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COLUMN

環境への貢献、平和への想い。家庭の生ゴミからエネルギーを 生成する HomeBiogas のビジネスとは?

AmirElrom(アミール エルロン)は朝、目覚めるとキッチンに立ってコンロ の火をつけ、コーヒーを淹れる。そして庭を眺めながら、そのコーヒーを飲む。 庭の木々にたわわに実った果実を眺めながら飲むコーヒーは格別の味だ。

果実にやった肥料も、コーヒーを淹れたガスコンロのガスも、実はアミール自 身が生ゴミから作った。アミールが使っているのが、イスラエルのスタートア ップ企業 HomeBiogas(ホームバイオガス)の装置だ。

家庭から出る生ゴミから、バイオガス燃料を家庭で生成

家庭で調理をしていると毎日生ゴミが出る。日本の場合、家庭から出る生ゴミ の総量は年間 1000 万トン以上と大量だ。HomeBiogas は、バクテリアでその生 ゴミを分解し、バイオガス燃料と液体肥料を生成する。

生ゴミ処理というとコンポストを頭に浮かべるかもしれない。コンポストは微 生物の働きで生ゴミなどを分解し堆肥に変える処理方法で、家庭菜園をする人 などに蓋つきのバケツ型のものがよく使われている。HomeBiogas はコンポス トに似ているが、堆肥だけでなくバイオガスが生成でき、それを家庭のキッチンで燃料として使うことができるところが大きな違いである。

また、コンポストでは骨や肉類、油分の多いものを入れることはできないが、 HomeBiogas では入れられる。鳥類以外の家畜やペットの糞尿も同時に入れる こともできる。一般的なコンポストとは違って攪拌する必要もなく、脱臭機能 もあるため衛生的で使いやすい。

装置自体は 123cm×165cm×100cm、重さは 40kg と家庭の裏庭にも設置でき るコンパクトなサイズ。設置も簡単だ。組み立て式キットになっていて、数人 で 2〜3 時間もあれば設置ができてしまう。

1 日最大 6 リットルの生ゴミの処理が可能であり、バナナ 3 本分の皮を入れれ ば、2〜4 週間後にはその生ゴミからパスタを一回茹でるのに十分な量のバイオ ガスが生成される。残滓として出た液体肥料を家庭菜園に使えば、自分が育て た食材を、家で生産したガスで調理して食べるということも可能になる。

ゴミ問題の解決に加え、30 億人の健康と女性のエンパワーメントに寄与でき る

HomeBiogas はバクテリアの分解作用を利用し、電気を使わないオフグリッド システム*1 である。たとえ電源のない砂漠であっても、発展途上国であっても、 バクテリアが活動可能な 20 度以上の温度があれば、使用できる。

その特徴がもたらすメリットは大きい。 まず、ゴミ問題の解決にも寄与できる。発展途上国のゴミ山の様子をテレビな どで観たことがある人も多いと思うが、ゴミが臭う理由の大きな部分をしめる のが生ゴミだ。生ゴミは、発展途上国でも先進国でも排出される。環境庁によ ると、日本の家庭から出る廃棄物のうち、生ゴミは 3 割を超える。イスラエル は 5 割だという。その分のゴミが削減できる。

それから、多くの人々の健康に貢献できる。以前に HiGi Energy の記事でも紹 介したが、世界では現在でも 30 億人が家庭の調理や暖房に固形燃料を利用して おり、その煙が引き起こす病気によって毎年 380 万人が死亡している。 HomeBiogas を利用すれば、そういった煙害はなくなる。

HomeBiogas を使うウガンダの女性

また、女性のエンパワーメントにもつながる。途上国で炊事に使う薪を拾いに 行くのは主に女性だ。1 日に 2、3 回拾いに行く必要がある。環境の変化に伴い、 住環境の近くで薪を拾うのが年々難しくなり、女性たちは毎日遠くまで足を延 ばして薪を拾い集めなければならなっている。その仕事がなくなれば、女性た ちが教育を受ける時間ができるのだ。

南インドの山奥でのバイオガスとの出会い

HomeBiogasの共同創業者兼CSOで、装置の発案者でもあるYair Teller氏が バイオガスの有効性に気づいたのは、生物学を専攻する学生の時だった。イン ドを旅し、炊事に炭や薪を使ってもうもうと煙をあげる姿に慣れた頃、南イン ドの小さな山奥の村に滞在した。そこで、現地の人が炊事にガスを使っている のを見たのだ。

Teller 氏が驚いて「このガスはどこから来たのか?」と聞くと、現地の人は大 きなセメントやレンガで作った瓶を見せてくれた。飼っている牛の糞尿をそこ に入れてバイオガスを生成し、それを炊事に使っているという。さらに Teller 氏が驚いたのは、バイオガスを生成したあとの残滓で、人々は大きく美しい花 を育て、市場で売っていたことだった。

Teller 氏はこれが多くの人の生活を助けると感じた。そこでイスラエルに戻り、 大学でバイオガスの研究を進めたのち、メキシコ、ケニアなど世界中の貧しい 村に出向いた。南インドの村で見たものに似た、レンガやセメント製のバイオ ガス生成装置の作り方を指導して回るためだ。

ところが、この取り組みは全くうまくいかなかった

この手の装置は設置するだけでも 2 週間から数ヶ月かかる。そこから得たガス を使って調理することを指導しようとすると、ガスストーブの設備がないこと もあって「薪の方が早い」と言われてしまう。また、数ヶ月に一度は残滓を取 り除いてメンテナンスをしなくてはならないが、装置に価値を感じていない 人々はその手間を惜しんだ。

生ゴミを分解するタンクや生成したガスを貯蓄する容器、ガスを送るホースなどがコンパクトに収められ ている。

「みんな、すぐに簡単に使えて、かっこいいものが好きなんです。瓶型の装置 は、人々の気持ちには合いませんでした」と Teller 氏は述懐する。加えて、自 分の活動を祖母に説明した時に言われた言葉も、Teller 氏を動かした。祖母は 「ふぅん、それでその装置はあなたの家にあるの?」と聞いたのだ。

それまでに装置を設置しに出向いたのは、家畜を飼っているような農村だった。 しかし農村よりも都市に住む人々の方が、狭いエリアで密集して暮らしている 分、煙害はひどいと感じていた。また、大学での研究によって、バイオガスの 生成には動物の糞尿だけでなく、食べ残しも使えるともわかっていた。祖母の言うように、自分の家にあればいいなと Teller 氏は考えた。

そこで、Teller 氏は現在の共同経営者と共に、「すぐに簡単に使えて、かっこい い」をキーワードに、現在の HomeBiogas の商品化に乗り出した。また、組み 立てが簡単でパッケージがコンパクトであることにもこだわった。 Teller 氏は 「IKEA 式」*2 だと胸を張る。そうすれば、様々な国の政府や活動団体が支援 物資として使いやすくなるからだ。この結果、NGO などが難民キャンプなどに 利用されるようになった。

パレスチナ・イスラエル間に平和をもたらす取り組み

オフグリッドでコンパクトな HomeBiogas は、ペレ平和センターのプロジェク トの一環として、パレスチナのガスの供給のない地域に 75 機設置されることに なった。

イスラエルとパレスチナの間には争いが絶えない。しかし、このプロジェクト は、イスラエル人学生とパレスチナ人学生が組になって、力を合わせてHomeBiogas を組み立て、現地の人に使い方を説明することになっている。「現 地の人」という第三者のための活動を通じて学生たちはお互いに率直に交流し、 心を開きあった。イスラエルの企業だからこそできた取り組みである。

イスラエルの企業である HomeBiogas には、パレスチナから注文が引き続き入 っているという。 「利害関係のない第三者や環境のために活動するのであれば、敵対する国の人 とでも人間的な関係を築くことができるのです。こういった活動は平和につな がります。

また、たくさんの企業が敵対する国の企業とビジネスを行い、そこで大きな利 益を生み出しているとき、もし政治が戦争によってそのビジネスを壊そうとす れば、双方の国民から大きな反発に合うでしょう。敵対する国を含め、多くの 国との間で利益をたくさん生み出すことは、必ず平和に繋がるのです。」と、 Teller 氏は語る。

世界中の家庭に、当たり前のようにバイオガスを

2016 年中に HomeBiogas は 500 機以上販売実績をあげた。先進国の環境に関 心が高い層はもちろん、発展途上国にも販売できるところが強みだ。たとえば ウガンダは世界の最貧国の一つだが、バレという都市の家庭では、調理用の石 炭の調達に月 40 ドルもかけている。HomeBiogas は現在 790 ドルだ。2 年も使 えば、十分に元が取れる。

売り上げは好調だが、課題もある。それは、注文に耐えうる資金を持つことだ。 HomeBiogas は支援物資や国家プロジェクトとして使用されることもあるため、 急に「100 機購入したい」と注文が入る。その代金回収まで持ちこたえられる 企業体力が必要だ。

そこで HomeBiogas は投資家に呼びかけ、クラウドファンディングに挑戦して 出資を募っている。また、フィリピンに工場を作ってコストを下げつつ商品を 生産し、COP21 などに出展することで認知度を高め、世界各国で安全性が認め られるように働きかけながら、個人への販売も強化している。HomeBiogas の CEO の Oshik Efrati は「世界中の家庭で、当たり前のようにバイオガスを使う ようになってほしい」と語る。

 

「HomeBiogas が成功すれば、多くの企業が参入してくるでしょう。そうなると、互いに切磋琢磨して技術力も商品力も上がっていき、もっと多くの人がバ イオガスを家庭に導入したくなるでしょう。世界中に当たり前のようにバイオ ガスで調理するようになればいいなと思っています」と Teller 氏は語った。

生ゴミという身近なものを利用することで、大きな変化を起こそうとしている HomeBiogas。何気ない生活の中には、まだまだ変化のタネ、事業のタネが眠っ ているものなのかもしれない。

そして、HomeBiogas のビジネスの根底にある「環境や第三者への貢献、ビジネスを通じて平和を築きたい」という想いこそ、今求められているものだと感じた。

 

 

*1 オフグリッドシステム 電力会社のグリッド(送配電網)と繋がらない電力システムのこと

*2 IKEA

スウェーデン発祥の世界最大の家具メーカー。家具の多くが組み立て式でコンパクトなパッケージに入れられており、購入者は自分で手軽に組み立てられる。組み立て式であるため、輸送や保管のコストが下げられている。

参考:HomeBigas(https://homebiogas.com)、
Clarke Forum(http://clarke.dickinson.edu/yair-teller/)、 世界保健機構(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs292/en/)

Yair Teller 氏プロフィール
HomeBiogas 共同経営者、CSO。Ben Gurion 大学で廃棄物管理、嫌気性消化、 藻類生産の統合システム等を研究。2010 年、Yair Teller は Oshik Efrati と Erez Lanzer とともに HomeBiogas Inc.を設立。家庭用の小規模バイオガスシステム の開発に着手。同社はイスラエル国の環境省、ドミニカ共和国のエネルギー省、 EU など多くの組織とともにプロジェクトを進めている。

<企業情報>

HomeBiogas Inc https://homebiogas.com/biogas-generator-kit-story/

FELIX 清香
Sayaka Felix

greenz.jp、Pouch、「ソトコト」等のWEBマガジン、雑誌での執筆や書籍構成、オウンドメディアの立ち上げ等を行なっている。国際交流やエシカル、児童文学、体感型アートに興味あり。プライベートでは、Give & Takeではなく、Give & Giveで経済が回るかどうかをさまざまな取り組みで実験する「ギフト経済ラボ」のメンバーとして、カルマキッチンというカフェイベント等の運営に参加している。

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