INTERVIEW

日本初!「睡眠報酬制度」を導入。6時間眠るとお金がもらえるってホント?ー 健康経営特集 ー

「眠ればお金をもらえる」なんて、そんないい話が世の中にあるのでしょうか。

実は、そんないい話があるのです。創業時から「社員の健康」を、経営の優先順位の一番に掲げている、株式会社CRAZYの新制度。

睡眠の質をあげるマットレスパッドで有名なエアウィーヴ社と共同で、6時間眠った社員に報酬を与える制度を打ち出しました。ハードワークによる睡眠不足や、不眠症が問題視される今の時代に、どのような旋風を巻き起こすのか。

健康経営の取り組み「自然食ランチ」に続き特集するのは、「睡眠報酬」について。編集長の私、水玉がCRAZY代表の森山へ直接インタビューを行いました。逆転の発想から生まれた制度とその効果とは。

「睡眠の量」だけ。計測指標を複雑にしなかったワケ。

-初めて聞いた時は、大変驚きました。睡眠報酬とは、一体どのような制度なのですか。

社員の健康や生産性の向上を目的に、「1週間の中で、6時間以上の睡眠を5日間確保した社員に報酬を渡す制度」です。毎日ベッドサイドにiPhoneをおいて、制度を共同開発しているエアウィーヴ社の睡眠時間計測アプリ「airweave sleep analysis」で、計測するんですよ。すると、データが蓄積されて、会社に届く仕組みになっているのです。

株式会社CRAZY 代表取締役社長 森山和彦(Kazuhiko Moriyama) 前職の人材コンサルティング会社では、法人向けコンサルティング部門の事業責任者として、中小企業から大企業までの組織改革コンサルタントとしてトップセールスを記録する。6年半の勤務を経て2012年7月に株式会社CRAZYを創業。独自の経営哲学から組織運営のシステムを確立している。

ー聞きたいことが山ほどあるのですが、まずは、なぜ「1週間の中で6時間以上の睡眠を5日間というルール」にしたのでしょうか。

適正睡眠時間は6時間や8時間など諸説ありますが、少なくとも6時間はミニマムなラインと定めました。最低でも6時間は眠りましょう、という基準です。5日間にした理由ですが、本当は全員7日間クリアしてほしいという前提はあります。

ただ、仕事やプライベートの事情も含めて考えると、まずは5日間という目標が適正だと判断しました。もちろん、6日間、7日間と達成すれば報酬は上がっていくので、7日間クリアが当たり前になる事を目指してはいます。

ーなるほど。だから7日間のうち5日間というルールなんですね。しかし、短い睡眠時間でも健康に暮らせる「ショートスリーパー」や、長時間の睡眠が必要な「ロングスリーパー」の人は、どうなるのでしょうか。

ショートスリーパーの人には、自己申請をいただくことにしています。実際に1名の申請がきていますね。ただ、本当にショートスリーパーかどうかは、一緒に考える必要があるんです。

なぜなら、全体の1〜2%しか存在しないと言われていて、そのうちの殆どが遺伝によるものなので、家系やDNAを調べれば分かるんです。多くの人が思い込みではないか、と言われています。今後は検査なども含めて整備していくつもりです。

ロングスリーパーは、制度上6時間眠れば報酬がもらえるので、報酬面での問題はありません。ただし、健康という概念から見ると、ショートスリーパーの人と同じく、しっかりとした検査体制を整備したいと考えています。

エアウィーヴ社の睡眠計測アプリ「airweave sleep analysis」

専門家含めて「良い睡眠」の定義を真剣に議論をしましたが、測定指標が多くなるほど、難しくなると思ったんです。本部が作った制度が実行されない事例はよくありますが、管理が複雑化するほど実行のリスクが上がってしまうんですよね。重要なことは、人が本当に取り組みたいと思い実行するかどうか。

今後、睡眠に対するリテラシーが高まって、もっと良い睡眠を望む人が増えていけば、指標を増やしたり、睡眠グッズを買うのも良いなと思っています。でもまずは、人が動きやすいシンプルな指標からですね。

ルールで縛るのではなく、インセンティブの設計が必要

ー報酬は、給料に反映されるのでしょうか。

最初は、自社で使えるポイントを、3ヶ月分まとめて付与します。ゆくゆくは基本給にプラスして、お給料としてお支払いする予定です。1週間のうち6時間睡眠をとった日数が5日間の人は、500ポイント、6日間は600ポイント、7日間は1,000ポイントを付与します。

また、健康管理をする上で、計測すること自体が素晴らしいことなので、1ヶ月間毎日計測できたら、皆勤賞として1,000ポイント。貯まったポイントは、CRAZYのオフィスにあるダイニングやCRAZY CAFE 「Blank」で、自然食のお菓子や珈琲などと交換することができます。

ー社員からすると、非常に嬉しい制度ですね。 そもそも、なぜ「睡眠報酬」を始めようと思ったのですか。

以前、長時間労働で問題が浮上した、とある会社の知人が「働きたい人の権利も守ってほしい」と言っていたんです。働く時間を管理制限した方が働きやすい人がいる一方で、制限なく働きたい人もいる。これを聞いたとき、「管理の仕方を逆転させたら面白い」というインスピレーションが浮かんだのです。

ブラックと言われる労働時間を管理するんじゃなくて、ホワイトな睡眠時間を管理する。そうすれば、働く人の人生は良い方向に向かっていくと考えました。

ただ大事なのは、強制感を持たないことです。考えてみてほしいのですが、自分の体にとって、寝ることは良いことですよね。でも、強制感が働いてしまうと、人間は「やらされてる」と感じて、動きたくなくなってしまいます。正しいんだからやろうよ、という押し付けはよくないんです。

だからこそ、ルールで縛るのではなく、インセンティブの設計が必要。もちろん、睡眠時間が少なかったとしても、罰則はありません。なぜなら、長時間働きたい人もいれば、そもそも働きたくない人がいるように、常に反対の立場の人が存在しますから。やらなければ、お金がもらえないだけ。眠りたくない人の権利は、計測しないことで守られるんです。

ー面白い発想です。労働時間の管理と、狙いは近しいとしても、管理する対象とインセンティブによって、受ける側の印象はガラリと変わりますね。

昨今ブラック企業が話題になったので、企業はこぞって労働時間を減らそうと取り組んでいます。労働時間を管理しなければならないという社会の強い概念は、いつから始まっているか知っていますか。

私なりの考察としては、19世紀末から20世紀にかけて起こったライン生産方式*1による大量生産が始まってからなんですよ。作業員の配置を一連化(ライン化)させて、生産性を第一に追求する中で、労働意識の変化がありました。機械的な仕事のためにやりがいが失われた事で、労働時間の管理が必然的に強まっていったんです。

もちろん今でも、労働時間を管理した方が幸せな職場はあります。ただ、そうでない会社も増えてきています。現代はデバイス*2が発達して、インターネットを使っていつでも仕事ができてしまう時代なので。

どこからが仕事で、仕事ではないのか、プライベートとの境界線が非常に曖昧なのです。仕事も多様化する中で、労働の定義と、管理の仕方は複雑な状況になっています。

また、創造性が価値になっていく現代において、パフォーマンスという仕事の枠組みだけにフォーカスするのでは、的確な対応は難しいと考えます。前述の通り、境界線が曖昧であるからです。

生産性の鍵となる社員一人ひとりの「生きがい」も含めた、人生単位でのテーマにフォーカスを当てていくと、今回のような報酬の形は、社員の安心をつくり、創造性を増幅させるので、むしろ理にかなっているとすら思うんですよ。

企業の存在目的が、「健康」を追求すること。

ー睡眠報酬を導入することで、企業や個人はどのような利点があるのでしょうか。

睡眠不足が続くと、パフォーマンスが低下してしまうので、最低でも6時間という睡眠を確保することは生産性向上に繋がります。また、社員の睡眠状況が分かるので、労災のリスクが軽減するという点もあると思います。

※airweave提供

ートライアル実施をした3ヶ月間では、実際にどのような変化が見られましたか。

睡眠に対する意識調査で、「適切な睡眠をコントロールできているか」「睡眠をとるための方法は知っているか」など、多くの項目でネガティブな回答を選択した人が、トライアル実施前と後では約50%減少しました。エアウィーヴ社の協力のもと、睡眠の基礎知識を学べる「睡眠セミナー」を開催した効果が大きいと思います。

また、トライアルにあたり、エアウィーヴ社からマットレスパットをサポート頂きました。現在は、25名がエアウィーブのマットレスパット使っていて、意識と行動の変化が見られている状況です。生産性や幸福度の検証は、今後に乞うご期待ですね。外部の企業や研究機関と共同研究ができたら嬉しいです。(睡眠報酬に関するお問い合わせはこちら

ーCRAZYは、睡眠報酬や自然食ランチなど、なぜそこまで社員の健康にこだわるのでしょうか。

経営の優先順位の1位が健康なので、企業の存在目的を果たしているんです。WHO憲章の「健康定義」では、「身体的健康」「精神的健康」「社会的健康」という3つにカテゴリ分けがされていますが、CRAZYでは3つそれぞれに独自の制度を導入しています。

将来的には、運動に関する報酬制度も公開予定です。運動と睡眠、両方とも個人の自由で、責任の範囲だとは思います。ですが、不眠や睡眠障害などの問題は少なくありません。健康診断では、大半の人が運動不足と言われています。そんな現状から、議論が進んでいないのが、面白いポイントなのです。

仕事の境界線が曖昧になった今、「それは個人の責任だから」と言って議論を止めてしまうのはもったいない。私たち企業も、考えや制度をアップデートする必要があります。今一度、人間尊重の考えに立ち返り、少しずつでもいいから良い働き方ができるような社会にしていきたいですね。

2018年10月9日に、エアウィーブ社と共同開催した記者会見の様子

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*1 ライン生産方式:ある期間において、単一の製品を大量に製造するための方法。大量生産を行う工場で製品の組み立て工程、作業員の配置を一連化(ライン化)させ、ベルトコンベアなどにより流れてくる機械部品の取り付けや小加工を行う作業である。

*2 デバイス:コンピューターに接続して使うあらゆるハードウェアのこと

写真:小澤 彩聖

水玉綾(@maya_mip)
Aya Mizutama

CRAZY MAGAZINE編集長。フリーランスのライター・編集者。働き方・組織論などのビジネスシーンから、個展やポエミーな文章まで幅広く担当。世の中が美しくなる編集を大切にしている。吉本ばななさんのTUGUMI、ミヒャエル・エンデさんのモモが好き。

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