2017.10.25

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【後編】「サザエさんチェック」に「カルピスの原液」。5名のクリエイティブトークの行方。

株式会社CRAZYから、「変革に寄与する」をキーワードに法人向けのクリエイティブサービスを提供する「CCA(クレイジークリエイティブエージェンシー)」のローンチが発表された。CCAよりクリエイティブディレクターの林が、『新しい時代の「ものづくり」を考える。』をテーマに、クロストークを展開。後編では、「クリエイティブへの思い」に加えて「活動を支える上でのジレンマ」など、会場の参加者も巻き込んで率直な思いが交換された。前編はこちら

イベント実施日
2017年9月25日(月)

登壇者
モデレーター
藤田 卓也氏(Takuya Fujita)コピーライター/株式会社電通
後藤 映則氏(Akinori Goto)アーティスト、デザイナー
山本 侑樹氏(Yuuki Yamamoto)プロダクトデザイナー/株式会社博報堂・YOY
横関 亮太氏(Ryota Yokozeki)プロダクトデザイナー/Ryota Yokozeki Studio
林 隆三(Ryuzo Hayashi)クリエイティブディレクター/株式会社CRAZY

自分の在り方に対して、強く明確な意思がある。

藤田 卓也氏(以下、藤田氏):では、いよいよ今回のセッションのテーマである、「新しい時代のものづくりへの思い」を聞いていきましょうか。

林隆三(以下、林):僕は、空間デザインを表現手段として選んでいるわけですが、直接体験しなくても情報が手に入る時代だけどやっぱり、人は肌で感じるものに感動すると思うんです。時間と感情がそこに存在しているから。例えば小説だったら、本を読むのが得意とか苦手とか色々ありますけど、空間であれば、その場に来てもらえたら、誰にでも体験してもらえます。空間デザインを通じて、「人が感じるもの」を展開していけるといいなと思いますね。

後藤 映則氏(以下、後藤氏):僕は、「デジタルイノベーション× 場づくり」をテーマに、新しい集客創造を目指しているオープンラボに所属しているんですが、いわゆるデザイン系の業界にいない人がキーワードになると思っていて。例えば、個人の作品を展示したときに、9割の人が「いいね」と言ってくれるとします。でも1割は、「もっとこうした方がいいんじゃない?」といった意見だったりする。その1割というのが、クリエイティブから離れている年配の主婦の方だったりするんです。

同業界の人の意見だけを聞いていると、同じようなスパイラルの中で高めていくようなイメージですけど、異分野の人に触れると、違う方向や高さでジャンプできる感覚があります。固定概念があるとしたら、それは壊していかないと。それこそがアートの力だと思っていますね。

山本 侑樹氏(以下、山本氏):僕は「誰も見たことがない表現」と言っても、何作品もつくって発表していくと「YOYはこういうテイストなんだな」という見方が出てくると思っていて。だからこそ、そういう流れは、自分たちで壊すようにしています。細かく見てもらわないとわからないかもしれませんが、自分たちとしては、明確に流れを変えているんです。デザインしている人のカラーが世間に認知されて、そういうテイストで仕事の依頼は来たりするものですが、裏切っていきたいんですよね。

藤田氏:あえて裏切っていくということですね。しかし、改めてお話聞きながら思いますが、なんていうか、経歴を紹介しにくい皆さんですね(笑)。

後藤氏:そうですね(笑)。僕は本業が会社員なのかアート活動なのか、わかりにくいかもしれません。でも、これからはもっと垣根がなくなっていくんじゃないかと思いますね。アーティストが本業で副業が会社員ってこともあり得るのかなと思います。

山本氏:会社員をしていとしても、個人活動をしている方が、キャラクターが立つ。個人活動を知ってもらった上で、●●さんは◯◯社にいるらしいよというような話になるというか。

こちらも合わせてどうぞ:ワーケーションで、旅してるのに出勤扱い。企業勤めもノマド化の時代です。

YOUTUBEに夜の散歩、ラジオにTwitter。四者四様の世界の広げ方。

藤田氏:会社での活動と個人での活動の様子を聞いていると、ともかく皆さん多忙ですが、どんな風にインプットしているんでしょうか。もし意識していることがあれば。

:意識しているというか、もう癖みたいなものなんですけど(笑)、YOUTUBEでミュージックビデオをよく見てますね。メンバーに遊んでると思われないように、「仕事だから!」って言い訳しながら(笑)。もともと映像が好きなので、映像からヒントを得ています。

後藤氏:今は、SNSをはじめデジタルツールが盛んですけど、僕自身はリアルなものを大事にしています。自宅の周辺が住宅街なんですけど、夜歩き回るんですよ(笑)。これは、すごく面白い。普通に歩いているだけで、喧嘩している声や笑い声、夕ご飯の匂いとか、色んなものに触れられるんです。テレビじゃなくてこのリアルな世界を感じるのが良くて。好きです、夜の住宅街。

藤田氏:想像をはるかに超える回答が出てきますね(笑)。面白いなぁ、夜の住宅街ですか。横関さんはどうですか。

横関亮太氏(以下、横関氏):僕は散歩ですかねぇ。後は、最近だとラジオ。もともとオールナイトニッポンが好きなんですけど。それ以外は、作家の朝井リョウさんがやっているラジオ「ヨブンのこと」とか。「桐島、部活やめるってよ」を書かれている方なんですけど、斜に構えていて独特の解釈で(笑)。僕が持っていないアプローチ・アンテナなので、新鮮なんです。言葉のチョイスを含めて面白くて、よく聴いています。

山本氏:インプットではないですけど、インターネットで、デザインのポータルサイトは見ますね。ただ、プロダクトそのものやデザインを見たいわけじゃなくて、風景とかインスタレーションを見ます。壁や床みたいな要素だけを切り取って、自分が椅子をデザインするときに、その要素を混ぜていく感じですね。

藤田氏:当たり前かもしれませんが、プロダクトデザイナーだからといって、皆さんインプットの仕方が同じではないんですねぇ。

山本氏:改めて皆さんの話を聞いて、自分がインプットできてるか不安になってきたな(笑)。ちなみに僕、ツイッターはやってますよ。ネットスラングを完全に心得てるレベルで。「りょ!(=了解)」とか「ま(=まじ)」とか(笑)。自分の知らないところで世界は広がっているので、そこに触れて自分の世界に落とし込んでいくことはやっていますね。

藤田氏:「時代の空気を一番先に捉えるのは言葉だ」なんて言われたりしますもんね。ファッションとか他のジャンルじゃない。会話の情報が最も早くて、世の中の空気が取り込まれていく。だから言葉っていうのは大事なポイントなのかもしれませんよね。山本さんを持ち上げるわけじゃないですけどね(笑)。さて、大変盛り上がってしまって時間があまりないですが、会場からの質問を受け付けましょうか。

難しさは要らない。誰にでも分かることの価値。

質問者:僕は、フランス革命時代の洋服が好きでコレクションしているんですが、それだけだと、一部のマニアックな人としか感動はシェアできない。一般の人にどう伝えるのかと考えて、標本にして展示するという方法を選びました。自分が感動した原点を見つけ出したくて標本にしたんですが、皆さんは自分の感動といった価値をどんな風に共有されているのでしょうか。

山本氏:ふたつあります。ひとつは、先ほどから「誰も見たことのない表現」と言っていますが、ひと目見たらわかるというものをつくること。僕たちの展示はイタリアで見てもらうことが多いですが、特定の人ではなく、子どもからおじいちゃん・おばあちゃんまで、家族で見てくれるんですよ。パッと見て反応できるような、すべての人にわかるデザインにしています。

もうひとつは、アートをつくっているわけじゃないということ。商品になり得る作品しかつくらない。買ってもらって、使ってもらえるもの。だからこそシンプルに。それに、複雑にすると商品開発が難しくなり、時間がかかるので、海外メーカーにはウケないんですよね。

藤田氏:僕は普段広告の仕事をしているんですが、広告業界では「サザエさんチェック」なんて言ったりしますね。自分の企画は、老若男女が揃うサザエさん一家にプレゼンをしてウケるのかどうかを考えるという意味です。

山本氏:デザインは頭でっかちになるので、誰にも分かりやすくすることは、大事な観点ですね。

納期とクオリティ、自分の気持ちのバランス。永遠のテーマへの答え。

質問者:デザインを突き詰めることに終わりはなくて、悩みどころだなと思っています。とは言え納期は設定されていて、折り合いをつけるのが難しいという気持ちもあって。みなさんそのあたりはどうお考えでしょうか。

藤田氏:納期・クオリティ・自分の気持ちのバランスですね。これは共通して思うところがありそうなテーマです。

山本氏:悩みが尽きないテーマですよね。僕の場合は、今回の仕事におけるゴールを明確にして、覚悟を決め、自分を納得させてからスタートしています。そこを最初に握れていれば、モチベーション高く完成まで走れるんです。もちろん、それでも大満足とはいかないことばかりですけど。だからこそ、徹夜して納得いくまでやり遂げるという個人の活動で、その満足できない気持ちを解消しているとも言えますけどね。

横関氏:僕は、自分なりの納期を早めに設定していますね。クオリティを上げるために時間をかければいいのかというと、そうとも限らないと思っていて。スピードも含めて、自分のクオリティであり自分の能力だから。なので、スピードをどれだけ上げられるかということも考えます。デザインを描く必要がない場面では、描かずにコミュニケーションで担保しますし。そういうことでも時短にはつながります。

林氏:生産性・効率というテクニカルな話はありますよね。ただ、作品だけではなくつくり手である自分も含めて商品だと思うんですよ。だからこそ、つくり手がどういうスタンスであるかがとても大事。きりはないので、自信を持って最高のものだと提供するという在り方ですよね。

後藤氏:これは悩みますよね。完成したものを見て、もっとできると思う気持ちは常に残り続ける。残るからこそ、次の作品をつくる意欲も続いていく。完璧にできたと思う日が来たら、燃え尽きてしまうかもしれないですし。だからこそ、もっとできたのにという気持ちをポジティブに捉えることもできるかなと思います。

コンセプチュアルであれば、ビジネスにする方法は必ず存在する。

参加者:コンセプチュアルじゃないと響かないとはいえ、尖りすぎると、ビジネススケールが小さくなりがちだなと思います。クリエイションとビジネスのバランスはどうお考えでしょうか。

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:ビジネスという側面で言えば、「目的」と「社会に提供したい価値は何か」が重要だと思っていて。自分がつくりたいものだけをつくることは、どうしても難しい。自分が提供する社会的価値が、プロダクトやサービスに反映されていて、それを買う人がいるからビジネスになるのであって。

横関氏:コンセプトは尖っていてよくて、それをどう裾野に広げるかだと思うんです。ハイブランドは、バッグもつくるしキーホルダーもつくったりします。それは、バッグを手にすることができないけれど、キーホルダーは買えるという人のためのラインナップでもありますよね。

藤田氏:カルピスの原液の話にも通じますね。原液(つまりここで言うコンセプト)がしっかりとつくれていれば、濃さはいかようにでも変えて飲めるというものです。しかし今日は、僕たちの話しだけではなくいい質問をたくさんいただいて、大変充実した時間になりました。まだまだ話し足りないですが、今日はここまでとさせていただきます。本日はありがとうございました。

(END)

「デザインには魔法のような力がある」。そう感じます。
地方に眠るよい素材が、多くの人の目に触れる素敵なプロダクトに変身する。
特定の人にだけウケる難解なものではなく、誰しもがひと目見てわかるプロダクトにできる。
固定概念を壊し、周囲の想定を裏切っていきたいと話す皆さんが、次にどんな魔法を見せてくれるのか。
同じ時代に生きて、皆さんから生み出されるクリエーションを目にすることができる幸福を感じる2時間でした。


CRAZY CRAZY WEDDING IWAI OMOTESANDO BENE