何かしらの理由で、結婚式を諦めようと考える人は少なくありません。費用の不安や家族との関係、身体的な事情、理由はさまざまです。
リョウさんとマユさんもそうでした。耳の聴こえないおふたりは「自分たちには難しい」と結婚式を諦めようとしていたそうです。
そんなふたりが訪れたのが、IWAI OMOTESANDO。「諦める理由」を見つけて納得するために足を運んだ会場見学で、不安や本音を話すうちに気づきました。
「本当は、それでも結婚式をしたい」
そして、勇気を出して結婚式をすると決めたふたり。その選択の先に待っていたのは、どんな景色だったのでしょうか。
今回は、リョウさんとマユさんにその歩みを伺いました。
結婚式は挙げたい。でも、みんなに負担をかけず楽しんでもらえるだろうか?
―まずは、おふたりの結婚が決まったとき、結婚式についてはどのように考えていたか教えてください。
リョウさん:僕は、結婚式を“やりたい派”でした。これまで育ててくれた両親に感謝の気持ちを伝え、晴れ姿を見せて親孝行したい、と思っていたんです。
一方で「僕たちでも結婚式ができるだろうか」という不安もありました。僕たちは、ふたりとも耳がほとんど聴こえません。だから、スタッフの方とのコミュニケーションが難しいと思っていました。結婚式は挙げたいけれど、自分たちが結婚式を挙げているイメージは湧かない、という感じでしたね。

マユさん:私も結婚式への憧れはありましたが、最初は「やりたくない」という気持ちのほうが強くて…。一番の理由は、リョウと同じく「結婚式をするイメージができなかった」からです。
私たちの結婚式に招きたいゲストの多くは耳の聴こえない人たちで、日常生活では手話を使って過ごしています。一方で、両親や家族は聴者(聴覚に障害のない人)で、手話での会話には慣れていません。
耳の聴こえないゲストはBGMや音声での進行に気づきにくく、逆に両親や親族は手話での進行や会話が理解できません。どちらかに寄り添えば、どちらかが楽しめなくなってしまうのではないか。そんな不安を抱えていました。
全員に楽しんでほしいと思うと「手話が見える座席配置にできるか?」「聴覚障害者のゲストと聴者のスタッフの方とのコミュニケーションはどうするか?」など、通常の結婚式では考えなくていいようなことまで次々に不安が浮かんできました。
「配慮が足りず、ゲストに負担をかけてしまうかもしれない」「配慮が多くなると、会場のコンセプトや雰囲気が壊れてしまうかもしれない」そんなことを考えるうちに、私たちには難しいだろうなという気持ちの方が強くなって、やりたくないと思うようになっていました。
―それでも心のどこかで、結婚式への憧れはあったのですね。
マユさん:そうなんです。だからリョウと「挙げるかどうかはわからないけど、もしやるとしたらどんな会場がいいんだろう?」なんて話して。SNSでいろんな結婚式場を検索していく中で、ふたりとも特に気になったのがIWAI OMOTESANDOでした。

「やっぱり、私たちには無理だったね」諦めるために参加した会場見学
―IWAI OMOTESANDOの、どんなところが気になったのでしょうか?
リョウさん:まず、外観にすごく惹かれました。僕はあんまり目立ったり、人前に立ったりするのが得意じゃなくて。だから、IWAI OMOTESANDOの落ち着いた雰囲気を見て「ここなら僕たちらしい結婚式が挙げられそう」と思いました。
マユさん:コンクリート調のモダンでシックな建築と、生命力を感じる植物に私は一目惚れしました。「結婚式はやりたくない」と思っていたのに、気づけば「結婚式を挙げるならここがいい!」って思っていたんです(笑)。それで、見学にだけ行くことにしました。


―気になる会場を見つけたことで、結婚式に対して前向きな気持ちが芽生えてきたのですね。
マユさん:いえ、その時点ではまだ後ろ向きな気持ちの方が強くて…。どちらかというと、結婚式を諦めるために見学へ行くことにしたんです。
―結婚式を諦めるために見学に行った、とはどういうことでしょうか?
マユさん:現実的な話を聞けば「やっぱり、私たちに結婚式は無理だったね」と納得して諦められると思いました。
私たちのように何らかの障がいを持つ人は、日常生活の中で“諦める”場面にも少なからず遭遇することがあります。聴者には当たり前にできることでも、私たちには難しいことがたくさんあって、そのたびに周りの方にお願いをしなければならない。応じていただくのが難しく、“諦める”ことになる場面も多々あります。
結婚式でも、それは避けられないと思いました。ゲストや会場に負担をかけることになってしまったら「みんなに楽しんでほしい」「会場の素敵な雰囲気を壊したくない」という私たちの本意から外れてしまう。だったら、最初から結婚式をしなくていい。そういう意味で「やりたくない」と思っていたんです。
でも、IWAI OMOTESANDOの写真を見て、まだ結婚式に憧れを感じてる自分がいることに気づいてしまって…。見学に行って「それは難しいですよ」とプロから言ってもらうことで、きっぱり諦めようと思ったんです。

―実際にIWAI OMOTESANDOの相談会に訪れて、どうでしたか?
リョウさん:僕たちの想いを、正直に伝えました。そしたら「聴こえないことを理由に、結婚式を諦めてほしくない」と言ってくれて。さらに「手話がみんなに見えるように、こんなテーブルの配置はどうですか?」「手話通訳の方を呼ぶこともできますよ」など、僕たちの不安を一つひとつ丁寧に解消してくれたんです。
マユさん:
絶対に難しいと思っていたので、予想外の返答でびっくりしました。諦めるつもりで行ったとはいえ、迷わず「できます」と言ってもらったときは嬉しかったです。「聴こえないことを理由に、結婚式を諦めてほしくない」という言葉はとても印象深くて、今もずっと覚えています。いろんな提案をしていただき、不安が少しずつ解消されていって、リョウはもう「ここで結婚式やろうよ!」ってノリノリになっていました(笑)
でも、私はまだ一歩が踏み出せなくて。一度持ち帰って、私たちと同じ聴覚障害者で、結婚式を挙げた友人に相談することにしました。
―ご友人は、なんと言ったのでしょうか?
マユさん:「悩んでいるなら、やった方が後悔しないんじゃない?私は結婚式をやってよかったと思っているよ」と言ってくれました。見学に行って「もしかしたら、私たちでも結婚式ができるかもしれない」と思えたからこそ、友人の言葉に背中を押されたんです。
諦めるためにIWAI OMOTESANDOに行ったつもりが、その日の夜には「ここで結婚式を挙げたいです」と、担当してくれた方に連絡をしていました。

私たちに「諦めなくていい」と教えてくれた場所
―実際に準備が始まってからは、どうやって不安を解消していったのでしょうか?
マユさん:結婚式をやるとは決めたものの、準備が始まっても不安だらけで。実際に「あれもこれも気をつけなきゃ」と、普通の人よりもお願いすることが多かったと思います。だから最初は「皆さんに負担をかけすぎていないかな」「会場の雰囲気に影響しないかな」と不安でした。
リョウさん:普通の結婚式なら気にしなくていいことも、僕たちの場合は相談しないといけないことが多くて。会場のレイアウト一つとっても、みんなに手話が見えるよう、座席の配置とか、照明の明るさとか、本当に細かいところまで調整をお願いしました。
他にも、ゲストの中には「自分は聴覚障害者だけど、子どもは聴者」という人もいて。子どもが騒いだり、どこかに行こうとしたりしたら、普通は音や声で気づきますよね。でも、耳の聴こえない人の場合は、子どもの状況を目で確認するしかありません。結婚式の間ずっと子どもを見ていなければならないとなると、落ち着いて楽しめないんですよね。
そんな懸念があって、担当プロデューサーの吉川さんにキッズスペースを用意できないか相談したら「当日はスタッフも配置しましょう!」と提案してもらいました。
僕たちの不安一つひとつに向き合い、吉川さんをはじめ皆さんが一緒に考えてくれて本当にありがたかったです。
マユさん:吉川さんからも「耳の聴こえないゲストが困らないよう、パーティー会場内だけでなく受付にも通訳の方を配置しましょう」「わかりやすい看板も準備しましょう」など、私たちがお願いしたことに限らずいろんな提案をしてくれて。
いい結婚式にしたいと思ってくれてることが伝わってきて、不安な点を相談することが少しずつ怖くなくなっていきました。

―丁寧に準備を重ねてきて、式当日が近づいてきた時はどんな気持ちでしたか?
マユさん:実は、結婚式の日が近づくにつれて、私の心配性が出ちゃって…。いくら入念に打ち合わせを重ねても「当日ちゃんとコミュニケーションがとれるかな?」「ゲストのみんなに負担をかけないかな?」といつまでも不安で。
不安点を事前に解消できるよう、思い切って吉川さんにお願いして、当日の会場を実際に再現した場を設けていただくことにしました。テーブルの配置、照明の明るさ、BGMの音量はもちろん、手話通訳士の方も呼んで、細かい部分を確認しながら打ち合わせを重ねました。
そのおかげで、実際に手話が見えやすいか、聴者も会場の雰囲気を楽しめるか、事前に細かくチェックできて、安心して結婚式本番を迎えることができました。

―準備を通じて、おふたりの気持ちに変化はありましたか?
マユさん:最初はずっと「全員に楽しんでもらえるかな」「家族とゲストの間で距離ができてしまわないかな」とばかり思っていました。
でも、不安を漏らすたび「ふたりらしい結婚式にしましょうね」と吉川さんが何度も笑顔で言ってくれて。そんなやりとりを重ねるうちに、自分の中で「私たちだって結婚式を挙げていいんだ」という気持ちが少しずつ大きくなっていきました。
私たちらしさを大切にしてもらえる。そう感じられたことが、すごく心強かったです。

―結婚式の準備を進める中で、印象的だった出来事や気づきはどんなものでしたか?
マユさん:IWAI OMOTESANDOでは、ふたりらしい結婚式をつくるために「なぜ結婚式をしたいのか」「これまでどんな人生を歩んできたのか」を深掘りする時間があります。私にとっては、そのプロセスが自分を見つめ直す大切な時間になりました。
「私ってこんなことを考えながら生きてきたんだ」って、初めて気づくことがたくさんあって。
実は私、母とは長い間ぎくしゃくしていた時期があったんです。お互いに言いたいことがあるのに、なんとなくそのままにしてしまっていて…。でも、自分の人生を整理していく中で「あの時お母さんがしてくれたことって、あれもこれも私のためだったんだな」って素直に思えるようになりました。
リョウさん:僕も、家族に対する気持ちに変化がありました。
高校生の頃から親元を離れて暮らしていたので、これまでは家族のことを深く考える機会があまりなかったんです。けれど結婚式の準備を進める中で「僕にとって家族はとても大きくて大切な存在なんだ」とあらためて気づきました。
聴こえる人と聴こえない人が溶け合った結婚式
―そして迎えた結婚式当日。どんな1日になったのでしょうか?
マユさん:あんなに不安だったのが嘘みたいに、とにかく楽しい一日でした。みんなが楽しめるよう、誰も置いていかれないよう、たくさん検証して、アイディアを出して、それがちゃんと形になっていたんです。
聴こえる人と聴こえない人が同じ体験をするのは難しいだろうと思っていたけど、そんなことなかった。私たちの結婚式がそれを証明してくれました。
「難しいかも」「きっと無理だろう」最初からそう決めつけて、今までどれだけのことを諦めてきたんだろう。少し後悔してしまうくらい、私にとっては信じられない光景だったんです。


リョウさん:「ゲストとの距離が近く、みんなで楽しめる結婚式にできたらいいな」と思っていたけど、当日はそのイメージをはるかに超えていました。
気づけばゲストとスタッフが楽しそうに話していたり、一緒に笑い合っていたり。他のテーブルでは、通訳の方が間に入ってみんなで会話を楽しんでいたり。通訳の方がいなくても、筆談や身振り手振りで会話を楽しんでいるテーブルもあって。
そんな光景を眺めながら、いろいろ不安もあったけど諦めなくてよかったと思えました。
マユさん:初めて会ったはずの家族とゲストが楽しそうに会話してる様子を見た時は、本当に嬉しかったですね。
写真を見返していたら、スタッフさんと私の友だちがスケッチブックで筆談してる様子が写っていて。「何を話していたの?」と聞いたら「好きなお酒の話で盛り上がった」って(笑)。
最低限のやり取りができれば十分だと思っていたのに、聴こえる人も聴こえない人も関係なく、こんなふうに笑い合っていたなんて。


―まさに「みんなが楽しめる結婚式」ができたのですね。おふたりの中で、結婚式で特に印象に残っているエピソードはありますか?
マユさん:両親とのファーストミートの時間ですかね。「絶対に泣かない」って決めていたのに、これまでの想いとともに、自然と涙が出てしまって。自分でもびっくりするくらい、素直に気持ちを伝えることができたんです。
リョウさん:僕もファーストミートかもしれません。普段はあまり感情を表に出さないタイプなんですけど、両親を前にしたら、今まで言えずにいた感謝の気持ちが自然と溢れ出てきたんです。マユに「あんなにしゃべってるリョウ、初めて見た」と言われました。結婚式の準備の中で、家族への想いに気づくことができてよかったと思いました。
マユさん:結婚式を終えてからまだ両親とは直接会えていないんですけど、父から連絡があって。私たちの結婚式のエンドロールムービーを、何度も見返しているみたいです(笑)。
今までそんなことする人ではなかったので「あのお父さんが?」とびっくりして。でも同時に「お父さんにとっても私たちの結婚式は、すごく特別で嬉しいことだったんだな」って、嬉しくなりました。
リョウさん:僕は、両親との連絡が増えました。今までは何か用事がある時だけだったんですけど、最近は「今日はこんなことがあったよ」って、日常の些細なことも連絡するようになって。そうしたら、両親もすごく喜んでくれるし、僕も嬉しいんです。結婚式を通して、家族との向き合い方が変わったなって思います。


マユさん:お色直しの時間も、すごく印象に残っているんです。
担当してくれたヘアメイクさんは、ご両親が聴覚障害者でご自身も手話ができる方でした。おかげでお色直しの時間は、吉川さん、カメラマンさん、スタッフさん、その場にいたみんなで会話を楽しみながら過ごすことができました。ヘアメイクさんは「手話を活かして誰かの幸せを一緒に作りたいと始めた仕事だから、今日は自分の夢も叶って嬉しい」と言ってくれていて。
あと、カメラマンさんがエンドロールに字幕を入れてくれたことも。おかげで、会場にいる全員が同じように最後まで結婚式を楽しむことができました。
とにかく結婚式に関わってくれた全員が「今日を最高の一日にしよう」と思ってくれてることが伝わってきて、とても感動しました。本当に結婚式を諦めないでよかったなと思います。
聴こえる人と聴こえない人。お互いの環境や背景は違うけれど、ともに生きていくことはできる。結婚式を通して、今はそう感じています。

1%でもやりたい気持ちがあるなら、諦めないでほしい
―最後に、おふたりのように何らかの理由で結婚式を諦めようと考えている方に向けて、メッセージをお願いします。
リョウさん:僕は「やってみたらいいんじゃない?」と伝えたいです。もちろん、決めるのはその人自身だし、やらないというのも一つの選択だと思います。でも、悩んでいるのは本当は「やりたい」気持ちがあるからだと思うんです。最終的にどうするかは別として、少しでもその気持ちがあるなら、向き合ってみるのもいいんじゃないかな、って。
準備はたしかに大変だったけど「こんなにたくさんの人に支えられて生きているんだ」って、自分たちの可能性も信じられるようになりましたし、周りの人たちに今まで言えてなかった感謝も伝えられた。結婚式を挙げてよかったなって、心から思っています。
マユさん:長い間、聴覚障害のある私たちは「結婚式を諦めなければならない」と思っていました。でも、本当はそうじゃなくて「諦めることに慣れてしまっていた」だけなんですよね。傷つかないために、自分を守る手段として「諦めることを選択してきた」と気がつきました。
結婚式も、本当はやりたいのに諦める方が楽だから「やりたくない」と思っていた。今思うのは、諦める理由を探すのは簡単だけど、その前に一歩踏み出してみることも大切だなって。
無責任に「絶対やった方がいい!」とは言えません。でも、もし1%でも「やりたいな」って気持ちがあるなら、一歩踏み出してみると何かが変わるかもしれません。私たちの結婚式が、そんな誰かの背中を押すきっかけになれたらとても嬉しく思います。

編集後記
生きていく中で、ときに「諦めないこと」よりも「諦めること」のほうが、ずっと自然で、楽に感じられる瞬間もあります。それは弱さではなく、自分を守るための大切な手段でもあるはずです。
けれど、リョウさんとマユさんは、その先に残っていた小さな「やりたい」という気持ちを見逃さず、もう一度向き合うことを選びました。
そして、その勇気が、ふたりにとって新しい景色をひらいた。
結婚式という一日には、人生を映し出すような力があるのだと感じました。
この物語が、選択に迷う誰かにとって、自分の気持ちを信じてみようと思える小さなきっかけになればと思います。
夜久
企画・編集:夜久早紀
執筆:仲奈々
撮影(一部):kuppography
デザイン:林隆三
