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COLUMN

彼らには「大卒」という切符だけがない。~NEXTSTAGETOKYO✖︎CRAZY~

息を切らしてたどり着いた駅の改札口。SUICAをタッチしたら残高不足の表示。急いでチャージをし、ホームに駆け上がったところで、目の前のドアはしまった。

今日は遅刻か。

過ぎ去る電車を横目に、自分がどうしようもなくだめに思えてくる。人生にはこういう局面がたくさんある。電車の切符を買えなければ、たどり着けない場所がある。タクシーを使える人なんてほんの一握りだけ。

「大卒・院卒」しか切符と認められてない現代。

個性や才能を尊重しようという傾向になったのもつかの間。日本は、学歴社会から抜け出せそうにない。高卒就活をした人たちは「社会に出るまで、この学歴がこんなに不利になることを知らなかった」と言う。

ーーー250万人。これは日本にいる中卒や高卒の若者たちの数。

Webの応募では高卒の欄がないために、エントリーさえできない。行きたい企業説明会に行けない。彼らの将来の選択肢は、極端に狭められているのだ。

2017年5月。中卒や高卒の若者たちが、チャンスを得やすい社会にしたい」そんな想いでバズキャリアという就活支援サービスが始まった。今回は、彼らが主催する夏のイベント*1に、CRAZYが参画した時のことを、新卒2年目の目線からお伝えしたいと思う。

イベントは、東京都内の会社に触れて、中卒・高卒者の就職進路を広げるというもの。応募は日本全国から相次ぎ、述べ14,000名にも及んだ。選ばれたのは、たった300名。そのうち約40名がCRAZYのオフィスに見学に来てくれた。

・住んでいる地域では働き先が本当に限られている
・町役場、近所の神社、聞いたことのない小企業だけしか選択肢がない
・これからの時代を一緒に動かしていく仲間を創りたい

彼らがイベントに参加する動機はさまざまだ。

CRAZYとして、今伝えられることは何があるだろうか。悩んだ挙句「働くとは?」というシンプルな問いを中心に、会話を広げていくことになった。

行動すること、誰かの役に立つこと、お金を稼ぐこと、生きることそのもの……。問いがシンプルだからこそ、出てくる答えは千差万別。参加者達の繰り広げる会話の背景には、異常なほどの熱があった。

 

「これまで私は中退をし、浪人をし、退学をしている。いじめにも遭い、後悔ばかりだった。死のうとも思った。でもこの経験は、失敗じゃないと思うんです。学歴だけで見ない人たちと出会ってそう思えたんです。何か1つでも行動を起こしていったら、変わることがきっとある。だから私は、行動することを大事にしたい。何度も後悔してきたから、同じ状況にある人に伝えたいんです

参加者の一人の女性が発した言葉は、
とても力強かった。

 

心がザワついた瞬間だった。

 

「社会人」は、囚われだ。

この心のザワつきは一体なんだろうか。キャリアの先輩として、仕事内容や「働くとは」を語るのは簡単なこと。CRAZYの提供しているサービスはこうで、こんな働き方をしています、と。セオリー通りの、いつもの自分たちのまとめ方で。

けれど、自分の過去や弱さをさらけだし、真正面から向かってくる彼らを前に、かっこよく語ることはどうしても無意味なんじゃないか。ザワついた心を誤魔化すことは、できないと思った。

学歴とか、社会人とかに囚われて、その枠の中で話をしていたのは私たちの方。

提供しているサービスや、働き方や、経営理念。そんなうまくまとまった話をするんじゃなくて、一人の人間として今大切にしていることから伝えよう。
働くことは、生きることなのだから。

 

イベントの最後の最後。

プログラムの進行を大きく変える決断をした。

 

 

 

新卒2年目の同期であり、司会を務めたCRAZY社員は、震えながらマイクを握った。

「僕は正直、家族のことやお金のことで、困ったことはない。大学にも進学してる。でも、一人の人間としてフラットに話せることがあるんじゃないかと思うんです」

これまでの口調とは明らかに違う司会の言葉に、一瞬会場は凍りつく。

どんな環境、状況、人であろうと、これを大切にして生きたいという、本音があると思う。普段はさらけ出しにくいかもしれない。バカにされるかもしれない。でも、少なくともここに来ている人たちはそうじゃないと信じて話したい。僕は人らしく感情豊かに生きたい。そんな生き方ができると思ったから、入社した。良い悪いとか、こんな意見が正解っていうのはないから、それぞれが自分にとって、まずは大切にしたい生き方を大事にしてほしい。それはどんな環境に就職しようと同じだと思うんだ」

 

時折涙ぐみながら話す司会者の姿に、先ほどまで張り詰めていた会場の雰囲気は、穏やかに変わっていった。

 

彼らのまっすぐな視線に後押しされて、「社会人」として身につけていた服を脱ぎ去った瞬間だった。

 

学歴社会に対して私たちが出来る小さくて本質的なこと

彼らと向き合う中で気づいたことは、自分を表し、守ってくれる服を、私たちこそが着ていたこと。
それは「学歴」じゃないとしても、同じこと。

人事として。
ライターとして。
カメラマンとして。
社会人として。

それを時に矛にして、
時には自分を守る盾にしていた。

でも彼らは、違っていた。体験した苦しさを糧にして、生身の自分で勝負をしにきてくれた。

そして、その強さは、伝染した。

まだまだ学歴社会と言われる日本。

「学歴」という服で判断されてしまう現状は、すぐに解決できる問題ではないだろう。でも、一人でも服を脱いで、人間として真正面から向き合い関わるのなら、それは必ず近くの人に伝染していく。今回が、そうであったように。

そして、生身で対話をするからこそ、伝わる本気や覚悟が、人の心を動かしていく。こういう風に「在り方」で人を動かす者たちこそが、次の時代を引っ張るリーダーになるんじゃないか。彼らを見ていてそう思った。

 

中卒や高卒の人たちがチャンスが得やすい社会にするために、今私たちができることはなんだろうか。

それは、自分から着飾った服を脱いで、人と関わることなのかもしれない。自分とあなたの関係性が、社会であり、世界になっていくのだから。小さいことかもしれないけれど、私はここから始めていきたい、そう思った1日だった。

 

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一生懸命働いた先に、 世の中はどう良くなっていくの?

*1 バズキャリアが主催する夏のイベント
「NEXTSTAGETOKYO〜人生を変える5日間〜」
2017年8月4日~8月8日に開催された4泊5日の第0新卒限定の就活イベント。六本木にあるDMM.comに著名人や有名な企業が一同に集まり合同説明会やオフィスツアーを行った。

水田 真綾(@maya_mip)
Maya Mizuta

『CRAZY MAGAZINE』を立ち上げ、執筆・編集共に行っている。学生時代は人の世界観を形作る「メンタルモデル」に興味を持ち、「学習する組織」や「U理論」を学んで団体を創設、イベントを多数開催。趣味は、星を見て風を感じて森でお散歩をすること。愛読書はエーリッヒ・フロムの「愛するということ」。

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