです。

右上の象限に人数が多い時は、みんなが前向きで行動量が多いということ。ですが、モチベーションが低い人、つまり下側に名前を書いた人がいたんです。これを見たときにも驚きましたね。1ヶ月仕事を休んで、会社がお金を出して、世界旅行に行けるのに、つまらないと思っている人がいるんです(笑)!

松田:なぜその人はモチベーションが低かったんですか?

森山:世界一周なんて怖いとか、行きたいところなんてないから今の段階では何も楽しくないとか、いろいろな理由がありました。

でも、その気持ちを素直に共有しあい、研修の前提条件を擦り合わせることで、みんなのモチベーションは上がり楽しくなっていったんです。楽しさは理性では作れないんですよね。

自分の今までの価値観で「怖い」と思っていても、「楽しい」と感じている他の人の意見を聞いたり、イメージできる範囲が増えていくことで、楽しくなるんです。

この「楽しくなる過程」では価値観が壊されて新しい価値観が得られています。理性、つまり「今までの価値観による凝り固まり」を超える経験をしているわけですよね。

松田:確かにそうですね。また「学び」には楽しさが必要ですよね。楽しくなければ能動的に学ばないですから。受け身になってしまうと学びの効果が半減します。

それから自分の学びの方法を見つけ出していくことが大事なので、トライアンドエラーをしていけたら良いですよね。そして最終的にリフレクション。「学び」に必要なのは「主体性」「楽しさ」「トライアンドエラー」「リフレクション」ですね。

ハーバード、スタンフォードの経験から考える、上質な学びに不可欠なもの

松田:ハーバードやスタンフォードには、ぶっ飛んだ経験をしている多国籍な人が集まっています。ダイバーシティは単に国籍の話だけではなく、私的な経験や性格も含むと思いますが、そういった多様な人々が一つの環境で強制的に共存しているんですよね。

またトップの教育機関では、その多様な価値観をシェアします。例えばハーバードにリーダーシップを学びに行くと、最初の授業で「リーダーシップとは何ですか」と聞かれたんです。

リーダーシップ論は本もたくさんあるし、ある程度セオリーが決まっているもののはず。日本で聞くとだいたい「人をひっぱる」とか「人を鼓舞する」などといったポジティブな答えが返ってきます。

ところがハーバードでは多種多様な回答が出ていました。例えばドイツ人はヒトラーの印象から、リーダーシップに対して慎重論を持っていたり、抵抗感を持っている人がいたのです。

リーダーシップという一つの言葉をとったとしても、国籍、バックグランド、経験から感じることに違いがあり、その違いを共有しあうからこそ教科書には書いていない本質的な学びを得られるのです。

トップの教育機関にある上質な学びは「旅」で得られるものに似ていると思いましたね。先ほどの「世界一周」研修も、企画を実現させるプロセスで、社員全員が自分の考えを恐れずに共有している。

そこが価値観を変容させる上で必要だと思うんですよね。CRAZYの研修は、ハーバードやスタンフォードに通っていて感じる「上質な学び」に通ずるものがあると思いますね。

森山:人の価値観を知る、受け止めるというプロセスには摩擦があり、そこに「学び」がありますよね。共通体験の中でムカついたり、譲歩をしたりしながら、自分が受け入れられる範囲を広げていくのです。

一人一人の個性、価値観、強みを組織に生かし、その多様性によって社員は相互に価値観を拡張させていく。会社がそういった機能をもてば、会社そのものが「人生における学びの報酬が溢れる場」になると感じています。

学ぶ上で効果的なタイミングとは

森山:「二週間程度の旅に出る」というのは、定期的にできる学びだと思いますが、人生のフェーズによっては、松田さんが今スタンフォードで学んでいるように「大きな学び」をするタイミングがあると思います。松田さんはどう思いますか?

松田:そうですね。学びというものは人それぞれで、個々に適切な方法やタイミングがありますが、私の場合は自分が一人で突破できない壁に突き当たったことがきっかけになりました。

認定NPO法人Teach For Japanを経営していた時、メンターやプロフェッショナルコーチをつけても同じ過ちを繰り返していました。

それが自分の生い立ちや根深い価値観に紐づいていると分かったときに、一度責任を肩からおろして、リフレクションを目的に学びに行かなくてはと思ったんです。森山さんはどんなタイミングがおすすめですか。

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森山:「このままでいいんだろうか」というシンプルな問いが生まれるタイミングですね。とくに20代後半は、そういった問いが生まれがちではないでしょうか。

会社に入社したときは働く目的を持っていたとしても、日々がむしゃらに走っていると不安が生まれるんです。そういうときこそ、学べばいい。

たとえば旅なら、感性が豊かな若いうちの方が感動できる幅が大きいですしね。新しい何かを見ればもっと見たくなります。その経験が自分をドライブしていき、次の「働く」と「学ぶ」につながっていくと思います。

松田:確かに、学ぶ力というのは筋力みたいなものですから、相当努力しない限りデフォルトで衰えていきますしね。自分の価値観を変える、圧倒的な経験をするというのは20代で行うのがいいかもしれない。

学びの貯蔵量というのは決まっているはずだから、今までずっと詰め込んできたのであれば、それを一度棚卸ししないと新しいものは入りませんしね。

森山:究極的には、今までの凝り固まった価値観を手放すということが一番大事なのでしょう。アンラーンですね。

松田:そうですね。研修ではアンラーンはできないですからね。アンラーンの旅をCRAZYでプロデュースできたらおもしろいかもしれませんね。

森山:ゆくゆくはそういったことも考えてもいいかもしれませんね。

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※CRAZYは一緒に働く仲間を求めています

編集:水田 真綾(@maya_mip
写真:鈴木 秀康(@hidegraph

FELIX 清香
Sayaka Felix

greenz.jp、Pouch、「ソトコト」等のWEBマガジン、雑誌での執筆や書籍構成、オウンドメディアの立ち上げ等を行なっている。国際交流やエシカル、児童文学、体感型アートに興味あり。プライベートでは、Give & Takeではなく、Give & Giveで経済が回るかどうかをさまざまな取り組みで実験する「ギフト経済ラボ」のメンバーとして、カルマキッチンというカフェイベント等の運営に参加している。

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