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“ 昇進 ”した彼女はなぜ——プレイヤーに戻った決断と、組織内コミュニケーションにおける「鍵」

優秀なプレイヤーに役職を与え部下のマネジメントを任せることは、大半の組織においてキャリアステップの一つとされています。

しかし、優秀なプレイヤーからマネージャーに昇進したものの、「本当はマネージャーに向いていないんじゃないか」「自分らしさを生かしたマネジメントって…」と悩んでいる人は多いはず。

“組織をリードするのに役職は必要ない”そう語るのは、株式会社CRAZYのウェディングブランド「IWAI」のプロデューサー・森裕美さんです。社内で最多のプロデュース実績をもつ彼女は、ウェディング事業部の中でマネージャーを務めたのち、自らプレイヤーに戻る道を選択。

いわゆる“ 昇進 ”した彼女が、なぜ世間的に“ 降格 ”と思われるプレイヤーを選択したのでしょうか。その過程を追うと、プレイヤーに戻るキャリア選択の可能性と、組織内コミュニケーションの大切さが見えてきました。

最年少でマネージャーに大抜擢、そんな喜びも束の間だった

森裕美 ウェディングブランド「IWAI」 プロデューサー/ 2014年に創業2年目の株式会社CRAZYに入社し、完全オーダーメイドのウェディング事業「CRAZY WEDDING」にて最多のプロデュース実績を経て、最年少でマネージャーに抜擢。現在はウェディングブランド「IWAI」のプロデューサーを務める。

私がCRAZYに入社したのは、5年半前のことです。当時のCRAZYは創業2年目、社員も20名に満たない頃でした。

CRAZYの結婚式は『他では味わえない、人生が変わるほどの体験を作る』ということをゴールとしています。その中で私個人としては、結婚式を作るプロセスの中で「私の人生、本当に良かった」とお客様が心の底から思える瞬間を作ることがゴール。

その大きな自己肯定・自己承認を作るには、ときにはお客さま自身に変化を促す必要があります。たとえば、自信がなさそうにしているかたや、夫婦間での素直なコミュニケーションに悩んでいるかた…いろんなお客様がいます。しっかり話に耳を傾け、気持ちに寄り添い、こちらの思いを伝える。

「私の人生、本当に良かった」と気づく瞬間を、結婚式のプロセスの中で作りあげることに、こだわっているんです。そのためには、何だってしたい。もしかすると、ウェディングプランナーの仕事の領域を超えて、カウンセリングやコーチングに近い接し方なのかもしれません。

お客様の気持ちに変化が生まれ、「楽しかった」「幸せだった」という感想以上に、「おかげで人生が変わった、ありがとう」と感謝の言葉をいただくことも。その度にまるで自分のことのように感激しています。

そんな私は、創業2年目の頃から、創業者の山川咲さんを必死で追いかけるように働いてきました。社内のプロデューサーでは最年少。でも気づけば、プロデュースしたお客様数は社内最多に。チームの副リーダー的ポジションを担いながら、徐々に全社プロジェクトを主導する役割を任されることも増えていきました。

そして、とある日。ちょうど、次のキャリアステップを考えていたときに、新体制発表のアナウンスがありました。「マネージャーは森裕美」——最年少の私が、プロデューサーチームのマネージャーに大抜擢されたのです。

フォーメーション発表のシーンは、今でも忘れられません。私の名前が呼ばれた時に、他のメンバーが本当に嬉しそうにしてくれていたこと。

入社した頃は「自信がない人の代名詞」と言われるほど、私は自分に自信がないタイプでした。でも、あの日は「地道に取り組んだ先に実るものがあるんだ」「いよいよ次のステップに進めるんだ」と、自分のがんばりを認める気持ちが湧いてきて…。ただ、そこからが、苦しい苦しい、怒涛の日々の連続だったのです。

「義務と責任」で見失った心…退職をも辞さない状況へ

私はマネージャーになった途端に、「マネージャーとしてどうするべきか」と自分に問い続けるようになりました。事業責任者と一緒に決めた目標を、現場のプロデューサーたちに伝えるも、すぐには全員に納得してもらえない。そして、また事業部のリーダーにかけあう。目的意識や利害関係を調整し、みんなのやる気を引き出すことがこんなに大変だなんて、まったく知りませんでした。

普段はノウハウ系の本なんて読まないのに、マネジメントに関する本を何十冊も読んで、実践、実践、実践…。正解を求めて、藁にもすがる思いでした。今思えば、教科書のような情報を頼りに、“いいマネージャー”でありたくて、必死だったのです。

マネージャーとしての責任感や義務感が増していけばいくほど、自分の感情が日に日にすり減っていきました。どうしたいのか、自分の気持ちが分からない。でも当時は、疲弊しているなんて自覚する余裕さえありません。次第に元気を失っていく私に気づき、声をかけてくれるメンバーも多くいました。

皆の支えがあって、底をついてしまいそうな自信をギリギリのところで保っていたんですが、ついに不調が体にも及ぶようになってしまって…。そこでやっと、一度休もう、自分の気持ちと向き合おうと決めました。

行き先は、北海道、ひとり旅。大きな自然のありのままの美しさに、息を飲みました。そして、あることに気がついたんです。自分に過剰に付属品をつけてしまっていた、と。自然と同じように、人もありのままでいいはずなのに。「こうあらねば」を捨てて、もっとシンプルになりたい——退職も辞さない覚悟で、代表の森山さんに話をしにいきました。

東京に戻り1ヵ月半、家族や仲間、上司に相談を重ねながら、最終的に森山さんに伝えた、意思。森山さんは、私がこれまで抑えていた気持ち…諦め、不甲斐なさ、いっぱいいっぱいな状況…いろんなものを受け止めて、静かに聞いていました。そして、本心で何を望んでいるのか、繰り返し繰り返し問いました。マネージャーの重圧に迷ってしまった私などは一度横に置いて、私の本質が感じることを引き出すように。

一人で考えていると、自分の不足している部分に目がいきがちです。周囲の人は、誰一人として、責めることなく「がんばっているね」と声をかけてくれていたのに、自分ではそれをなかなか認められなかった。キャリアアップしたんだから、マネージャーとしてがんばらないといけない、と思い詰めてしまった。本来は、お客様の人生に愚直に向き合いたいのに、“自分がいいマネージャーになること”にベクトルが向いてしまっていた。

そしてわたしは、人の人生と向き合うことだけをシンプルに追求していきたい——そんな気持ちが涙とともに溢れ、肩の力が抜けていきました。同時に、マネージャーではなくプレイヤーとして、もう一度始めることを決めたのです。

プレイヤーに戻った真意と、組織内コミュニケーションにおける「鍵」

世の中には、プレイヤーからマネージャーに転身するなかで、責任感や上層部とのミスコミュニケーションに悩み、退職する事例がよくあると聞きます。そんな中、なぜわたしは、プレイヤーに戻りたいと伝え、CRAZYに残ったのでしょう。実は、世間的には“ 降格 ”と思われるとしても、わたし自身はそう感じなかったからかもしれません

たぶん、コミュニケーションにヒントがあります。リーダー陣は誰一人として、私が役職を降りたことに、努力不足を指摘することはありませんでした。「よくがんばった」という承認と「次のポジションでも楽しみにしている」と期待の言葉をかけてくれた。

配属は才能が最も開花される場所にすべきだ、という思いのもと、周囲にも私がプレイヤーに戻る理解を促してくれました。もし、別の関わりかたをされていたなら、ネガティブな感情に今もなお悩まされていたかもしれません。退職だって、避けられなかったかもしれない。

そしてわたし自身、マネージャーの経験を通して、本心で望むことを再確認できたんです。IWAIでのウェディングプロデューサーという仕事が、お客様と直に向き合うということが、自分の幸せとも繋がっていると信じて疑う余地がなくなった。

今こうして、心からやりたいと思える仕事に戻り、義務や責任でなく「自分がやりたいからやるんだ」とパワフルに働けていること、幸せに感じます。

マネージャーの経験を経て、「社長やマネージャーが偉い」だとか、役職に対して優劣をつける考えかたも、なくなりました。必要なのは、自分の可能性を発揮して組織に貢献すること。そのために、自分の才能が最大限活かせるポジションを選ぶことは、大切です。それが結果として、お客様のため、会社のため、ひいては世の中のためになる。

CRAZYが届けたい価値を最前線で作って、事業を大きくするために、私に肩書きは必要ありません。経験したからこそ分かる経営層やマネージャーの視点、常にお客様と対峙し現場の第一線にいるプロデューサーとしての視点、そのどれもを持っていることが今の私の強みのひとつ。だから私はこのポジションから、事業をリードしていけると信じています。

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編集:水玉綾  撮影:伊藤圭

萩原愛梨
Airi hagiwara

ビューティーテックカンパニーSpartyでChief Customer Officerを務める。ITフリーランスの支援事業を行うgeechsでの広報・メディア運営の経験から、フリーライターとしても活動中。複業ワーカーの可能性を自ら体現すべく奮闘する日々。著書に『女子的「エモい」論 ~おじさんに伝えたい私たちの本音~』(「幻冬舎plus+」)

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