INTERVIEW

「会いに行く会社」が旅を通じて届ける、本物の価値とは?

いつもと違う景色と、予期せぬ出会い。そんな非日常を楽しむ「旅」。私たちは一体、どんなことを求めて旅に出るのでしょうか。

「会いに行く会社」と謳い、地域を旅して体験できるイベントやツアー、ゲストハウスをプロデュースしている株式会社WHEREの代表・平林和樹さんにインタビューをしました。人々を惹きつける「旅」の魅力、本物の価値とは。

僕たち、本社とかないんです。

― 株式会社WHEREは「会いに行く会社」と謳っていますが、これは一体どういう意味なのでしょうか。

平林氏:日本には「会いに行ける」アイドルはいるけれど、彼女たちは会いに来てはくれないですよね。ですが僕たちは「会いに行く会社」です。それは、本社機能をもたず、企画ごとに地域に数ヶ月住み込んで働くからです。いわば僕たちが行くところがサテライトオフィスになるようなもの。

一般的なツアー会社は、本社が東京にあり、ツアーだけが地域にあることがほとんどです。つまり、分離しているんですよね。ですがWHEREは、東京に本社をかまえるのではなく、地域に実際に移り住んで一緒にツアーの内容を作っていくんですよ。

― それは斬新ですね。平林さんは、地域に移り住んだ際はどのような暮らしをしているのでしょうか。

平林氏:古民家をリノベーションした物件に3ヶ月ほど住まわせてもらったりしていますね。その中で、地域の人の個性的でかっこいい生き方や、伝統工芸品といった普段は触れられない文化を、体験させてもらったりします。

ー 地域に溶け込んでいるのですね。ちなみに、WHEREという旅の事業は、どのようなきっかけから始まったのですか。

本物に触れられる旅は、人のこころを豊かにする

平林氏:カナダの田舎生活を通して、「心の豊かさについて考えるようになったこと」が一番大きなきっかけですね。

思い返せば、僕はカナダに行くまで、社会で正解とされる価値観の中で生きていました。日本一の大企業に入り、良い給料をもらい、大きな影響力をもち、いい家に住んで、いい車に乗る。それが正解だと信じ、仕事をがんばってきたんです。そのおかげで全社MVPを受賞したり特許を取得するような経験もできました。

そんな風に働き続けて4年が経ち、ひたすらがんばり続けることが苦しくなったんです。どれだけ働いても、心の乾きが癒えないような感覚でした。その時にふと「自分がやっていることは人を豊かにしているのか?」という疑問が浮かんだんです。考え出したら止まらなくなってしまって、会社を辞めて一人でカナダに行きました。

― カナダに行ってからはどのような日々でしたか。

平林和樹(Kazuki Hirabayashi) 株式会社WHERE代表取締役 ヤフー株式会社に入社後、フルスタックエンジニアとして全社MVPを受賞。特許も取得。その後単身カナダへ1年間渡航したのち、50社以上の中小企業のITコンサルティングを経て株式会社CRAZYに入社。現在は独立し、株式会社WHEREの代表取締役社長をしている。

平林氏:英語が話せなかったので、入国審査からつまづきましたね(笑)。その後も、不甲斐なさを味わう日々で。思わず、生きている価値はあるのかと考えてしまうくらい、挫折の連続でした。日本では、お金や物など様々なものをある程度得られていましたが、いざこれまでとは違う世界に出てみると、自分はこんなに何もできないんだと。

― 日本を出て世界に行くと、良くも悪くも常識の違いから、これまでの自分のアイデンティティが壊れると言いますが、平林さんもまさしくそれを体験されたのですね。

平林氏:はい。ですが幸いなことに、困っている僕を助けてくれる人にたくさん出会いました。隣の家の方がディナーに誘ってくれたり。何もない田舎暮らしだったけど、心がどんどん穏やかに、優しくなっていったんです。何より彼らは、僕が価値を発揮しているかどうかでは見ていなかった。人として純粋に接してくれていました。

今まで社会で「正解」とされる価値観で生きてきたけど、カナダに行って、人の優しさに触れ、自分の中での新しい豊かさに気づいたんですよね。僕自身がそうであったように、ただの観光ではなく、その地域の文化や人に触れ、つながりが生まれるような旅は、心を豊かにすると思ったんです。そして多くの人の心が豊かになれば、地域活性化にもつながる。

「業者」ではなく「人」として

― 具体的には、どのような旅を体験できるのでしょうか。

平林氏:現地に集合すると1日付き添いで行動してくださる地域の方と合流します。自己紹介をし、お店巡りをしたり、ご好意でおまんじゅうを頂いたり、そのおまんじゅうが生まれた背景を聞かせてもらい地域に対する理解を深めたり。

他にも普段は観光客が行かないような神社に連れて行ってもらい、秘境を訪ねることもしばしば。また、夜ご飯の時間に、地域の方の自宅で定期的にひらかれる「囲炉裏会」に参加することもできます。地域の方が代わる代わる自由に顔を出す、たまり場のような場所で、参加者は自然な形で人と触れ合い、夜が明けるまで楽しそうに語り合い過ごしますね。

WHEREのツアーは様々な地域で行われる。初めまして同士の参加者も、徐々に打ち解け、最後にはお互いの人生の話をするほど深い仲になることもしばしば。

― まるでご友人の紹介に近いような感覚で、自宅もツアー場所になるとは驚きです。それは平林さんが、ツアーのガイドという「業者」ではなく、地域に住んで関係性を築いている「人」としてやっているからこそなのだと感じます。

平林氏:本当にありがたいことですね。他にも急遽地域の方に「ニワトリを放し飼いしている人がいるよ。いく?」と言われてついていくと、本当にニワトリが普通に歩いていたり(笑)。衝撃ですよ。

また、野菜を運ぶ手段として、自分たちでロープウェイを作っている方がいて、野菜ではなく僕たち人を乗せていただいたこともあります(笑)。そんな風に、通常の旅では味わえないようなリアルな部分に触れていただけるのもWHEREならではだと思います。

― パンフレットがあってスケジュールが決まっていて、その通りに進めていくというより、余白に生まれる偶発性もツアーのコンテンツなのですね。今までの中で印象的なツアーを教えてください。

生き様に触れる

平林氏:「めはりずし」という、奈良の郷土料理を作り続けるおばあちゃんとの出会いを組み込んだツアーですね。今や品種改良されたお米が世の中の主流となる中、古代米という原種を自分たちで植え続ける文化がありました。

すごい!と感動していると「それが日常の暮らしだからね」と当たり前のように清々しく話してくれるんです。あまりに自然体で穏やかで。「心地よくてずっとそこにいたかった」という感想を参加者から頂くほど、僕も参加者もみんな表情がどんどん柔らかくなっていったんです。体も心もリラックスする旅でしたね。

― 空気感に癒されたのかもしれないですね。伝統的な文化を「暮らし」として当たり前に受け続けているその生き様から、何か感じるものがありそうです。 WHEREは、今後どのような展開を考えていますか。

平林氏:オリンピックまでに30拠点を構えて、もっと多くの地域と人を繋げていきたいと考えています。外国人が日本に来たときに、本物のおもてなしを伝えられたらいいですね。そして誰もに第二の故郷ができたらいいな。

 

 

終わりに:

都市と地方。どちらが良い、悪いという観点で話されることが多いような気がするこの頃。ですが平林さんは、都市や現代的な暮らしを否定したいわけではない、と話してくれました。都市が、地域が、ではなく、そこにいる人たちの「生き方」が大事だ、と。平林さんが惚れ込んでいる地域では、そんな自分のスタイルをもった、個性的でカッコいい人たちがたくさんいるそうです。だから単なる観光の枠をこえて、密に関われる本物の体験を届けることができるのでしょう。

 

 


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編集:高橋 陽子

水玉綾(@maya_mip)
Aya Mizutama

CRAZY MAGAZINE編集長。フリーランスのライター・編集者。働き方・組織論などのビジネスシーンから、個展やポエミーな文章まで幅広く担当。世の中が美しくなる編集を大切にしている。吉本ばななさんのTUGUMI、ミヒャエル・エンデさんのモモが好き。

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