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「大嫌いだった故郷インドの未電化村に灯りを。」革新的な電力会社が生まれたストーリー

こんな村の様子を想像してほしい。夜、ライトを消して車外に出る。目が慣れてくると月や星の明るく出ているときは周りが見えるが、いったん月や星が雲に隠れると、辺りは一気に真の暗闇に塗り込められる。

都会に暮らしながら完全な暗闇の夜を想像するとき、人はそこにロマンを見出すかもしれない。しかし、望もうと望むまいと毎日がこういった状況にあるとき、生活は非常に不便になる。薄暗いランタンでは灯りとして十分ではないため、女性たちは明るいうちに家事を終わらせる必要に迫られる。その結果、昼間働いたり学んだりする機会を失う。子ども達も日が落ちると勉強はできない。安全上の問題も多い。

電気のある生活から完全に切り離され、こういった完全な暗闇のなかで夜を過ごしている人々は、現在でも地球上に12億人いる。そのうちの4億人はインドに暮らしている。インドのビハール州も、そういった無電化の農村が多い地域だ。

電気のない地元の村から生まれた創業者

Gyanesh Pandey(ギャネシュ・パンディ)氏は、そのビハール州北部の、無電化の村で生まれ育った。彼は幼い頃から、自分の村を嫌悪していた。娯楽も何もなく、お金がなく、人々は無気力で、そこには何の価値もないように感じていた。

村には小学校があって、その校長先生はパンディ氏の家に住んでいた。夜になると先生は子供達を集めて勉強を教えてくれようとした。しかしランタンの灯りでは先生は子供達の書く文字が読めず、すぐに勉強はお開きになってしまう。もっと明るければいいのにと感じていた。

その後、彼はエンジニアになり高等教育のためにアメリカに渡った。


博士課程で勉強していた頃、妹の結婚式のためにインドに戻ったことがある。親戚の集まりで彼はアメリカの話をしてほしいとせがまれ、話した。その話の締めくくりに彼は「アメリカは……、みんなには想像もできないよ」と言った。侮辱するつもりはなかったが、それを聞いた一人の老人はこう言った。

「そうさ。アメリカはいつまでも夢だろう。なぜっておまえみたいな人間達は、いつもわしらのようなものから距離を取りたがるからな」。

その言葉は、彼の心に響いた。2001年のことだった。

失敗続きでも諦めなかったからこそ今がある

その後2002年頃から、幼馴染とともに彼は電気工学の専門家として地元の電化に何かできることはないかと考え始めた。高分子太陽電池、潮力発電、燃料電池、ジャトロファという多年生の植物由来のバイオディーゼル…… 何年もの時間と資金を費やして検討を重ねたが、失敗続きだった。

最後のジャストロファのプロジェクトは、それまでインドに戻ることを考えていなかった彼が帰国を決意するほど肝いりの事業だったから、失敗は手痛かった。失敗を受け入れることができなかったパンディ氏はまるでプロジェクトがまだ継続しているかのように振る舞い続けた。

そんななか、再生可能エネルギー開発庁の役人とアポイントを取った際、籾殻のバイオマス40%とディーゼル60%を混ぜて作るガス化装置の存在を知った。それが彼の道を開いた。それに改良を加え、籾殻バイオマス100%のガス化装置を考案したのだ。今まで有効に使われていなかった籾殻という地域資源を使い、小規模の発電機を利用して農村ごとに発電を行って、無電化の村に住む人々に電力を供給するというアイデアだった。

2007年6月、小さなエンジンメーカーが話に乗ってくれ、8月15日に2つの発電所で5つの村に電力をもたらすことに成功。パンディ氏は幼馴染とともに、その発電システムの特許を取得し、Husk Power Systemという名で起業することにした。

しかし、うまくいくことばかりではなかった

5つの村を電化した段階で、資金が完全にショートしたのだ。

でも彼は諦めなかった。

友人の紹介によりビジネス・プラン・コンペティションに出場して50万ドル以上の出資を得ることに成功し、事業を存続させた。そして2008年にはNew Your Timesに。その後は、それまで彼らの取り組みに見向きもしなかった人々も注目するようになり、慈善団体が集まり、シェル財団と長期的パートナーシップ提携を結ぶまでに発展したのだ。

20万人以上に電力を供給するまでに

Husk Power Systemは現在、インドのビハール州に84箇所の小規模発電所を設置し、300以上の村で20万人以上に電力を供給している。20万人以上の人々の夜に明かりが灯る。

それは20万人以上の人々に、夜間の安全を提供することであり、営業時間の延長をもたらすことであり、子どもたちに学習時間を提供することでもある。
このことが評価され、Husk Power SystemはMIT Ignite Clean Energy Business Plan Competitionなど様々な賞を受賞しているという。

貧しい人々にも電力を買ってもらうための価格設定

この取り組みの注目すべき点は、無電化の農村に電気を供給していることだけではない。貧しい農村でもその事業が利益を生み出し、雇用を生み出しているところも注目に値する。Husk Power Systemは貧しい農村の人々が購入できる値段で電力を販売し、多くの発電所では、フランチャイズ的に地元の起業家を迎え入れ、発電所の管理と、顧客が購入した電力を送電する仕事を委託しているのだ。

貧しい人々に電力を販売するのに知恵を絞ったのは価格だ。コストを元に考えるのではなく、いくらなら支払えるかを考えた。それまで人々は明かりにケロシンという石油燃料を使っていた。1日6時間ケロシンを使った場合、そのコストは1ヶ月500ルピーになる。そこで、1ヶ月250ルピーで販売し始めた。

いったん人々の生活に電気がもたらされると、電力の需要はみるみる大きくなった。そのため、Husk Power Systemは2015年から太陽光発電と籾殻発電のハイブリット発電所などの設置も始めている。

大規模発電所より優れている点

このHusk Power Systemは首都圏で使われている大規模発電所に比べて特に優れているところが3つある。1つめは、首都圏で使われている大規模発電所がときどき大停電を起こすのに、HUSK POWER SYSTEMではそれがないところだ。もちろん様々な事情でこの地域だけは今日は電力が供給できないといったようなことは起こる。しかし、大規模な地域が一斉に停電になってしまうことはない。

2つめはそれがクリーンエネルギーを利用した発電であることだ。今後インドが化石燃料を使って先進国並みに電化した場合、人口が多いだけあってインドのCO2排出量は莫大になってしまう。しかしHUSK POWER SYSTEMでは、今まで有効に使われていなかった籾殻を利用するため、電化はしてもCO2排出量への影響は化石燃料に比べて小さい。

3つめは、Husk Power Systemが地域にある資源を使い、地域で発電するという地産地消型の「強い」エネルギーであることだ。インドではエネルギー需要の高まりに合わせてエネルギー自給率が年々下がっている。しかし、籾殻や太陽光発電は自給率アップに貢献できる。

地域資源を使い地域で発電する「強い」エネルギー

ひるがえって日本はどうだろう。インド同様、日本でも籾殻は生産される。その量は毎年200万トンと大量であり、一部は産業廃棄物として焼却処分されている。その籾殻を有効利用しようという試みは各地で行われているが、事業化に成功しているとは言い難い。

また日本の一次エネルギーの自給率は6.0%と非常に低い。パンディ氏のいうところの、「強い」エネルギーとは程遠い。

1990年代初以降、日本は長らく経済の低成長を経験してきたと言われる。ひょっとすると、パンディ氏が幼い頃に自分の村に感じていたような重苦しさ、停滞感を周囲に感じている人もいるかもしれない。

しかし世界規模で考えれば、こと環境に関しては日本もまだまだやらなくてはいけないこと、できることがあるはずだ。知恵を絞ってそういった問題を解決に導こうとすることは、個人の、そして世界の未来を明るくするのだろう。そして、そうした行動は、自らの原体験から生まれるのかもしれない。

参考:
Husk Power SystemGyanesh Pandeyインタビュー経済産業省 日本のエネルギーのいま

FELIX 清香
Sayaka Felix

greenz.jp、Pouch、「ソトコト」等のWEBマガジン、雑誌での執筆や書籍構成、オウンドメディアの立ち上げ等を行なっている。国際交流やエシカル、児童文学、体感型アートに興味あり。プライベートでは、Give & Takeではなく、Give & Giveで経済が回るかどうかをさまざまな取り組みで実験する「ギフト経済ラボ」のメンバーとして、カルマキッチンというカフェイベント等の運営に参加している。

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