2017.05.29

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「NO」と言う会社

タクシーとは、できるだけ早く、安全に、目的地に到着する乗り物であってほしい。
そう思っていないだろうか。そういう常識に「NO」と言う会社があった。

横浜市の三和交通が打ち出した「タートルタクシー」である。乗客が後部座席に置かれたボタンを押すと、ランプが点灯。ドライバーは、いつも以上にゆっくり丁寧な運転を心掛けるというサービスだ。

「タクシーの1番の利用価値は、早く目的地に着けることにある」というのが常識的。だがシニアの場合、「駅の階段の上り下りが大変」といった理由で、タクシーを利用する場合がある。シニア以外にも「妊娠中だから丁寧に運転してほしい」といった、急がなくてもいいニーズがあるはずだ。そんな「逆転の発想」から、このサービスは始まっている。

このサービスを最初に思いついたとき、実際にニーズがあるのかアンケートが行われた。対象は、20歳から60歳まで130人。「ゆっくり走ってほしいと感じたことはあるか?」という質問に、76%の人が「YES」と答えた。そのうち「それを運転手に伝えづらいと感じるか?」に、「YES」と答えた人は91%。ゆっくり走ってほしいが伝えられないという潜在的ニーズが大きかったのだ。

10台でスタートしたタートルタクシー。3ヶ月で約6000回賃走中、口では言いにくい要望を伝えやすくするボタンは1274回押され、4316キロをゆっくり走行した。

2016年夏に大ヒットした映画『シン・ゴジラ』。ヒットの裏側では、「日本で当たる邦画の常識」をいくつも破っていた。具体的には、次のようなものがある。

・恋愛や家族愛の要素は入れない
・バリバリのアイドルは使わない
・聞き取れないほど早口のシーンがある
・専門用語が多い
・字幕に漢字が多い
・口コミで地道に観客を増やす

これは、通常「怪獣映画」が子どもや若者を主ターゲットとしていることを考えると、なおさら常識破りであった。

これらに共通しているものは、常識の枠にとらわれず、今までにない行動を起こしたこと。技術の革新ではなく、発想の革新から常識に「NO」と言ったことが結果として、「イノベーション」を生み出したのだ。

常識に縛られているとイノベーションは生まれない

常識に「NO」と言うことがイノベーションを生む。そうは言っても、難しいと思う人もいるだろう。典型的なシーンを紹介しよう。

「斬新なアイデアがほしい」と社員に求め、いざ提案されると、上司が次のような言葉を掛ける。
「どこかで実績があるの?」「この業界の常識を知らないの?」

常識に「NO」と言うことの敵に、日本にはびこる「前例主義」、硬直化する組織がある。
「前例がない」と言うのは、考えること、工夫することを放棄するのと同等であろう。時代は変わり、人間の思考や行動は変化している。にもかかわらず、変化がないということは、むしろ「退化」ではないか。

そんな中で、どうすれば常識に「NO」と言い、イノベーションを起こせるだろうか。

そよ風を生み出す扇風機「The GreenFan」で、一躍世間から注目されたバルミューダ。以降も、空気清浄機、加湿器やトースターなど、他の家電とは一線を画する新しい製品を提供し続けている。いずれも「これ以上の進化は望めない」と誰もが諦めていた製品に、独自の付加価値をつけヒットさせた。技術の革新ではなく、発想の革新から生まれたヒットである。

バルミューダはかつて、ものづくりの経験がない人間の起業からして、業界の常識外れとされ、「The GreenFan」の価格にしても、「そんな高い扇風機が売れるわけがない」と言われていた。だが結果、上手くいった。

同社独自の製品づくりはすべて「常識を疑う」ところから始まっているという。これは創業者・寺尾玄社長のスタンスが強く出ている。

また、リサーチや手持ちを生かす技術先行型の開発もしない。それでは普通のものになってしまうからだ。リスクも伴うが、寺田社長の「失敗の回数と大きさが人を育てる」という考えが、バルミューダのチャレンジを可能にしている。

バルミューダは、常識を信じず、失敗を恐れないからこそ、常識に「NO」と言い、常識に「NO」と言う社員を受け入れる。だからこそ、他の会社よりイノベーションを起こしやすいのかもしれない。

常識に「NO」と言うことが社会に大きな価値を生む

技術の革新ではなく、発想の革新から、常識に「NO」言ったことが結果として、イノベーションを生み出していく。時代が必要としているのは、常識に「NO」と言う会社、常識に対して「NO」と言う社員を受け入れる会社だろう。

仕事の進め方1つとっても、凝り固まった枠で考えてしまっていないだろうか。思い切って常識に「NO」と言ってみないか。そこから生まれるのはきっと、新しい発見と、社会への大きな価値なのだから。

(参考文献)

『ビジネスのアイデアがどんどん出てくる本』
日経BPムック

『図解基本ビジネス思考法45』
グロービズ著 嶋田毅執筆
ダイヤモンド社 Share Tweet

高橋 陽子YOKO TAKAHASHI

「OVER THE BORDERの新婦です」の一言で、CRAZYを取り巻く人に認知してもらえるありがたい人生を送る。GALLERY WEDDINGプロデューサーと、FEEL THE CRAZY編集者と、少しのフォトライター業と…。わらじを何足履けるか冒険しながら、大好きな愛媛暮らしを満喫中。


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