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INTERVIEW

年収日本一企業を退職し、「生きる」と「働く」を分けない働き方で取り戻した、人生の手綱

働き方改革が叫ばれる中で、メディアアーティストの落合陽一氏が提唱するワーク・アズ・ライフに興味を持つ人も多いだろう。彼の言うワーク・アズ・ライフは、「寝ている時間以外はすべて仕事であり、仕事が趣味である」状態を指す。また、ワーク・ライフ・インテグレーションという生き方にも注目が集まっている。仕事と生活をともに人生の重要な構成要素とみなし、統合的に考えることで、仕事も生活も充実させる生き方だ。

ところが、こういった働き方をしているのは著名人や自営業の人が多い。外部ライターとしてこの記事を書いている筆者も自営業者。犬の散歩をしながら取材音源を聞き直したり、煮物をしながら執筆したりと、仕事と生活の境界線は曖昧だ。しかし、企業に勤めながら会社員がそのような心持ちで働くのは、可能なのだろうか。

実は(株)CRAZYが目指すのは、「生きる」と「働く」を分けないワークスタイルである。それによって人生が大きく変わったと話す、CRAZY社員でコミュニティ・マネージャーとして働く近藤友輝氏に話を聞いた。

「生きる」と「働く」を明確に分けていた前職の頃

近藤友輝(Yuki Kondo):大学卒業後、株式会社キーエンスに入社。2年目で営業成績トップを取得。27歳で退職し、2015年にシリコンバレーへ行き、B-Bridge InternationalでのInternshipを経て、2015年4月、株式会社CRAZY入社。現在は、コミュニティ・マネージャーとして、あたらしいものづくりの「IDO」の運営責任者を務める。

—近藤さんは、CRAZYの前は株式会社キーエンスで働いていたと聞きました。平均年収が日本一高いと言われる企業*ですよね。

近藤:そうですね。僕は母子家庭育ちで、大学の頃は本当にお金がない生活をしていたんです。パン屋さんでパンの耳をもらったり、3ヶ月間電気が使えなかったり。そんななか、お金があったらもっと幸せなのかもしれないと思ったんですよね。

キーエンスは合理性と生産性、成果を重視する企業で、平日は朝7時から夜10時まで働いていました。一方で持ち帰り仕事ができなかったので、週末は完全にオフ。年間の休日も126日と比較的多く、オンとオフのめりはりがついていました。

*『就職四季報2019年版』による

物質的に満たされていない人の方が幸せに見えた

近藤氏が運営責任者をつとめる「ものづくりを通して『生きる』を考える場所」、IDO。コンセプトは「いきること」は「つくること」。「働く」と「生きる」はもちろん、「居住スペース」と「制作スペース」、プロとアマチュア、CRAZY社員と社員ではない方など、さまざまな境界線を曖昧にしたスペースだ。

—人によってはすばらしい環境だと思いますが、なぜ近藤さんはキーエンスを辞めてCRAZYに転職したのですか?

近藤:27歳の時に、父が余命宣告をされたんです。もちろん悲しかったですが、「父方の祖父も55歳で死んでいるから、僕も55歳で死ぬのだろう」とその時ふと思ったのです。

当時の僕は27歳で、同級生の何倍もの給料をもらって、毎年車を買い替えるなど散財する生活をしていました。物質的には非常に満たされた環境です。でも周りを見たら、給料は僕よりずっと低いのに、幸せそうな人がたくさんいて。

今の生活のまま55歳でパッタリと死んだとして、自分の人生は最高だったと言えるだろうか、いや言えない。頭に雷が落ちたかのように、直感的にそう感じました。そこから、お金では得られない幸せの価値観を見つけたいと思うようになったんです。

CRAZY WEDDINGの創業者である山川咲と出会ったのは、ちょうどそのタイミングでした。この人はその価値観を持っている人だと感じ、出会った翌日には辞めることを会社に告げていました。
IDOはCRAZYのクリエイティブチームが、デザインだけでなくみずからリノベーションも行っている。

「週32時間勤務」という条件を相談して決めた

—CRAZYに転職した結果、どんな働き方に変わったのでしょうか?

近藤:転職してから夢中になって年がら年中働きました。実は2017年春に持病の心臓病の悪化が発覚し、代表の森山に働き方の相談をしたんです。自分の強みを最大化させ、組織の成長にもつながる働き方はないのか。模索した結果、現在は週32時間勤務という条件で働いています。

持病に加え、自分のライフスタイルを大切にしながら働きたいという希望、前職で身につけた徹底的な効率と成果重視の働き方を前提にしつつ、相談の上でたどり着いた形です。今は毎日4時間から6時間、週6日で働いていますね。

誰もがこういう働き方ができるとは言えませんが、CRAZYでは理想の生き方と、仕事の責任を明確にし、上司やチームと相談の上で、あたらしい働き方を作っていく文化がありますね。年齢もライフステージも人それぞれなので、制度に人を合わせるのではなく、人を起点に制度を生み出しています。

妊婦さんは出勤時間を満員電車の時間とズラしたり子どもを持つお父さんは子どもを保育園に送ってから出社したり。家族との時間を取るために週2日間は16時に退社するメンバーもいます。帰らずに残っていると「早く帰ってください」と他のメンバーに怒られていたり(笑)。

人ひとりの人生そのものを大切だと考えているので、人事制度の中には、仕事の目標達成と人生の理想達成の2つの軸をおいています。理想の人生を生きずに、仕事のパフォーマンスだけあげていたとしても、昇進しないようになっているんですよ。

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働き方を考えることで、人生の手綱を自分でとるように

—前職の時と一番変わったことは何ですか?

近藤:仕事量や働くスタイル、成果を相談の上で設定するようになった結果、自分ができなかったことや不満を、人の責任だと思わなくなりました。前職の時は「会社のシステムが悪い」「あの上司は説得できない」など、何かや誰かのせいにしていましたが、今は全部自分の責任だと感じます。

誰かが何かをしてくれるといったお客様感覚ではなく、自分で人生の手綱をとっている感覚です。そうなると、与えられるのを待つのではなく自分でチャンスを作りにいくようになりましたね。

「生きる」と「働く」を分けないワークスタイルを達成するために必要なこと

—そういった「生きる」と「働く」を分けないワークスタイルに必要なことはなんでしょうか?

近藤:提案すること。何か不自由や不具合を感じたら、自分はこうしたいという意思や理想を周りに伝えることが大切だと思いますね。

新入社員など、実績がなくて発言するのにためらいがある人もいると思います。でも発言力は、発言を繰り返していくこと得られるものだから、行動し続けることを応援したいです。

—働き方を変えて、「お金では得られない幸せの価値観」は見つかりましたか。

近藤:そうですね。まだはっきりとは言語化できないのですが、物理的な欲求を満たす方法とは全く違った幸せは、周りの人、もの、環境に感謝することで生まれると感じるようになりました。そうした豊かな人生をこれからも歩んでいきたいです。

 


編集:水田 真綾/写真:小澤 彩聖

FELIX 清香
Sayaka Felix

greenz.jp、Pouch、「ソトコト」等のWEBマガジン、雑誌での執筆や書籍構成、オウンドメディアの立ち上げ等を行なっている。国際交流やエシカル、児童文学、体感型アートに興味あり。プライベートでは、Give & Takeではなく、Give & Giveで経済が回るかどうかをさまざまな取り組みで実験する「ギフト経済ラボ」のメンバーとして、カルマキッチンというカフェイベント等の運営に参加している。

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